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第26話「74階層にて」

──ここは深き死の地下迷宮(デスダンジョン)74階層。


大量の魔術結晶が眠るというここに、仲間の方々に請われてパーティーに参加し、前衛を任されています。


私はヴィエラ・タリス。探索者の間では、いささか仰々しく──鋼鉄の乙女(アイアンメイデン)と呼ばれております。

そんな私たちは今、怪物(モンスター)の群れに襲われていました。


「こいつは……大毒蛙(ポイズントード)だ、麻痺毒に気をつけろ!」


リーダーのルーステアさんが叫び、青白く輝く片刃剣を抜き放ちました。


斬り裂かれた大毒蛙(ポイズントード)は瞬時に凍りつきます。あの魔法剣──"凍てついた三日月フリージングクレセント"は、切り裂いた傷口を凍らせるのです。


「ヴィエラ、奴の腹には毒袋がある。無暗に攻撃すると毒袋が爆ぜて中身が噴き出す、注意してくれ」


「はい、心得ました!」


相手は人の腰ほどの大きさで、単体なら脅威ではありません。ですが群れとなり、しかも毒を撒き散らすとあっては厄介です。


「はあっ!」


私は大鎚矛(グレートメイス)を振るわず、手甲の打撃と蹴りで頭を潰してゆきます。


「……君はやはり凄いな」


ルーステアさんは私の戦いを見てそう言いました。徒手格闘しているなんて野蛮だと思われたのでしょうか?


「不器用ですので、小さな敵を相手にするのは苦手ですが……でやぁ!」


喋りながらも二人で大毒蛙(ポイズントード)を一匹ずつ潰してゆきます……が、


(──数が多すぎますわ。このままでは不味い)


「下がって!」


青髪の魔術師(メイジ)、シズリさんが詠唱を始め、私とルーステアさんは咄嗟に後退しました。


『──凍結(フリージング)


白煙が広がり、地面も瓦礫も霜に覆われます。大毒蛙(ポイズントード)達は一斉に凍りつき、動きを止めました。


「今のうちだ!」


ルーステアさんが剣で頭を刺し貫き、私も頭を踏み潰していきます──こうして二十匹近い群れを処理することができました。


「助かったよヴィエラ。どんな敵にも即応できる、流石深層帰りだ」


リーダーの魔法戦士(メイジウォリアー)、ルーステアさんは女性の様に長い黒髪と美貌を備えていますが、鮮やかな剣裁きと強化魔法(エンチャント)、そして判断力と決断力はリーダーに相応しいと思います。


「……いえ、まだまだ未熟です」


そんな凄い方に褒められても、私は謙遜するしかありません。


「でも、冷気魔法が無ければ面倒だったわね、まだ増えたわよアレ──」


ため息をつくシズリさん。異国の血が入った青髪が美しい女性です。高度な冷気系攻撃魔法を得意とする若き天才──と呼ばれています。


「本当に。火炎に弱い相手じゃなくて助かったよ」


銀髪の治癒魔術師(ヒーラー)、ネルトリヒさんが皮肉めいた笑みを浮かべました。彼は朗らかで優しい笑みを浮かべていますが、その発言は──なんといいますか、皮肉めいたものが多いです。でも、往々にして真実を捉えていることも多いので、ただ人を傷つける為に言っているのでは無いようです。


「ネル、嫌味を言わないと死ぬ病気なの?」


「そんなつもりはないよ。でも、そういう反応をするという事は、思うところがあるんじゃないかな?」


「この男は……っ!」


私は二人のやりとりを聞きながら、不意に指先の痺れに気づきました。


(……麻痺毒!?)


なんという不覚。褒められて油断したせいでしょうか。痺れは徐々に広がっていきます。


「失礼、麻痺を受けましたね?」


不意に、ネルトリヒさんが私の手を取りました。


「え──あ、はい」


あまりに突然の事で素直に答えてしまいました。するとネルトリヒさんはニコリと微笑み、治癒魔法を唱えます。


『──解毒(キュアポイズン)


ネルトリヒさんの手が淡い緑光を灯し、次の瞬間に痺れは嘘のように消えていきました。


「助かりました」


「どういたしまして」


彼が微笑む横で、ルーステアさんとシズリさんは唖然としていました。


「……ヴィエラ。大毒蛙(ポイズントード)の毒は少量でも動けなくなるはずだ。君は一体──」


「怪力の天恵(ギフト)持ちだからって、身体まで耐性あるの? ちょっと触らせて……」


シズリさんが興味深そうに私の腕を押さえます。


「そうかもしれませんが……以前毒霧亜竜(ガスドレイク)の毒を受けました。それに比べれば大したことはありません」


その一言に、ルーステアさん達三人は絶句しました。


「──毒霧亜竜(ガスドレイク)と戦っただと!?」


ルーステアさんは思わず声を上げました。


「ええ、もちろん一人ではありません。でも私は泡を吹いて倒れ、仲間が討伐してくれました」


「……僕たち、まだまだだね」


「ええ、気を引き締めましょう」


私の返答にシズリさんとネルトリヒさんは苦笑し合っていました。



「おい、こっちは古代仕掛けを開けてんだ。鍵開け頼んだまま放置してお茶会(ティータイム)でもしてんのか?」


声をかけてきたのは斥候兵(スカウト)ロベリルさん。頬の大きな傷が特徴的で強面ですが、話すと気さくな方です。彼が仕掛けを解錠している最中に、大毒蛙(ポイズントード)が襲ってきたのでした。


「済まなかったなロベリル。仕掛けの方は?」


「ほら、この通り──」


ルーステアさんが寄ると、ロベリルさんは壁に触れて自慢げに何かを操作するような素振りをしました。すると、壁の一部がスライドして扉の様に開きます。


「流石だ、古代の仕掛けでも任せておいて安心だなロベリル」


「深層じゃ斥候兵(スカウト)でも古代文明知識は必須さ、特にこういう仕掛けはな──」



そして私達が踏み入った部屋には──。


目に飛び込んで来たのは、部屋の壁にある浮き彫りの幾何学模様と、所々にはめられている色とりどりの宝石の様な結晶でした。


「──っ!」


皆、息をのみます。


壁際には石造りの様な長方体の台座が幾つも設置されていました。しかし、壁の彫刻も台座もひび割れ、崩れ、朽ち欠けていました。


床にはその結晶が散らばっていて、それらは本来は壁や台座にはめ込まれていたのだと推測できます。落ちている結晶をシズリさんが拾い照明にかざしました。


「これはすべて魔術結晶よ……こんな規模、初めて見るわ」


「魔術結晶……こんなにまとまってあるのは初めてだね」


いつも冷静なネルトリヒさんの声が少し上ずって聞こえました。


「よし、この結晶を回収して帰還しよう。目的としては十分な筈だ」


ルーステアさんの指示で皆さん魔術結晶を拾い集めます。



仲間たちが声を弾ませる中、私の視線は奥の石棺のようなものに吸い寄せられました。壁の崩落で潰れたものが多い中、二基だけ蓋が残っています。


力ずくで一つを動かすと、中にはひび割れた硝子の棺の様なものがありました。埃か汚れで中が見え無かったので手で拭うと──中には子供程の大きさの干からびた死体が入っています。


「う……」


私は手を組み祈りを捧げました。


「まさかこちらも──」


せめて祈りを、と思いもう一つの石棺の蓋を開きます。


中は同じく硝子の棺の様なものがありましたが、こちらは淡く赤い光を放っていました。表面を拭って、目を凝らして中を覗くと……。



「こ、これは──!?」


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