1-2 真実までの迷走劇
この作品はあくまでフィンクションです。
実際に存在する人物、団体、国家、事件、その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。
変な連中に出会ったあの日から10時間以上経過した。用は次の日の朝だ。正直気分は全く優れなかった。
あの連中に会うかもしれないという気持ちもあったが、それ以上に夢桜さんとの接触が一番怖かった。昨日が昨日だ。怒っている可能性だってある。
世の中たいていの男は美少女に従うものであり、クラスのアイドルでもある彼女が、もしも僕のことを気に入らないと一言でもいったら……本格的ないじめにでもなるかな。
教科書破りとかに耐えられるほど、俺の心は強くないんだけどなあ。
そんなこんな考えているうちに教室にたどり着いた僕は、教室内の全批判視線を浴びる覚悟を決め教室にはいると――
――夢桜さんが僕の机で寝てました。
…………は?なにこの状況?席を間違え……いやいやそんなはずはない。
とすればあの連中の仕業だろう。ならば最善策は無視。
そう心に決め僕の机に鞄を置き、競歩選手ばりの速度で通り過ぎようとしたとき、
「ちょっと無視はひどいでしょう!昨日の夜さんざんやっておいて!」
…………。
何という爆弾発言でしょう。教室の時間を一瞬にして止めてしまった。
「あんなに恥ずかしい思いさせて……私だって初めてだったんだから!」
停止時間延長……。
どうやら彼女には、時を止める力があるようです。あと僕の心の平穏を侵す力。
「「「どういうことだあああ!!紅!!」」」
止まっていたときが動き出した瞬間、一斉に叫ばれました。
お前たちが叫んでんじゃねーよ!!僕だって叫びたいわ!!
「なんてことしてくれてんのさあああ!!」
はい叫びました。叫びましたよ。叫ばずにはいられないじゃないですか。
「だって咲夜くんがあのまんま私を放置していったせいで、後処理大変だったんだから「ちょっとこっちに来てもらってもいい」ってやだ咲夜くん、大胆なんだからもう」
なんかさらに話し出したので、その夢桜さんの手首をつかみ、全速力で教室から引っ張りだした。
後ろからすごい勢いで叫びのようなものが聞こえてきたけれど、全部聞こえないふりをさせてもらった。
こっちだって理解不能なんだ。答えられるわけがないのに。
~spot change~
「で、何であんな事をしたんですか。夢桜さん」
夢桜さんを引っ張って教室を出た後、僕はその勢いで裏庭へと来ていた。
木々に囲まれたこの場所は、人がめったに来ない場所。ましてや、HR前にわざわざ来る人などいるわけがないため、僕はここに連れてくることにしたのだ。
「私は事実しかいってないわよ」
「言い方ってものがあるでしょ!?」
あれじゃあ、誤解してくださいっていってるようなものだ!!
「だってわざとだもん」
「確信犯かい!!」
もうむちゃくちゃだった。
絶対に関わるまいと思っていた朝の決意など、いつの間にか月の裏まで飛んでいっていた。
「で……こんな事をしてまで呼び出すって事は、また昨日の集団がらみだろ」
「ご明察だな」
後ろから突然声がしたと思ったら、いつの間にか、風上が後ろに立っていた。
「僕を社会的に抹殺できるような行為までして、どういうことだ?」
「あれ、いい作戦だろ」
「こっちは大迷惑だ!! おかげでいやな注目を浴びたよ」
「ははっ。お前も俺たちのチームに入れば、こんな事当たり前になるさ」
「……何度も言ってる。入る気はない」
「まあそう言うな。お前に用があるんだ。屋上まで来てもらいたい」
「……断るといったら」
「力付くで」
無言の緊張が漂う。
僕はこいつを殴って逃げようか考えた。それくらいの腕はあるつもりだ。
「具体的にはここで、沙耶に咲夜に襲われたとでも叫ばせる!」
「卑怯だろ!? 力付くってそう言う意味か!!」
逃げようがないだろうが!!
