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デイリーメイカーズ  作者: 加島神楽
3/9

1-3 デイリーメイカーズ

 この作品はあくまでフィンクションです。

 実際に存在する人物、団体、国家、事件、その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。



「僕だってみんなと一緒にいたいよ!!みんなと笑っていたいよ!!でもそうしたら、みんな死んじゃうんだよ!!僕の両親は九歳の時に、事故で亡くなった。小学校の頃の親友も、通り魔に刺されて死んじゃった。中学の頃のクラスメイトは、僕が休んだ学年旅行でみんな死んだ。僕と仲良くした人は……みんな死んじゃったんだよ!!」


 この学校に引っ越してきた理由も、僕以外のクラスメイトが全員亡くなってしまったから。

 いわば、やっかい払いのような形でここへ来たのだ。


「…………」


 屋上が沈黙に支配される。

 さすがに、誰も声が出せなかったようだ。

 今更になって、後悔の念が押し寄せてくる。言う必要はあったのかと。

 そうして数分、その沈黙を破ったのは直枝だった。


「僕の両親もね……もう死んでいるんだ」

「えっ……」

「君より少し後の、十歳の頃に。ぼくもね……そのときは一人、家の中に引きこもった。家中のカーテンを閉め、暗い部屋の隅、ずっと親の写真を見つめていたんだ。そのときの僕は、何もかもに絶望していた。けど、その状態から救ってくれたのが一也たちだったんだ」

「ここからは俺が代わろう。俺はあの日、ふとした噂を聞いたんだ。両親を亡くした少年の話を。俺は最初、興味本位でそこを訪ねた。その頃、俺は両親のことが嫌いだったからな。その両親を失うとどうなるのか、興味があったんだろうな」



~side-kazuya~


(ここがその部屋だな)


 俺はその扉を開け、中に入る。

 その部屋はベランダに面している、リビングのような部屋だった。


(だれもいないのか……?)


 周りを見回してみる。はじめは見つからなかったが、よく見てみると……


(うおっ……!!)


 部屋の片隅に佇む少年を見つけた。

 その少年は全くこちらに気づいていないどころか、何も見えていないように見えた。

 その目には色が無く、呼吸をするのも忘れているかのようだ。


(こんなにもなっちまうもんなのか……)


 そのとき、俺は激しい後悔に襲われた。

 目の前で絶望を抱いている少年を、興味本位なんかで見に来てしまった自分に。

 そして、


(こいつを俺は……助けてやりたい)


 俺はそう思った。



~side change-riku~



 僕はあの日も一人、部屋の隅に佇んでいた。

 ここ数日ろくな物も食べていなかったが、そんなことはどうでも良かった。

 両親が死んだ……もう戻ってくることはない……。

 僕の心は、空っぽになっていた。


(ドンドン……ドンドン……)


 ベランダの窓を叩く音が聞こえる。


(後見人の人かな?)


 僕はベランダの方へと、ふらつく足を進めた。

 冷静に考えれば、後見人の人が窓から来るわけがないとわかっただろう。

 けれど僕には、こんなことを理解する余裕すら無かったのだ。

 だがそれが……その判断が、僕の運命を大きく変える。


 ベランダのカーテンを開ける。

 久しぶりの日光の光に、僕は思わず目をつぶってしまう。

 だがそのとき、部屋に写る影を見て外に誰か行ることに気づく。その方向を見てみると……



 窓に男の子が張り付いていた。


(うわっ!!)


 僕は驚き、思わず後ろに倒れてしまう。

 窓に張り付いていた男の子は、僕がいることに気づいたのか、しきりに何かを言ってくる。


(こ・こ・を・あ・け・て・く・れ?)


