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第16話「排水路」

──転送陣(テレポーター)を使う前に、俺たちは小島で腹ごしらえと仮眠を取ることにした。階層の空は夕焼けから夜へと移ろっていく……もっとも、本当に外の時間と同じかは分からないが。


塩漬けにしておいた朱塗り鋏(ヴァーミリオンシザー)の干し肉を齧る。食糧事情を考えれば贅沢は言えないが──。


「んー、なんだ……まだ塩気が──」


「この干し肉、ずいぶん味が濃くなりましたわ! 旨味も増してます!」


ヴィエラが俺の言葉を押しのけるように言い、むしゃむしゃと噛みしめる。



(……大サソリジャイアントスコーピオンの肉を喰えと言われて泣きそうな顔をしていたお嬢様とは思えんな)



「デリユ、この味……どうだ?」


「ほしにく、しょっぱい、デス。……でも、つかれてルから、ちょうど、いいデス」


サーヤも「むー」と頷き同意している。



(俺の味覚がおかしい──のか?)



味覚なんて体調で変わるもの、それに個人差もある……そう思い特に気にしないでおくことにした。




──仮眠後、空が白みはじめた頃。小島の建物内にある転送陣(テレポーター)を起動。サーヤの話では81階層、転送陣(テレポーター)の分岐点で、各階層へ行けるらしい。


しかし、転送(テレポート)先は直径数十メートルの石造りの円形空間──壁も天井も崩れ、幾つもあるはずの転送陣(テレポーター)で使用可能なのは俺たちやってきたものだけだった。


「……アテが外れたってことか?」


「うー……」


サーヤが申し訳なさそうにしている。


「サーヤさん、私が瓦礫を撤去しますわ!」



(そうか、この娘(ヴィエラ)怪力(ちから)ならこのくらいの瓦礫なら退けられるのか──)



ヴィエラはサーヤに下の階層に行く転送陣(テレポーター)の場所を聞き、そこの瓦礫を撤去した──だが、瓦礫の下に埋もれていた転送陣(テレポーター)は床の紋様が割れ欠けて原型を留めてはいない。サーヤは肩を落としているように見え、ヴィエラもそんなサーヤにどう言っていいか分からずに困っていた。


「まあ、取り敢えず戻るしかねえか?」


俺がそう言いかけた時──。


「うー!」


サーヤが声を出して床の一角にある大きな瓦礫を指差す。


「下、降りる道、アル……言ってマス」


「まあ! わかりましたわ、サーヤさん!!」


ヴィエラが嬉々として大きな瓦礫を撤去してゆく。さっきから瓦礫を退かせる事を張り切ってるのは、大ウナギ(ジャイアントイール)戦で真っ先に気を失ったのを気にしての事だろうか。


その瓦礫の下から現れたのは、梯子のかかった正方形の穴だ。下は暗くてよく見えない。サーヤ曰く「点検用の通路」らしい。


デリユが灯りの祈祷(マントラ)を施し、先頭のヴィエラに小さな光が寄り添う。梯子を降りると、人一人が通れるほどの狭い横穴だった。その後も縦穴と横穴を繰り返し、迷路のような狭い通路を進む。何度も崩落による行き止まりに阻まれ、迂回を余儀なくされた。


──やがて視界が開け、巨大な石柱が並ぶ空間に出る。石柱の多くは崩れ、倒れていた。天井からは水が滝のように落ちている割に、床はくるぶしほどの水深だった。外壁の崩落部からも水が流れ出している為にあまりここには溜まっていない様だ。


サーヤが向こう側を「むー」と指差す。


「ここを越えろ──ってか?」


「──そう言ってマス」


デリユとやり取りをした瞬間──100メートル程先、ゴロリと転がる大きな瓦礫だと思っていた塊がゆっくりと動いた。


「待て……あれは──」


「……(ナーガ)?!」


俺は咄嗟に伏せる様、ジェスチャーをした。


全長8メートルはあるであろう巨体。四足で長い首と尾、鱗はなくぬめりを帯び、喉袋を膨らませた頭部はカエルに似ている。大きな金と黒の目玉が周囲を警戒して動く。


「な、なんですのアレは──」


ヴィエラは怪物(モンスター)を見て固唾をのむ。


「……多分、毒霧亜竜(ガスドレイク)だな」


猛毒の霧を吐き、体液にも毒を持つ。歩行は鈍いが、後脚で跳躍するため意外に素早い。


毒霧(ガス)亜竜(ドレイク)……ですか?」


「以前、50階層で見たが戦わず逃げた。あれと正面からやり合って生き残ってる探索者は多くはない」


「そんなに恐ろしいのですか?!」


ヴィエラは思わず声を上ずらせたので、俺は眉間にしわを寄せつつ人差し指を口に当てて「静かにしろ」というジェスチャーをした。


「す、すみません……でも、なんとか倒せませんか?」


「そうだな、俺達なら倒せん事は無いかもしれん、が──」


他の亜竜(ドレイク)とは違い、硬い鱗が無い分矢も刺さる。ヴィエラの怪力(ちから)で強打すれば無事では済まない筈だ。


「問題は毒霧の息吹(ガスブレス)だ、アレは防ぎようが無い。高位の防御魔法に息吹(ブレス)を防ぐのがあったと思うが──」


「むー! むむー!」


サーヤが急に立ち上がって毒霧亜竜(ガスドレイク)の方を指差した。


「おい、立ち上がるな──」


毒霧亜竜(ガスドレイク)が居た場所には何もない。


「!?」


「ゼタさん、上! 逃げテ!!」


デリユは近くの巨大な石柱を指差すと、いつの間にか毒霧亜竜(ガスドレイク)が石柱に張り付いていた。


「逃げろ、散れ!」


皆、散り散りに逃げると、俺達が居た場所に毒霧亜竜(ガスドレイク)が飛び降りた。巨体の割に足音も静かで、水しぶきが多少飛び散る程度だ。


毒霧亜竜(ガスドレイク)は首を高く持ち上げ、大きな目をギョロギョロと動かして俺達を探している様だった。



(クソ……あの巨体で恐ろしい程静かに動きやがったのか!?)



しかし、これで逃げるにしても戦うにしても、仲間達とどうやって連携を取るか──混乱した頭を整理しつつ俺は毒霧亜竜(ヤツ)を注視する。


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