良い人、嫌な人
七月三日(土)と四日の二日間、お台場にあるアウトレットモールで浴衣イベントがあった。うちの事務所からは私を含め四人が出演。有名ブランドの浴衣に袖を通して、更にオシャレにさせるアクセサリーとバッグを身に付けて着飾った。
このイベントが、竹本紀子にとって最後のイベントになる。今年で三十路の竹本は、私が言うのは変だけど未だ売れないアイドル。うちはAV女優も抱える事務所だから、そっちの方に進むかと打診されたらしい。でも竹本は拒絶して引退を選んだ。
後輩を妬み、いじめ抜いた女。その一番の標的となっていた松本めぐみは、イベント中、心なしか勝ち誇った表情をしていた。
二日間のイベントを終えた後、ちあきとモール内のカフェに入った。ちあきはアイスティーを、私はアイスコーヒーを注文し、二人でバニラアイスも頼んだ。
「咲良ちゃんって出身どこだっけ?」
「静岡です」
「そーなんだあ。お茶処だね。お盆とかには帰るの?」
「いえ。私、親にデビューの事話してなくて。バレるのは時間の問題だって思ってたんですけど、いざその時が来たら言い合いになっちゃって」
「反対されたんだ」
「写真集の内容もちょっと大胆だったから、それから気まずいんです」
ちあきの雰囲気に気を許し、家庭状況をベラベラ喋ってしまった。ちあきは微笑を浮かべ、ゆっくり頷いた。
「私も同じような経験があるから分かるよ。私も父親が猛反対してね。でもデビューしてから二年後に末期癌で亡くなったの」
そんな過去があったんだ。
「結局認めてもらえないまま亡くなっちゃった。母親も父程ではなかったけど反対だったの。でも最近になって、やっと理解してくれるようにはなったんだけどね」
「良い親子関係になれたって事ですか?」
「そんな感じがする。父親は残念だったけどね。咲良ちゃんにも、いつかそんな日が来るよ!」
ちあきは説得するような口振りで言うと、いつも通りの明るい笑顔を見せた。
あんな親だからどうだか……。
当たり前の事だけど、ちあきの話を聞いて、改めて「人に歴史あり」だと思う。同時に、今を明るく生きている人は、何かしらの壁を一つか二つは乗り越えているのだと、二十代も後半になって学んだ。
帰宅後、インスタを更新するついでに、コメントをチェックした。
『いつも笑顔に癒されます』『最近ますますかわいくなってきてるね』といった好意的なものや、中には女性から、『この前のイベントで着てた服、どこのブランドですか? 超~かわいくて似合ってました』という質問も寄せられる。
とてもありがたく、快くお答えすんだけど、その一方で、『DVD観たんだけどさあ、カメラアングル悪くてつまんなかったよ』こんな批判もある。
そんなの監督に言えよ! コメントだけにとどまらず、撮影会とかでも、
「そのブーツ、茶色より黒の方が良いと思うよ」
さらりと言って来る人もいる。自分はTシャツをインしてメタボ体型なくせして、彼氏にでもなったつもり?
ムカつくけど、
「今度から気を付けます」
笑顔で対応するしかない。
芸能人の仕事は人を魅了させる事。でも多種多様の世の中で、全ての人を満足させる事は不可能だ。人は好意を持ち過ぎると、自分の好みに合わせようとする。それでいて八方美人だと直ぐに飽きたりして。
芸能人は事務所の方針にも左右されちゃうけど、八方美人にならず、芯を持って自分を顕示し続ける。人間同士が交流して行く上で、常に付いて回る課題なのだろう。




