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勇者王になる勇者マニア

 第一回勇者王決定戦が最終日を迎えた。決勝戦は伝説の勇者マーヴィス・ボルトン殿対天空の勇者トーマス・コール殿だった。両者の名前の地味さは司会を大変に助け、観衆の覚えの良さに非常に貢献した。


 正真正銘の最後の戦いはルール無用の十五分真剣勝負だった。伝説の勇者は聖剣、小手、指輪の三種の神器を持ち込み、天空の勇者は靴、兜、槍の三種の呪物で対抗した。


 トーマス殿の通り名は伊達でなかった。魔法の靴と浮遊魔法は地上から空中、空中から地上へ三次元的な攻撃を可能にした。必殺技は上空からの雷撃と槍の急降下だった。


 マーヴィは大地の指輪の魔法で魔法防御力を上げて、露払いの電撃を受け流しつつ、炎の剣から火球を飛ばして、空中殺法をけん制した。


 決定打を何度か交わされたトーマス殿は華麗な戦いから一転して、兜の真ん中の宝石を指でぐっと押し、闘争本能と身体能力を強化して、パワフルな地上戦に移行した。長槍が棒切れみたいに軽々と振り回され、そこかしこで真空波が発生した。


 マーヴィは手足を軽く切り裂かれたが、即席の浮遊魔法で空中に逃れて、聖剣をゆらゆらとかざし、オーロラのような火炎の幕を広げて、透明な竜巻に色を付け、安全な位置に降りた。


「トーマス殿、あなたは素晴らしい勇者だ。私と一緒に魔王に挑みませんか?」伝説の勇者は言った。


「マーヴィス殿、あなたこそは素晴らしい勇者です。我々は世のため、人のために助け合いましょう」天空の勇者はそう応じた。


「しかし、私は手を抜けません」


「そう、強き者に全力を尽くすのが武人の性、勇者のほまれです」


「その通り。あなたの中の勇者も私の中の勇者と同じだ。なれば、惜しみなく力を出せます」


「然りです。どちらかがここで倒れても、勇者は永遠に生き続ける!」


「おお!」


 二人の勇者は勇者マニアらしく感動的に意気投合して、がっちりと握手を交わし、より激しい戦いを繰り広げた。


 マーヴィの大地の指輪の大技が発動して、足場がでこぼこに隆起した。これでトーマス殿の異常な突撃の加速が削がれた。しかし、この直後に天空の勇者の魔法の靴の切り札が解放され、使用者を対戦相手の真後ろに瞬間移動させた。決着の瞬間だ。


 ところが、この転移先がマーヴィに近すぎて、互いのお腹と背中が密着してしまった。伝説の勇者はぎょっとしながらも、反射的にぎゅるんと体を回転させて、疾風の小手で強烈な裏拳を放った。この一打がトーマス殿をひるませて、兜の魔法効果を弱めた。


「炎!」マーヴィは大声で叫んで、聖剣から灼熱の火炎をまき散らし、天空の勇者を火だるまにした。


 トーマス殿は耐えきれずに天空へ逃げた。しかし、同じく再浮遊したマーヴィの追撃をかわし切れず、足元にまとわりつかれた。数秒の不安定な飛行の後で両者は十メートルの高さから地面に落下した。一人は立ち上がり、一人は地面に伸びた。勝者は勇者番号十五番、伝説の勇者マーヴィス・ボルトンだった。


「お見事です。あなたが勇者王だ」トーマス殿は自力で立ち上がりって、マーヴィを抱擁した。


「タフな人だ! あなたと戦えて光栄に思います」マーヴィスは感動に震えながら答えた。


 満員の観衆は万雷の拍手で二人の勇者を称えた。マーヴィは大声援を身に浴びながら、緊張した面持ちで静寂を求め、関係者一同の前で大演説を始めた。


「皆さん、今日はいい天気ですね」彼はそのような気軽な挨拶から始めて、勇者王らしく毅然と続けた。「この大会では多くの勇者たちが力と技を競い、称え合いました。それは美しい姿です。しかし、この大会の本質は単なる力試しやお祭りではない。世界の危機へ立ち向かう絆を築くことだ、私はそう思います」


