1-1 五人との出会い
この作品はあくまでフィンクションです。
実際に存在する人物、団体、国家、事件、その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。
それはまだ、奇跡が起こる前の話。彼女が生まれる前の話だ。
目が覚めると、丁度4時間目の終わりのチャイムがなっていた。どうやら授業は終わったらしい。
周りのクラスメイトが、それぞれ友人と昼食を食べようと動き出す。
僕はその姿を見ながら一人、いつもの場所へと向かう準備をしていた。
紅昨夜。それが僕の名前だ。
中学三年生の春、この学校の3年2組に転校してきた。
はじめは転校生ということもあり、たくさんの人に話しかけられたのだが、人付き合いの苦手な僕の性格がわかると、だんだんと話しかけてくる人も少なくなり、なんとなくクラスになじめない状態になっていた。
けれど元々、誰かと一緒にいるということが少なかった僕はあまり気にせず、転校時からずっと一人の生活を送っているのだ。
屋上へつながる扉の前にたどり着く。
僕が向かっていたいつもの場所というのは屋上だ。
この学校の屋上は封鎖されていて、誰も入ることができない絶好のスポットなのだ。
僕はその扉のすぐ隣にある窓をふさいでいる鉄格子をはずし、窓から屋上へと出る。
封鎖されていないじゃないかと思ったかもしれないが、確かに僕が来るまではこの窓も封鎖されていたのだ。
僕がここの鉄格子のねじをドライバーで外したから、ここだけは通れるのだ。
降り注ぐ太陽の光、吹き抜ける心地の良い風、時より聞こえる小鳥の鳴き声。ここはいつ来ても素晴らしい場所だ。
窓から屋上へと出た僕は、いつもの貯水槽のところに腰を掛け、昼食を食べ始めた。
昼食を食べ終えた僕は、腰掛けていた貯水槽の下に手を伸ばし、中からギターとパイプ椅子を取り出した。
ギターはアコースティックギター。小さいころから続けている僕の趣味の一つだ。
静かな屋上で木々のざわめきを聞きながら弾くギター。心休まる時間だった。
一曲目を引き終える。調子はまずまずだ。
そろそろまた、新しい曲にでも挑戦しようかな。そんなことを考えていた時だった。
「ねっ、すごいでしょ。咲夜くん」
「ああ……これは想像以上だ」
「屋上への行き方を知っているあたり、只者ではないと思っていたが」
「くちゃくちゃすごいな」
「みんな……あんまり大きな声を出すと、ばれちゃうよ」
……人の……声?
そのことを理解すると同時に、自分が屋上にいることがばれていたことにも気づく。
いつからいたのだろうか。いや、いつから個の屋上に通っていたことを知っていたのだろうか。
……まあ考えても仕方がない。そう思った僕は、どこかに隠れている誰かに声をかけた。
「……誰かいるの?」
少々警戒の念を含めてみる。
すると、貯水槽の裏から、物音や話し声(というより叫び声)が聞こえたと思ったら、その集団の一人から返事が来た。
「ばれたもんは仕方ねえ。……おまえら、いくぞ!!」
「もうみんないってるよ」
「ってなんでだよ!?」
…………。
非常にぐだぐだな集団だった。
意味不明なやり取りの後、貯水槽から大きな物音がしたと思ったら、今度は真上から声がした。
「上を見なさい!!」
言われた通り、貯水槽の上を見てみる。
すると上には、五人の男女が立っていた。そのうち、一人の少女には見覚えがあった。クラスで、アイドルのように呼ばれていた覚えがあるからだ。
その五人が、いきなり変なことを言い出した。
「俺の心が真っ赤に燃える!! レッド!!」
「自然を大切に!! グリーン!!」
「いつも心に静寂を……。 ブルー!!」
「ネコと遊んでくれないか? イエロー?」
「みんなのヒロイン♪ ピンク……って僕男だよ!?」
「五人合わせて――」
「シンケンジャー!!」「ボウケンジャー!!」「ゴーカイジャー!!」「ネコレンジャー!!」「デカレンジャー!!」
…………。
「ここは侍戦隊だろ」「轟轟戦隊よ!」「いや、海賊戦隊だろ」「なにいってる。爆猫戦隊だろ!」「爆猫戦隊なんてないよね」
…………。
唖然としていた。正直、馬鹿なんじゃないかと思った。
目の前であーだこーだいってる人たちは、本当に何がしたいんだろう。
「ああ……咲夜くん、もうあきれかえってるよ……」
「まずいな……登場にインパクトを持たせ、そのままのりで勧誘してしまえ作戦が失敗だ……」
「元々この作戦、無理があったと思うのだけど」
「アホだな」
いや、あるいみその作戦は成功だ。インパクトはハンパなかった。
……というか、今勧誘って言わなかった?
