1-3 デイリーメイカーズ
この作品はあくまでフィンクションです。
実際に存在する人物、団体、国家、事件、その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。
「僕だってみんなと一緒にいたいよ!!みんなと笑っていたいよ!!でもそうしたら、みんな死んじゃうんだよ!!僕の両親は九歳の時に、事故で亡くなった。小学校の頃の親友も、通り魔に刺されて死んじゃった。中学の頃のクラスメイトは、僕が休んだ学年旅行でみんな死んだ。僕と仲良くした人は……みんな死んじゃったんだよ!!」
この学校に引っ越してきた理由も、僕以外のクラスメイトが全員亡くなってしまったから。
いわば、やっかい払いのような形でここへ来たのだ。
「…………」
屋上が沈黙に支配される。
さすがに、誰も声が出せなかったようだ。
今更になって、後悔の念が押し寄せてくる。言う必要はあったのかと。
そうして数分、その沈黙を破ったのは直枝だった。
「僕の両親もね……もう死んでいるんだ」
「えっ……」
「君より少し後の、十歳の頃に。ぼくもね……そのときは一人、家の中に引きこもった。家中のカーテンを閉め、暗い部屋の隅、ずっと親の写真を見つめていたんだ。そのときの僕は、何もかもに絶望していた。けど、その状態から救ってくれたのが一也たちだったんだ」
「ここからは俺が代わろう。俺はあの日、ふとした噂を聞いたんだ。両親を亡くした少年の話を。俺は最初、興味本位でそこを訪ねた。その頃、俺は両親のことが嫌いだったからな。その両親を失うとどうなるのか、興味があったんだろうな」
~side-kazuya~
(ここがその部屋だな)
俺はその扉を開け、中に入る。
その部屋はベランダに面している、リビングのような部屋だった。
(だれもいないのか……?)
周りを見回してみる。はじめは見つからなかったが、よく見てみると……
(うおっ……!!)
部屋の片隅に佇む少年を見つけた。
その少年は全くこちらに気づいていないどころか、何も見えていないように見えた。
その目には色が無く、呼吸をするのも忘れているかのようだ。
(こんなにもなっちまうもんなのか……)
そのとき、俺は激しい後悔に襲われた。
目の前で絶望を抱いている少年を、興味本位なんかで見に来てしまった自分に。
そして、
(こいつを俺は……助けてやりたい)
俺はそう思った。
~side change-riku~
僕はあの日も一人、部屋の隅に佇んでいた。
ここ数日ろくな物も食べていなかったが、そんなことはどうでも良かった。
両親が死んだ……もう戻ってくることはない……。
僕の心は、空っぽになっていた。
(ドンドン……ドンドン……)
ベランダの窓を叩く音が聞こえる。
(後見人の人かな?)
僕はベランダの方へと、ふらつく足を進めた。
冷静に考えれば、後見人の人が窓から来るわけがないとわかっただろう。
けれど僕には、こんなことを理解する余裕すら無かったのだ。
だがそれが……その判断が、僕の運命を大きく変える。
ベランダのカーテンを開ける。
久しぶりの日光の光に、僕は思わず目をつぶってしまう。
だがそのとき、部屋に写る影を見て外に誰か行ることに気づく。その方向を見てみると……
窓に男の子が張り付いていた。
(うわっ!!)
僕は驚き、思わず後ろに倒れてしまう。
窓に張り付いていた男の子は、僕がいることに気づいたのか、しきりに何かを言ってくる。
(こ・こ・を・あ・け・て・く・れ?)
