芸能界って・・・
写真集とDVDの発売前に、公に出る初仕事として、イベントコンパニオンの仕事が決まっていた。七月十四、十五、十六日の三日間、新宿歌舞伎町のクラブで行なわれたチャリティーイベント『CONTRIBUTION』。私はこのイベントの初日に出演する。
和訳すれば「寄付」の通り、売上の半分がユニセフに寄付される。
イベント開始前、一番新人の私は、
「おはようございまーす」
挨拶しながら、松下と遠慮がちに楽屋へ入った。
今日出演するのは、竹本紀子(二十八歳)と、ちあき(二十七歳)に、私を入れての三人。
「若ちゃん撮影頑張ったんだってね」
ちあきは笑顔で訊いて来た。
「手探りで何も分かりませんでしたけど、一生懸命やらせてもらいました」
「デビュー急だったのに偉いよお。っあ、芸名咲良ちゃんだったよね? 本番気をつけなきゃ」
「デビュー作が売れると良いね」
竹本が私を一瞥した。
「はい・・・・・・」
ちあきは気さくな性格で、事務所内やファンの間でも評判が良いけど、竹本は嫉妬深く、自己中心的で知られている。枕営業をしているとも聞くし、とにかく必死なお方。
午後七時からイベントが始まり、午前零時までずっと立ちっぱなしで疲れたけど、特にトラブルもなく、無事に終わる事ができた。
イベントの前日、
「インスタグラムを開設したから早速書いて」
村田に言われた。
日頃、日記も書く習慣がないから「面倒臭いなあ」とは思ったけど、私だけ例外は認められない。今日のイベントが恰好のネタだけど、どう書こうか、竹本とちあきのを参考にしようと、次の日に覗いてみた。
竹本のインスタ――
『今日は歌舞伎町でイベントがあり、ちあきちゃんと新人の西田咲良ちゃんと出演しました。コンパニオンどうしとても仲良く、和気あいあいとした雰囲気だったよ――』
嘘付けよ! 3ショットの写真が載ってるけど、マネージャーがシャッターを押す時、竹本は飛びっ切りの笑顔を作り、撮り終えた途端、ブスっとした顔で去って行った。
ちあきのインスタは、売上の半分が寄付される事や会場の雰囲気などが、写真を添えて丁寧に詳しく書かれていた。
他にも友人のグラドルと食事に行った様子や、別のイベントで浴衣を着て、
『空き時間に海沿いを散歩してみました。夕方でもまだ暑いんだけど、浴衣を着てるだけで涼しい気持ちになりました』
同性が見てもかわいらしい写真が載っていた。
それで、私のインスタは……前半は初めてのイベントで超緊張した事と、お客さんの様子を少し。
『共演したお二方は先輩。コワ~イのかなあ? って思ったけど、優しい人達で安心しました』
これに、ちあきと撮ってもらった写真を添付した。私も、竹本のインスタにケチは付けられない。
八月上旬の土曜日。事務の仕事を終え、自宅最寄駅の近くのコンビニに立ち寄った。弁当とお茶を手に取り、雑誌コーナーへ向かった時……息を呑んだ。
写真週刊誌『SATURDAY』の表紙で微笑む女優の頭上に、
『袋とじ 事務職からの衝撃デビュー!!』
と銘打たれたタイトルが載っている。
「まさか!?」と思い、急いで手に取って会計を済ませ、早足でうちに帰った。早速はさみで袋とじを開ける。焦っている時でも、自分は案外几帳面なのだと気付いた。
見ると、案の定、私(西田咲良)だった……。即行松下に電話する。
「袋とじになるんなら言っといてくださいよ!」
『ごめんごめん。でも宣伝だから』
「分かりますけどビックリしましたよ。こんな有名雑誌に載るなんて。ああ身内の誰かが見ちゃうかなあ・・・・・・」
『良いじゃん。稼げるようになって親孝行すれば。社長も気合が入ってるんだからさ』
そう上手く行くかよ! 多少なりとも、グラドルの内情は知っている。
「ところでこれ、ギャラ出ますよね?」
『出ますよお。でも金額は期待しないでね。これから色んな雑誌のグラビアやってもらうから』
「当然水着だけじゃないでしょうね?」
念を押してみると、
『そうね。少し大胆になるとは思う』
釘を刺す答えが返って来た。
「了解です・・・・・・」
電話を切り、冷静になってグラビアを見返した。三十年近い歴史のある雑誌に自分が載る。身内の誰かが見るのではと気掛かりでも……でもだ。やっぱり悦に入ってしまう。
私が載っている『SATURDAY』が発売された一週間、内心ドキドキしていたけど、結局両親は何も言って来なかった。