 勇者各位はいち早く共感し、うんうんと頷いた。


「今や魔王の脅威は平穏な地域にも忍び寄ります。私は一人の勇者としてこれを看過できない。そして、ここに確信しました。我々が力を合わせれば、魔王に立ち向かえる。我々は一人ではない。この共感と熱狂が我々を一つにしました。これが希望です。私は皆さんに聖戦の開始を進言します。人々よ、勇者たちよ、立ち上がれ!」


 マーヴィスは聖剣を掲げ、火柱を天に伸ばした。おーという声と爆発的な喝采が上がった。


「うちの勇者さまは立派になったわ」リタは感無量で言った。


「仲間が増えるね」アルは何かを食べながら、ぼんやりと言った。「でも、宿の手配が大変だな。全員のベッドはないよ」


「マーヴィが先頭に立って、何百人をぞろぞろ率いて、『はーい、皆さん、こっちですよー。魔王の城までもうすぐですよー』って言うの? それは遠足じゃない。うちの守り神さまは面白い方だわ」


「リタは朝からそう言うけど、ぼくは平凡な農民だよ」


「神の化身は平凡な農民として降臨するというのが世の常ですわ。我々の旅路を祝福ください」リタは恭しく拝んで、平凡な化身の手の甲にキスした。「ああ、神聖さで心が満たされる!」


「きみはなんか毒キノコを食べた?」


「狂気と信仰は紙一重ですわ。マーヴィの演説に熱狂するこの人々は正常ですか? 勇者たちは正気ですか? 神はどう思います?」


「そろそろお昼時だなあ」


「あはは、そうね。マーヴィを誘って、祝賀パーティをしましょう」表彰式と閉会式と偉い人のありがたいお言葉で七日間の盛大な催しは終了した。勇者王はファンや取り巻きや関係者各位に引き留められ、なかなか会場を離れられず、午後三時頃に二人と合流した。


「おめでとうございます!」リタはぱちぱち拍手して、ぬるい酒を氷結魔法で冷やした。「勇者さま、これは私のおごりですわ」


「おお、奇跡だ! 明日は雨だな」マーヴィは上機嫌に言って、緊張を解いた。「ふう、めちゃくちゃ疲れた。あんな風にちやほやされるのにはぜんぜん慣れない」


「嘘よ。あんたは講演会で全国を回れるわ」


「うん、マーヴィはすごい演説家だよ」アルは言った。「声が良く通る」


「そうそう、おれの肺活量は大したもんだよ。いや、全くきみらといると、本当に気を使わないな」


「今やあんたは勇者王ですからね」リタは冷たい酒を豪華な盃にとぷとぷ注いだ。「あんな大演説をして、聖戦の宣言もして、一般人でいようとするのは笑止だわ」


「きみの言葉はトーマス殿の一撃より効くぜ」マーヴィは一気飲みした。


「で、どうするの? 魔王城までぞろぞろ遠足するの?」


「きみの魔法で一万人くらいの部隊をびゅーんと飛ばせないか?」


「できるわよ」


「天才!」


「九千九百九十人くらいが途中でぽろぽろ落っこちるけど」


「それはダメだ」


「ヘルフェインまでの距離はざっと千キロ。これを一気に移動するのは至難だわ」


「瞬間移動の魔法はないか? 昼間にトーマス殿が使ったような」


「あるわよ。九千九百九十五人くらいが次元の狭間に消えるけど」


「それもダメだ」


「移動は時間と空間に密接に関係する。この二つを克服するのはそんなに容易いものじゃないわ。私が保証できるのは一日百キロ、十人までね」


「十日か」


「勇者さま、私が過労で死にます。三日に一回が限度だわ。一人千ゴールドね」


「魔王を倒す聖戦だぞ?」マーヴィは目をむいた。


「へー、勇者が大事な聖戦で金をケチるの?」


「きみには参った」


「少人数で敵の本拠を襲撃するなら、同盟とか協力なしで行けるわ。それを回避するための寄り道でしょう?」


「そうだった」


「道中のモンスターを蹴散らしながら、魔王の拠点を潰しつつ、ヘルズフェインヘ向かう。急がば回れよ、マーヴィ」


「きみは参謀本部に入らないか?」


「お断りします。私はアル神さまを守らねばなりません」巫女は彼女の主神を拝んだ。「アルさま、今日のお供えをお納めください」


「これはおいしいぶどうだね」アルは新鮮な果物をもぐもぐ食べた。


「きみは食料係には入るなよ」マーヴィは言った。

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