一体、あんたは何者?
「戦国時代には、本能寺の変みたいな事が全国各地であったんだよなあ・・・・・・」
「そういう時代だったと言えばそれまでだけどね。お家の為、自分がやらなかったらやられちゃうから」
シオは遊具で遊ぶ子供達の方を見た。
「あの子達が嬉々としているこの場所は、悲しい物語の舞台という顔も持っている・・・・・・」
こいつストーリーに酔ってるな。男、取り分け作家って、自分の世界に入ると主役気取りだから。
「裏切られた若武って人の一字をもらって、若なんでしょ?」
「っそ。もうアラサーなのに。年取ったら絶対からかわれる。四月で三十、知っとるけ~のけっ?」
両手の人差し指でシオを指した。「知っとるけ~のけっ?」。明石家さんまが、昔のテレビ番組のコントで演じたキャラのフレーズだ。
「オレだって十二月で三十。同じだ~がねっ!」
シオも私の真似をして両手で指差して来た。彼が私の前で戯ける姿を見たのは初めてだ。
「妹はたけみって名前なんだけど、若武の武と、シオと同じ弥って書いてね。友達からは「タケちゃん」って呼ばれたり、時々「たけや」って男読みされてムカつく事もあるみたいだけどさっ」
「そうなんだ。でも若って別に年だけじゃなくね? 精神はいつまでも若くあれって意味にも取れるし」
何だか照れくさっ!
「それよりよく勉強したねえ、よその町の歴史を」
「昨日資料館で売ってた郷土史の本でね」
シオは遠くを見詰めて一服した。
「平穏に領土を治めてた三田居氏を滅ぼした大名、知ってるよね?」
「神谷元種・・・・・・っん、神谷?・・・・・・まさか!?」
彼の顔を凝視する私と、シオは目を合わせてゆっくり頷いた。
「その成れの果て。オレは次男だけどね」
あまりの驚きで言葉が出ない。シオ、神谷汐弥は、私の先祖、三田居若武を滅亡させた、神谷元種の子孫だったのだ。
「初めて会った時から分かってたの?」
「いいや。三田居って苗字知った時「もしかしたら?」とは思ったけど、静岡出身って聞いた時やっぱ気になったからネットで調べたんだ。確信を持ったのは、昨日本を読んでから」
「一か八かで来た訳ね・・・・・・でも元種って人、確か江戸時代に罪人を匿った罪で改易されて、群馬県内の藩に預けられたんだよね?」
「そう。先祖はそのまま土着したみたいだけど、オレの爺ちゃんの代で東京に移ったんだ・・・・・・敵同士がセフレになるなんて、オレにとっちゃ奇跡だけど、ワカにしてみりゃ皮肉だよね」
シオはまた遠くを見詰めた。
「もしかして・・・・・・私に恋した?」
シオは無言でタバコの火を消し、携帯灰皿に入れた。
「好きでもない相手の地元に行く奴なんていないよ」
「恋愛関係になるのは御法度って決めたよね?」
わざとにんまりして確認すると、
「どんな罰でも受ける。敵の子孫だからってワカの親族が反対しても、覚悟はしてる」
シオの表情は真剣だった。
「ほーう」
今日は気持ちだけ受け取ると答えた。シオは今日中に東京に帰ると言い、途中まで一緒に帰って別れた。
今日は、良い意味で精神が動揺した日だ。と思っていたら……。




