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嫌々な帰省

 一○○円ショップを辞めて一ヶ月後、当時頻繁にCMが流されていた人材派遣会社に登録した。

 製品に異物が混入していないか、顕微鏡で確認する検品作業を一ヶ月やったり、携帯電話の組立工場に派遣されたりしている内、大手電機メーカーの製造部に派遣されるようになって、やっと職場が落ち着く。


 派遣社員となって一年が経った四月中旬の月曜日。私は自動車免許を更新する為、三年ぶりに帰郷した。

当時上京して五年だったけど、まだ住民票は静岡県にあった。東京でも更新はできるけど、亮子の『たまには帰って来なさい』の言葉で、有給を取って渋々帰る事にした。


 新宿から小田急線特急に乗り、地元の駅を目指す。片道約三千円で約二時間の旅。車窓から見慣れた風景が顔を出し始めても、ほっとするなんてとんでもない。気持ちは重くなる一方だ。


 正午前に駅に着き改札を出ると、政孝と亮子が笑顔で私を迎えた。その光景に、思わず下を向いてしまう。照れ臭い気持ちと、二人のぎすぎすした生活を亮子から聞かされていたから、笑顔に悲惨さを感じた。

両親は普通に振る舞ってはいたけれど、私は到底笑顔にはなれなかった。


 駐車場で政孝が料金を支払う姿を車内から見ているだけで、虚しさが込み上げてくる。なけなしのお金を使ってるんだろうなあ……という極端な哀れみと、力になってあげられない自分が情けなかったから。


 実家へ戻る道すがら、早くも東京に帰りたくなった。

 家に着いて唯一気持ちが楽になったのは、中学二年の時から飼っている雑種犬のランと触れ合っている時だけ。

「ラン、久しぶりー」

 ランは三年の月日を経ても、私に近寄って足や手を嗅いで認識すると、手を甘噛みするスキンシップを始めた。これ、本当は子供の内に「駄目!」と躾なきゃいけなかったのだけど、誰一人躾なかった。芸も「お座り」と「お手」しか教えていない。


 玄関を開けると、久しぶりのせいか自分の家ではないような雰囲気を感じた。

 中に入り、リビングの雨漏り跡と階段の壁の変色を確認した。溜息は出なかったけど、心中で「あーー」と声が木霊する。

 

 階段を降りて両親の寝室兼、政孝の書斎に入った。ハンガーラックには着なくなった政高のスーツと、もう締める事はないのだろうネクタイが掛けてあった。

子供の頃、晩酌後にしどけなく寝ていた父親が、朝になると整髪してネクタイを締め、ピシっとした姿で出勤して行く光景を、カッコ良く思っていた時期もあったっけ。


 お昼を食べてしばらく経つと、政孝はハウスへ仕事に行った。亮子は仕事が休みで、リビングでテレビを観ていたけれど、私はずっと二階の自室に籠もった。


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