「やあ、お前が紅咲夜か?」
「まあ、そうだけど……」
「俺の名前は風上一也。隣のクラス、三組の者だ」
レッドが自己紹介をする。
「同じく、宮沢慶助だ」
ブルーが言う。なんか某有名作家に似た名前だな。
「えーと。同じく直枝陸です。よろしく」
なぜか男なのにピンクの人が言う。ピンクだが、一番まともそうだ。
「イエローの茜美紗だ」
先に宣言してくれたのは、唯一謎の爆猫戦隊を作り上げた女の子だ。ちなみに美少女。そして……
「私の名前は……わかるか。ま、でも一応。同じクラスの夢桜沙耶。よろしくね」
グリーンであり、クラスでアイドルと名高い彼女が最後に言う。アイドルと言われるだけあるかわいさだ。
けれど、今はそんなことすらどうでもよくなる事態が起こっていた。頭の中は疑問でいっぱいで、聞きたいことは山ほどあった。
だから僕はとりあえず、今世紀最大の疑問をぶつけてみることにした。
「ここで何してるんですか」
「勧誘さ!」
すごいさわやかに返された。
「誰をですか」
「お前のことをだ!」
「…………何故に?」
「それはお前もわかってるはずだぜ!」
なぜさわやかに返し続ける。
しかし、僕もわかっている? どういうことだろう。
僕がした事かな。でも僕は屋上に入ったことくらいしか……あ!
「すいません。ここの先着で僕を口止めに殺しに来たんですね」
「いやいやいや」
「そうだ」
「なに美紗も嘘言ってるのさ!?」
どうやら違ったらしい。けれど他に心当たりなんてないぞ。
「他には何かないか」
「すいません。正直あなたたちのような変な人との関わりなんて、あった気がまるでしないんです」
とりあえず、正直に言ってみた。
とたんに夢桜さんから反論がくる。
「私たちのどこが変なのよ!?」
「主に言動が」
「まあ的確だね……」
五人の中で、一番常識的そうな直枝くんが賛同してくれる。ちゃんとわかってる人もいるんだ。
「まあ、あなたにもいずれわかる日が来るわ」
一生わかりたくないです。
「俺たちがお前を誘う目的……それはそのギターの上手さと、屋上に入る手段を知っているからだ!!」
「ぶっちゃけ、後者の占めるウエイトがほとんどですよね」
「まあな!!」
さわやかに正直な人だ。そういえば、
「ならあなたはどうやって入ったんですか」
「……来てみろ」
そういって、僕を貯水槽の裏へと誘導する。僕は黙ってついていき、裏側を見た瞬間驚愕した。
なんとそこだけフェンスが破れており、下の階の空き教室のベランダまでロープがついていたのだ。
「俺たちはこれを上って、ここに来ているんだ」
「危ないでしょ!?」
「だからこそ、お前に入ってもらいたいのさ」
……確かにこれは危ない。いくら屋上がいい場所であるからといって、ここまで危険を冒して来ようと思う人がいるだろうか。いや、まあ目の前にいるのだが。
ここまでする人なんだ。それだけ屋上が好きって事なのだろう。教えてあげてもいいかな。
そう結論づけたところで、一つ疑問が浮かぶ。
「屋上への入り方を教えるのはかまわない。けど一つ、質問があるんだ」
「ん?なんだ?」
「どうしてそんなに勧誘にこだわるの?別に、僕に尋ねるだけでもいいと思うのに」
そう尋ねると、風上くんはすこしまじめな顔をしていった。
「お前、転校生だったよな」
その瞬間、僕は少し気分が悪くなった。こいつらも一緒なのかと。
「別に俺たちは、お前の性格にどうこう言うつもりはない。けどな……強がりはよした方がいいと思うぞ」
「…………あんた等も一緒。そうやって友達を作れとか、そんなありきたりなことを説教するのか」
「いや、ちがう。俺が言いたいのは、ただもっと素直になっても良いとおもうんだよ」
「僕のどこが素直じゃないって言うんだ」
みんなそういうんだ。僕の事など何も知らず、ただただそういうんだ。
「じゃあどうして……お前のギターから出る音は、そんなにも悲しそうなんだよ」
…………僕のギターの……音が悲しそう?
