表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デイリーメイカーズ  作者: 加島神楽
2/9

1-2 真実までの迷走劇

 この作品はあくまでフィンクションです。

 実際に存在する人物、団体、国家、事件、その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。



 変な連中に出会ったあの日から10時間以上経過した。用は次の日の朝だ。正直気分は全く優れなかった。

 あの連中に会うかもしれないという気持ちもあったが、それ以上に夢桜さんとの接触が一番怖かった。昨日が昨日だ。怒っている可能性だってある。

 世の中たいていの男は美少女に従うものであり、クラスのアイドルでもある彼女が、もしも僕のことを気に入らないと一言でもいったら……本格的ないじめにでもなるかな。

 教科書破りとかに耐えられるほど、俺の心は強くないんだけどなあ。

 そんなこんな考えているうちに教室にたどり着いた僕は、教室内の全批判視線を浴びる覚悟を決め教室にはいると――



 ――夢桜さんが僕の机で寝てました。



 …………は?なにこの状況?席を間違え……いやいやそんなはずはない。

 とすればあの連中の仕業だろう。ならば最善策は無視。

 そう心に決め僕の机に鞄を置き、競歩選手ばりの速度で通り過ぎようとしたとき、


「ちょっと無視はひどいでしょう!昨日の夜さんざんやっておいて!」


 …………。

 何という爆弾発言でしょう。教室の時間を一瞬にして止めてしまった。


「あんなに恥ずかしい思いさせて……私だって初めてだったんだから!」


 停止時間延長……。

 どうやら彼女には、時を止める力があるようです。あと僕の心の平穏を侵す力。


「「「どういうことだあああ!!紅!!」」」


 止まっていたときが動き出した瞬間、一斉に叫ばれました。

 お前たちが叫んでんじゃねーよ!!僕だって叫びたいわ!!


「なんてことしてくれてんのさあああ!!」


 はい叫びました。叫びましたよ。叫ばずにはいられないじゃないですか。


「だって咲夜くんがあのまんま私を放置していったせいで、後処理大変だったんだから「ちょっとこっちに来てもらってもいい」ってやだ咲夜くん、大胆なんだからもう」


 なんかさらに話し出したので、その夢桜さんの手首をつかみ、全速力で教室から引っ張りだした。

 後ろからすごい勢いで叫びのようなものが聞こえてきたけれど、全部聞こえないふりをさせてもらった。

 こっちだって理解不能なんだ。答えられるわけがないのに。



 ~spot change~



「で、何であんな事をしたんですか。夢桜さん」


 夢桜さんを引っ張って教室を出た後、僕はその勢いで裏庭へと来ていた。

 木々に囲まれたこの場所は、人がめったに来ない場所。ましてや、HR前にわざわざ来る人などいるわけがないため、僕はここに連れてくることにしたのだ。


「私は事実しかいってないわよ」

「言い方ってものがあるでしょ!?」


 あれじゃあ、誤解してくださいっていってるようなものだ!!


「だってわざとだもん」

「確信犯かい!!」


 もうむちゃくちゃだった。

 絶対に関わるまいと思っていた朝の決意など、いつの間にか月の裏まで飛んでいっていた。


「で……こんな事をしてまで呼び出すって事は、また昨日の集団がらみだろ」

「ご明察だな」


 後ろから突然声がしたと思ったら、いつの間にか、風上が後ろに立っていた。


「僕を社会的に抹殺できるような行為までして、どういうことだ?」

「あれ、いい作戦だろ」

「こっちは大迷惑だ!! おかげでいやな注目を浴びたよ」

「ははっ。お前も俺たちのチームに入れば、こんな事当たり前になるさ」

「……何度も言ってる。入る気はない」

「まあそう言うな。お前に用があるんだ。屋上まで来てもらいたい」

「……断るといったら」

「力付くで」


 無言の緊張が漂う。

 僕はこいつを殴って逃げようか考えた。それくらいの腕はあるつもりだ。


「具体的にはここで、沙耶に咲夜に襲われたとでも叫ばせる!」

「卑怯だろ!? 力付くってそう言う意味か!!」


 逃げようがないだろうが!!


