永遠の別れ
グラドルとして最後の仕事となるイベント前日の夜。武弥から曾祖父の近市が亡くなった事を知らせる電話が掛かって来た。
『今日の朝、布団の中で。老衰だって』
頭が真っ白になって言葉が出ない。
『お母さんから「私じゃ駄目だろうからあんた電話して」って言われたんだけど、帰って来れる?』
「うーん。丁度明日から抜けられない仕事が入ってるんだあ」
やっと言葉は出てきたけど……イベントには必ず出演する事が、村田との約束だ。
『仕事なら仕方ないか』
あっさりとした口振り。武弥には他意はないんだろうけど、突き刺さる。
地元にはもう五年も帰っていない。それどころか、近市の百歳の誕生日祝いにも帰らなかった。
「距離もそう遠くないんだし、もう一度くらい帰っときゃ良かった・・・・・・」
後の祭り……。姉をよそに妹は、
『まあ、しょうがなくない? もう死んじゃったんだしさ』
あっけらかんとした口振り。ちょっとは察しろよ!
せめてもの供養のつもりで、思い出を話す事にした。
「元気なお爺ちゃんだったよね。踊りが好きでさ」
『うん。特に神楽の時は生き生きしてた。昨日までは普通だったらしいんだけど』
「もうこの世には未練がなくなったって事なのかなあ・・・・・・」
しばらく沈黙し、近市を懐かしんだ。
「それで、そっちの様子はどうなの?」
『睦仁お兄ちゃんからだろうけど、「孫一同」って花が出てる』
そういう時だけは長男一家……。
「「若を除いて孫一同」に書き替えてもらってよ」
睦仁には何の恨みもない。けど……いつもは政長に代わって本家の面倒を見ている政孝の事を思うと、憎らしくなる。
『またそんな事を言う・・・・・・』
「「孫一同(一人を除く)」でも良いからさ」
『あのねえ・・・・・・』
武弥の呆れ顔が目に浮かぶ。不謹慎だけど二人で笑った。
その刹那、急に寒気に襲われた。窓は開けていたけど、特に寒い日でもない。スマートフォンを持ったまま窓を閉める。ひょっとして……曾お爺ちゃん?
近市の霊が私のアパートにまで来たのか? そんな事を考えていると、突然無言になった事を不審に思った武弥が、『姉貴?』と問い掛けて来た。
「ああ、ごめんごめん・・・・・・今回の事で、伯父さん地元に帰りそう?」
『さーどうだろう? 私の目には全く』
そんな風には見えない……っか。政長にも「守るべき」家族がいる、って事だ。
「そっか・・・・・・誰も身内がいない街に生活基盤を築いて家も建てたのに、それを捨てろって言う方が、そもそも酷なんだよね。伯父さんの気持ちも分かる気がする」
さっきは憎らしく思ったくせに……。父への想い、地元を離れたからこそ推察できる、伯父の気持ち……。二つが交錯して、一人で板挟みになっていた。
『まあその問題は、お父さんと伯父さんに任せれば良くない?』
「私達が何だかんだ言ってもしょうがないか」
電話を切り、再び窓を開け、空を見上げてタバコを吸った。それにしても、さっきの寒気は本当に何だったんだろう――