「たった一回盗み聞きしたくらいで、僕のギターに口出ししないで」
「たった一回じゃない。初めてお前が屋上に来ていたとき……始業式の日から、毎日聞いてる奴が言ってるんだよ」
「毎日……聞いてる……?」
「あたしよ」
夢桜さんの声が響く。夢桜さんは……毎日聞いていた……?
「あの日、私はたまたま一人、屋上へと登っていたの。誰かいるなんて、思ってもいなかった。私はこれを、自分だけの楽しみにしようと思った。それだけ、あなたの曲はすばらしかったわ」
……驚きだった。あの日からずっといたなんて。気づきもしなかった。
「それから毎日、私は昼休みに、ここではじめの曲だけを聞いていたわ。それ以外の時間は、みんなと遊ぶ時間だったから。そうして聞いているうちに、私は疑問に思ったの。どうしてこの人の曲は、こんなにも悲しいんだろうって。」
「さっき咲夜くんの弾いていた曲って、おそらくだけど自作だよね」
直枝君が尋ねてくる。僕は肯定の意を示す。
「やっぱりだ。だからこそ、よりいっそう自分の心が曲に出ていたんだ。自分で作った曲ほど、気持ちのでやすいものはないからね」
「だから……僕は別に」
「そんなこと思っていないというのか?本当にそうなのか?お前はそうやって、自分の中で何かを怖がってるんじゃないのか?」
怖がっている……何かに……?
「俺はお前が、心から孤独を望んでいるようには見えない。お前は何かをおそれ、自分すら騙せない嘘で自分を守っているようにしか見えないんだ」
「そんなもの……!!」
「ないわけない!!お前は、本当はみんなといたいんだろう!?みんなと笑って、みんなとはしゃいで、今を楽しみたいんだろう!?じゃあ何で我慢する!?何をおそれている!?何におびえているんだ!?」
「そんなこと、君たちには関係ないだろ!?」
僕はそういって、屋上から逃げるようにして校舎内に入る。
けれど、その行動自体が一つの答えにもなっていた。
「彼らに……僕のことなんて、わかってたまるか」
~side-five people~
「さすがに、いきなりすぎたか……」
「一也はそうやって、いつも急ぐ癖があるからね」
「もう少し、ゆっくりやっていくべきだっただろう」
「まあ過ぎてしまったことは仕方ないわよ。それより、これからどうするのよ?あの調子じゃ、かなりきついものがあると思うわよ」
「あいつ、そーとー警戒してくるはずだ」
「大丈夫だ。作戦は練ってある」
「どんな作戦よ?」
「それはだな……」
この度は本作品をお開きになってくださり、まことにありがとうございます。
私自身が書く初めての作品『デイリーメイカーズ』。
更新は不定期ではありますが、是非読み続けていただけたら幸いです。