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遺言

 翌日の正午過ぎ、武弥と一緒に三田居本家に向かった。亮子の車を借りて私が運転したけど、助手席の武弥は座席を後ろに引き、少し倒している。それだけではなく、足を伸ばして、お気に入りのL'Arc〜en〜Cielをガンガン掛けてお寛ぎモード。

 彼女、中学くらいからこんな感じ。あんたは大物になるよ……。


 そうこうする内に本家に着いた。「こんにちは」と挨拶しながら入ると、丁度お昼休みで、政康、益子と政孝の三人が揃っていた。政長一家は来週帰って来るそうだ。

「あんたいつ戻って来たの!?」

「どれくらい帰って来ないかなって話してたんだ」

 政孝から私が帰って来た事は知らされていただろうけど、政康と益子は私の姿を見るなり目を丸くした。

 武弥に対しては、去年近市のお葬式で帰っているので普通だったけど、私に対しては、驚愕の表情あり満面の笑みありと格別だ。


 早速、仏壇の前に座った。優しく微笑んだ近市の遺影を見て、

「本当に亡くなったんだ・・・・・・」

 と呟いた。

「穏やかな顔だったよ」

 隣に座った武弥が、線香に火を点けながら言った。毎回私達を迎える度に見せてくれた笑顔。大好きだった神楽を楽しそうに舞っている姿を思い出して視界が滲んで来た刹那、

『チンチーン!』

 武弥は手を合わせていた。

 マイペースな奴……。人の事は言えない姉だけど、隣の妹に苦笑しながら私も目を閉じて手を合わせる。

「曾お爺ちゃん、本当に長い間ご苦労様でした。そして、楽しい思い出をたくさんくれて、ありがとうございました・・・・・・さようなら」

 

 やっと別れの挨拶ができて微笑を浮かべていると、

「丁度二年前に帰った時に、曾お爺ちゃんから「仲良くしろよ」って言われたの」

 武弥は徐に言った。

「仲良くしろ?」

「お爺ちゃんとお婆ちゃんが作業に出て行って、二人っきりになった時にね。ほら、お父さんと静岡(市)のおばさんが言い争ったの、知ってるでしょ?」

 静岡市に住む政康の弟の奥さんは、政孝が家を継ぐと知って、本家を継ぐのは長男だと言い張り、政孝と口論になった事があった。


「曾お爺ちゃんも目の当たりにしてたから、お前達は身内と争うような事になるなよって意味なんじゃないかな? 「若にも伝えておいてくれ」って言われた」

「最後の教え、肝に銘じます」

 遺影の近市と目を合わせた。

「私は、口も腕力の喧嘩も苦手だから心配ないけどね」

「分かんないよお? うちらもあの親父の血を引いてんだから。どっちかが十年後くらいにお酒飲んでワーワー言ってるかもしれないじゃん?」

 武弥は不気味な笑みを見せた。

「縁起でもない事を言うな!」

 左肘で妹の身体を軽く小突く。


 キッチンへ戻り、祖父母とお茶を飲む。

「今仕事は何してるの?」

「正社員で事務やってるよ」

 やっと本当の事を胸を張って言えた。

「そう! 正社員なら良いじゃない」

 政康と益子は安心した様子で、頷きながら微笑んだ。



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