「決まったな。昼休み、ついてきてもらうぜ」


 風上くんはそう言って、僕に背を向け歩き去って行った。

 ……どうやら、行くしかないようだな。


「無理矢理やっちゃってごめんね」


 落胆している僕に、後ろから夢桜さんが謝罪を入れる。


「いいよ別に。ただ、だから何があるってわけじゃないけど」

「……きっと入ってくれると信じてるわ」

「…………ご勝手に信じてください」


 意志を変える気はなかった。

 だって僕は、そんなこと許された人間じゃないのだから。


「ところで、夢桜さん的にあの発言は大丈夫なの」

「あはは……あとが大変そうだわね……」

「…………」


 じゃあそんな作戦やるなよ。



~spot change~



 昼休み。風上くんと夢桜さんにつれられ屋上に来ると、昨日いたメンバーが全員集まっていた。


「遅かったな、一也」

「待ちくたびれたぞ」

「咲夜くん。無理矢理呼び出してごめんね」


 三人がそれぞれ声をかける。というか、悪いと思うなら呼び出さないでくれ。


「さて、みんなそろったことだし、咲夜の演奏会を始めるか」

「…………はい?」

「咲夜くんの演奏会よ」

「いや、別に聞き取れなかった訳じゃ……なんで」

「俺たちが聞きたいからだよ」

「……まあいい。嫌だといってあきらめるような連中じゃないだろうしな」

「まあな」


 そんなところを認めるなよ。

 僕は心の中でそう突っ込んでおき、ギターを取り出した。


「それじゃあ……何かリクエストは?」

「「「「「いつもので」」」」」


 五人の意見が一致する。

 ……お前等打ち合わせしてただろう。そして僕はバーテンか。


「……了解しました」


 そして僕は弾き始めた。



 いつも通りにギターを弾く。こうして人の前で弾くのも、久しぶりなものだ。

 あの一件以来、人と関わることがなかったから。

 演奏をしながら、僕は目の前の五人の顔を眺めてみる。

 左側に座っている宮沢は、目をつぶり、まるで瞑想をしているかのように聞いている。

 右側の茜さんは、眠たそうな顔で……いや、寝てるよ。

 そんな茜さんに、直枝は必死で起きるように耳打ちしている。あ、茜さん起きた。なんかすまなそうな顔をしてる。

 宮沢の隣に座る夢桜さんは、すごいきらきらした目でこっちを見ている。

 悪霊を一瞬にして浄化されそうなくらいのきらきらだ。僕に向けるにはもったいない。むしろ僕が浄化されそう。

 そして、一番はじめに真ん中に陣取った風上は、優しい目をしながら僕の演奏を聞いていた。

 ……なんだろう。すごい懐かしい風景だ。

 あの時も、みんなこんな風に聞いていたな……。


 昔のことを思い出してしまったからだろうか。僕は柄でもなく泣き出しそうになってしまう。

 けれど、こんなところで泣くわけには行かないと、涙を我慢して演奏を続けようとした。

 だがしかし、そんな状態で引き続けることができるはずもなく、僕は演奏を止めてしまう。

 ……こんな事になったのは初めてだった。


「……そういうことだ、咲夜」


 不意に、僕に声がかかる。僕が顔を上げると、目の前に五人が立っていた。


「そういうこと……って」

「お前自身も気づいただろ。何かを我慢していたことに……いや、本当はそれを望んでたことに」

「っつ!!」


 僕は目の前の男……風上にすべてを悟られてしまったような気がした。

 それは僕のもっとも知られたくない……もっとも思い出したくない部分だと考えつくのに、そう時間はかからなかった。


「わかったようにいうな!!」


 脳内が不安と恐怖に支配された僕は、気がついたら風上に殴りかかっていた。

 だが、そんな錯乱状態の攻撃が当たるはずもなく、あっけなく避けられてしまい、僕はその場で膝を突いてしまう。

 そのことに対するショックもあっただろう。

 僕は決していう必要の無かった事実を、まるで自分を苦しめたいかのように、勝手に叫びだしていた。







みんな死んだんだよ(・・・・・・・・・)!!僕と関わったせいで、みんな死んじゃったんだ!!」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