悲願達成
「嘘だろ!?」
シオは雑誌を見たまま凝固した。
「どうしたの」
私が訊いても何も答えず、何度も読み返しているようだ。
七月中旬の金曜日。渋谷区恵比寿の居酒屋に入って乾杯した後、シオは事前に買った月刊文芸雑誌『アインシュタイン』を開いた。八日発売の表紙には、『第八回アインシュタイン文学賞発表!』とある。
「嬉しい記事なの? それとも・・・・・・」
駄目だったの?……と言い掛けて止めた。
シオはやっと私と目を合わせ、
「やったよ。オレの作品が大賞だってよ!!」
顔は喜色に満ち、輝きを増していた。
「え! マジ!? おめでとう! それで作品はどんな内容なの?」
「心を閉ざした高二の男子が、ある日風俗嬢に拉致されるんだ。当然少年はキレてパニクるけど、風俗嬢の開き直りっぷりに呆れ返っちゃう。そうこうしている内に行き着いたのが、風俗嬢の地元の町だったんだ。少年は風俗嬢の過去に触れて行く内に心境が変化して行って、最後は心を開く。簡単に言えばこんな話」
シオは興奮を抑えつつ、早口で解説してくれた。
「へー。面白そうだね」
「最初に書いたやつを何度も手直ししてやっとだぜ・・・・・・」
「凄い。諦めないって大事だねえ」
その日はそのまま祝賀会となり、シオの美酒に、私は明け方まで付き合った。
数日後、シオには出版社から連絡が入り、彼は賞金百万円を手にした。作品は雑誌に連載された後、単行本として出版される事が約束されたらしい。
シオは賞金の半分を、「今まで迷惑ばかり掛けたから」と両親に贈呈すると言った。以外に律儀な面あるんだ。と驚いたんだけど……。
ある日の昼休み、ベランダの喫煙所で、
「頼む! 一回だけで良いから。友達として」
シオは深々と頭を下げ、私に手を合わせた。
八月上旬に、受賞を祝って合コンが開かれるそうで、それに出てほしいと頼まれた。何でお祝いが合コンになるかなあ?
「私、合コン苦手なんだよね」
「だからいてくれるだけで良いんだよ」
「SEX以外のデートとかはしないって約束だけど?」
「だから・・・・・・自分で言うのは変だけど、友達の一人として祝ってほしいんだ」
溜息を吐いて思案に暮れた。
「・・・・・・今回だけは特別よ」
「分かった! ありがとう」
シオは満面の笑みを湛えた。
その当日。渋谷区内のレストランの個室を貸し切り、シオの受賞を祝う合コンが開かれた。
私が着いた時、男性は全員揃っている様子で、シオの前の席に座ると、彼はにっこりして頷いた。「来てくれてありがとう」という意味なのだろう。
男女揃って五対五。男性はシオの他にうちの事務所のマネージャーが一人、後の三人は初対面だ。女性は私を含めてマイナーアイドル四人と、なんと、
「どーも、宜しくでーす!」
松本めぐみ……。こういうとこでガス抜きしてるんだ。
男性の服装をチェックする。基本皆カジュアルなんだけど、それに蝶ネクタイを付けた人もいる。最近テレビでもよく見るけど、カジュアルに蝶ネクタイって、カッコ良いんだろうか?
「シオ、文学賞受賞おめでとう!!」
シャンパンで乾杯して合コンが始まった。始めは受賞作品についてや、これからの作家活動についての話題だったけど、しばらくすると……。
「女にキシリトールのガム噛ませてキスすると、結構良いんだよ」
シオが得意げな顔をした。大した蘊蓄じゃないのに。
「シオくーん。そーゆーの何か嫌!」
松本が声高にツッコんだ。彼女はのっけから弾けまくっている。
「あの二人、結構一緒になるらしいよ」
隣に座っている藤森理奈がそっと耳打ちした。
「合コンクイーンなんだ・・・・・・」
やがて席替えタイムとなり、同時に、なぜかロールパンの投げ合い合戦も始まった。目の前を飛び交う卵やレタスとハム、トマトをサンドしたロールパンたち……。食べ物を粗末にする罰当たりども! 生産者がどんな想いで作っているのか、全く分かっちゃいない。私は当然参加しなかった。
一次会が終わり、皆は二次会でクラブに行ったけど、私は帰る事にした。
帰宅後、シオにメールを送信。
「今日はおめでとう! めぐみちゃんの違った一面も見れて楽しかったよ」
翌朝の七時頃、シオから返信が来ていた。
『こっちこそ無理言っちゃってごめん。ほんとサンキューでーす!!』
クラブ上がりでテンションが高かったのだろう。やっぱりあいつはチャラい。
年が明け、シオは文学賞を受賞した雑誌とは別の出版社が発行する雑誌で、三月号からの連載が決まった。これを期に事務所を辞め、本格的に作家活動をスタートさせる。
私は、未だマイナーアイドルと事務の掛け持ち……。けれど二人のセフレ関係は、月に二、三度と減っては行くが続いていた。
シオはコスプレは好まず、行ってもTバックや裸にエプロンくらいで、割とノーマルなSEXを好んだ。