「決まったな。昼休み、ついてきてもらうぜ」
風上くんはそう言って、僕に背を向け歩き去って行った。
……どうやら、行くしかないようだな。
「無理矢理やっちゃってごめんね」
落胆している僕に、後ろから夢桜さんが謝罪を入れる。
「いいよ別に。ただ、だから何があるってわけじゃないけど」
「……きっと入ってくれると信じてるわ」
「…………ご勝手に信じてください」
意志を変える気はなかった。
だって僕は、そんなこと許された人間じゃないのだから。
「ところで、夢桜さん的にあの発言は大丈夫なの」
「あはは……あとが大変そうだわね……」
「…………」
じゃあそんな作戦やるなよ。
~spot change~
昼休み。風上くんと夢桜さんにつれられ屋上に来ると、昨日いたメンバーが全員集まっていた。
「遅かったな、一也」
「待ちくたびれたぞ」
「咲夜くん。無理矢理呼び出してごめんね」
三人がそれぞれ声をかける。というか、悪いと思うなら呼び出さないでくれ。
「さて、みんなそろったことだし、咲夜の演奏会を始めるか」
「…………はい?」
「咲夜くんの演奏会よ」
「いや、別に聞き取れなかった訳じゃ……なんで」
「俺たちが聞きたいからだよ」
「……まあいい。嫌だといってあきらめるような連中じゃないだろうしな」
「まあな」
そんなところを認めるなよ。
僕は心の中でそう突っ込んでおき、ギターを取り出した。
「それじゃあ……何かリクエストは?」
「「「「「いつもので」」」」」
五人の意見が一致する。
……お前等打ち合わせしてただろう。そして僕はバーテンか。
「……了解しました」
そして僕は弾き始めた。
いつも通りにギターを弾く。こうして人の前で弾くのも、久しぶりなものだ。
あの一件以来、人と関わることがなかったから。
演奏をしながら、僕は目の前の五人の顔を眺めてみる。
左側に座っている宮沢は、目をつぶり、まるで瞑想をしているかのように聞いている。
右側の茜さんは、眠たそうな顔で……いや、寝てるよ。
そんな茜さんに、直枝は必死で起きるように耳打ちしている。あ、茜さん起きた。なんかすまなそうな顔をしてる。
宮沢の隣に座る夢桜さんは、すごいきらきらした目でこっちを見ている。
悪霊を一瞬にして浄化されそうなくらいのきらきらだ。僕に向けるにはもったいない。むしろ僕が浄化されそう。
そして、一番はじめに真ん中に陣取った風上は、優しい目をしながら僕の演奏を聞いていた。
……なんだろう。すごい懐かしい風景だ。
あの時も、みんなこんな風に聞いていたな……。
昔のことを思い出してしまったからだろうか。僕は柄でもなく泣き出しそうになってしまう。
けれど、こんなところで泣くわけには行かないと、涙を我慢して演奏を続けようとした。
だがしかし、そんな状態で引き続けることができるはずもなく、僕は演奏を止めてしまう。
……こんな事になったのは初めてだった。
「……そういうことだ、咲夜」
不意に、僕に声がかかる。僕が顔を上げると、目の前に五人が立っていた。
「そういうこと……って」
「お前自身も気づいただろ。何かを我慢していたことに……いや、本当はそれを望んでたことに」
「っつ!!」
僕は目の前の男……風上にすべてを悟られてしまったような気がした。
それは僕のもっとも知られたくない……もっとも思い出したくない部分だと考えつくのに、そう時間はかからなかった。
「わかったようにいうな!!」
脳内が不安と恐怖に支配された僕は、気がついたら風上に殴りかかっていた。
だが、そんな錯乱状態の攻撃が当たるはずもなく、あっけなく避けられてしまい、僕はその場で膝を突いてしまう。
そのことに対するショックもあっただろう。
僕は決していう必要の無かった事実を、まるで自分を苦しめたいかのように、勝手に叫びだしていた。
「みんな死んだんだよ!!僕と関わったせいで、みんな死んじゃったんだ!!」