 僕は、言われたとおり窓を開けた。


「ふうー。ようやく気づいてくれたな」

「……誰?」

「俺か?俺は風上一也だ。そんなことより、お前の力が必要なんだ」

「僕の……?」

「ああ、そうだ。というわけで、一緒に来てくれ!!」

「えっ……でも……」

「大丈夫だ。何も心配はいらない。お前は俺に……いや、俺たちについてきてくれれば良いだけだ」

「俺……"たち"?」

「そうだ。向こうに俺の仲間がいる。みんなもお前を待っている。だから一緒にいこう。またもう一度、外の世界へ!!」


 初めて会う人だったけど、僕はなんだかこの人ならきっと、僕のことを救ってくれる。

 そんな風に思った僕は……


「……うん。いくよ」

「よし!じゃあみんなのところへ行こう!!」


 一也に、ついていくことにしたんだ。


「そのまえに……僕おなかが空いたよ」

「ははっ。じゃあまずは腹ごなしからだな!」

「……うん!」



~side return~


「あの時、僕は一也に救ってもらったんだ。両親を亡くし、絶望の淵にいた僕をね」


 …………言葉じゃ表せないほどの驚きを覚えた。

 こんなにも楽しそうな人たちの過去に、そんなことがあったなんて思いも寄らなかった。


「咲夜くんの悲しみは、きっともっと深いんだと思う。けれど咲夜くんは、僕とは違って現実に絶望していない。きっと君の中に、何か支えになる物があったんだよね?」


 ……そうだ。


「僕も何度も絶望しかけた。けれど……僕にはこれが……ギターがあったからこそ、絶望せずにいられたんだ。僕にはギターだけが、唯一消えずにすんだ物だから」


 そう……逆にいえば……僕にはもう、これしかないんだ。



「ならば。俺たちが次の挑戦者ってところかな」

「そーだな。あたしたちはそーなるのかな」

「……えっ?」

「何度も言っているだろう。俺たちはお前を、勧誘しにきたって」

「うん。僕たちはいくつもの困難を乗り越えてきてるんだ。……あの時だって」

「でも……また……」

「空き教室からロープで屋上くるような連中が、そんなに簡単に死ぬと思ってるの?」

「…………」

「いいのよ。無理しなくても。もっと頼りなさい。もっと自己中心的に行きなさい。何が事故よ!どーんと来いよ!!」

「いやいや、きちゃダメでしょ」

「そういう気分ってことよ、陸くん」


 ……本当にいいのだろうか。

 ほんとうにまた、人と時間を共有してもいいのだろうか。

 僕がそう思っていると、それを見透かしたかのように、風上がいった。


「俺たちは決して同情や哀れみなんかで誘ってるじゃない。ただお前といると、すげー楽しそうだからさ。だから咲夜、一緒に行こう。もう一度……外の世界へ!!」


 風上が、僕に手をさしのべる。

 周りで四人が頷き、僕に手をさしのべている。

 僕は……



「……うん!よろしくね……みんな!!」


 その手をとって、また歩み出すことにした。

 五人は大きく頷いた後、大きな声で笑いだした。僕もたまらず、みんなと笑いあった。

 丁度そのとき、昼休み終了のチャイムが鳴った。


「……ねえ、もうみんなでさぼっちゃわない?」

「おっ、いい事言うじゃねーか、咲夜!」

「そうね咲夜くん!もうここで野球しましょう!!」

「野球か!!おっしゃー、きたあああ!!」

「まあいいんじゃないか?」

「いやいや、無理だって」

「傘がバットで新聞紙丸めたのボールでならいけるよ!」

「咲夜くんもなんでそんなノリノリなのさ!?」



 ……最高にうれしかった。

 青空の下、またこんな風に騒げる日が来たことが。

 渇望していた日常を、青春を、与えてくれたこの人たちには、感謝の気持ちでいっぱいだった。

 …………そういえば


「ねえ、かざ……一也!!」

「どうした?」

「君たちは……いや、僕たちは何者なの?」

「おっと、言ってなかったな。……そういや、あん時もそう聞かれたんだっけ」



『ねえ、一也くん。君たちはいったい何者なの?』

『俺たちか……そうだな。俺たちは、日常を楽しむためにある集団、人呼んで……』



『「デイリーメイカーズだ!!」』


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