僕は、言われたとおり窓を開けた。
「ふうー。ようやく気づいてくれたな」
「……誰?」
「俺か?俺は風上一也だ。そんなことより、お前の力が必要なんだ」
「僕の……?」
「ああ、そうだ。というわけで、一緒に来てくれ!!」
「えっ……でも……」
「大丈夫だ。何も心配はいらない。お前は俺に……いや、俺たちについてきてくれれば良いだけだ」
「俺……"たち"?」
「そうだ。向こうに俺の仲間がいる。みんなもお前を待っている。だから一緒にいこう。またもう一度、外の世界へ!!」
初めて会う人だったけど、僕はなんだかこの人ならきっと、僕のことを救ってくれる。
そんな風に思った僕は……
「……うん。いくよ」
「よし!じゃあみんなのところへ行こう!!」
一也に、ついていくことにしたんだ。
「そのまえに……僕おなかが空いたよ」
「ははっ。じゃあまずは腹ごなしからだな!」
「……うん!」
~side return~
「あの時、僕は一也に救ってもらったんだ。両親を亡くし、絶望の淵にいた僕をね」
…………言葉じゃ表せないほどの驚きを覚えた。
こんなにも楽しそうな人たちの過去に、そんなことがあったなんて思いも寄らなかった。
「咲夜くんの悲しみは、きっともっと深いんだと思う。けれど咲夜くんは、僕とは違って現実に絶望していない。きっと君の中に、何か支えになる物があったんだよね?」
……そうだ。
「僕も何度も絶望しかけた。けれど……僕にはこれが……ギターがあったからこそ、絶望せずにいられたんだ。僕にはギターだけが、唯一消えずにすんだ物だから」
そう……逆にいえば……僕にはもう、これしかないんだ。
「ならば。俺たちが次の挑戦者ってところかな」
「そーだな。あたしたちはそーなるのかな」
「……えっ?」
「何度も言っているだろう。俺たちはお前を、勧誘しにきたって」
「うん。僕たちはいくつもの困難を乗り越えてきてるんだ。……あの時だって」
「でも……また……」
「空き教室からロープで屋上くるような連中が、そんなに簡単に死ぬと思ってるの?」
「…………」
「いいのよ。無理しなくても。もっと頼りなさい。もっと自己中心的に行きなさい。何が事故よ!どーんと来いよ!!」
「いやいや、きちゃダメでしょ」
「そういう気分ってことよ、陸くん」
……本当にいいのだろうか。
ほんとうにまた、人と時間を共有してもいいのだろうか。
僕がそう思っていると、それを見透かしたかのように、風上がいった。
「俺たちは決して同情や哀れみなんかで誘ってるじゃない。ただお前といると、すげー楽しそうだからさ。だから咲夜、一緒に行こう。もう一度……外の世界へ!!」
風上が、僕に手をさしのべる。
周りで四人が頷き、僕に手をさしのべている。
僕は……
「……うん!よろしくね……みんな!!」
その手をとって、また歩み出すことにした。
五人は大きく頷いた後、大きな声で笑いだした。僕もたまらず、みんなと笑いあった。
丁度そのとき、昼休み終了のチャイムが鳴った。
「……ねえ、もうみんなでさぼっちゃわない?」
「おっ、いい事言うじゃねーか、咲夜!」
「そうね咲夜くん!もうここで野球しましょう!!」
「野球か!!おっしゃー、きたあああ!!」
「まあいいんじゃないか?」
「いやいや、無理だって」
「傘がバットで新聞紙丸めたのボールでならいけるよ!」
「咲夜くんもなんでそんなノリノリなのさ!?」
……最高にうれしかった。
青空の下、またこんな風に騒げる日が来たことが。
渇望していた日常を、青春を、与えてくれたこの人たちには、感謝の気持ちでいっぱいだった。
…………そういえば
「ねえ、かざ……一也!!」
「どうした?」
「君たちは……いや、僕たちは何者なの?」
「おっと、言ってなかったな。……そういや、あん時もそう聞かれたんだっけ」
『ねえ、一也くん。君たちはいったい何者なの?』
『俺たちか……そうだな。俺たちは、日常を楽しむためにある集団、人呼んで……』
『「デイリーメイカーズだ!!」』




