良き家族と良きセフレ
正社員となって約八ヶ月が経った、七月上旬の火曜日の夜。亮子から久しぶりにメールが届いた。
アイドルをやっている事がバレたのが四年前。しばらく音信不通の時期を経て、メールのやり取りはちょっとずつ再開したけど、電話に関しては、いけないとは思念しつつ全て無視していた。
『今年のお盆は帰って来ないんですか? ひいお爺ちゃんの初盆だし、しばらく帰ってないんだから、一度帰っておいで。今年は武弥も帰るって言ってるし。連絡を待っています』
去年は結局帰らず、今年で六年も帰っていない事になる。ご先祖様にお線香も上げてない……。久しぶりにランと散歩をしに帰ろうと思った。
翌日、出勤して早々に村田にその旨を告げた。
「そんなに帰ってなかったのか!? 来月なら良いよ。一度帰ってゆっくりして来な。有給と合わせて十日くらいはさ」
村田の言葉がこんなにありがたいと思ったのは、引退を了承してくれた時以来だ。
昼休み、早速亮子に「今年は帰ります」と返信した。
八月上旬の木曜日。文京区本郷のシオのマンションで「事」を済ませ、二人でベッドの上で寛いだ。
「私、明日から地元に帰るから」
「ふーん。そういやワカの地元ってどこ」
「静岡の田舎町」
シオは何気なさそうに訊いたので、私も何気なく答えた。
「お盆に合わせて休みもらえたんだ?」
「去年曾お爺ちゃんが亡くなったんだけど、お葬式にも出なかったし、今年初盆だから社長に頼んだの」
「曾お爺さん幾つで?」
「百六歳。大往生だよね・・・・・・」
宙を見詰めた。曾孫のこんな姿を見て、近市はどう思っているのだろう?
「長生きされたんだ・・・・・・話変わるけど、オレらのこの関係も、もう六年だな」
「本当に全然違う話・・・・・・でもあっという間だったね」
以前、二人で通っていたインターネットカジノ<プラフット>は、今年始めに常習賭博容疑で摘発され、経営者などが逮捕された。最後に行ったのは、竹本が引退する直前頃だったと思う。そんな事も含めて、いろーんな事があった。
「あの時、何で告ったか・・・・・・」
シオはタバコに火を点け、一息吐いた。
「今だから言うけど、合コン仲間との賭けだったんだ」
「賭け?」
「ジャンケンに負けた奴が会社で一番かわいい娘に告って、成功すれば証拠にその娘と写真を撮る。上手く行けば次回の合コンは全部奢ってもらえるってルールだった」
「やっぱ遊びだったか。「一番かわいい娘」って、取って付けたかのように」
「本当だよ。オレはワカが一番かわいいと思ってた」
シオはマジな表情になった。けど鵜呑みにして良いのやら……変な空気になる前に話を進める事にした。
「でも負けたよね? どう言い訳したの?」
「失敗しやしたーって笑って済ませて、次回の合コンの費用全部出す羽目になった・・・・・・人の心を弄ぶような事はするもんじゃないよな。今頃になって申し訳ないって心底思う」
「君なりに反省してんだ。でも何でその時言わなかったの? 写真くらい写ってあげたのに」
「セフレになろうなんて言って来る女初めてだったし、何か怖かったんだよね」
シオは伏目がちに笑った。私はそれを、私を遊びの道具に使わなかった彼の良心だと受け取った。




