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神器持ってきました

 二戦目も激戦だった。開幕の魔法合戦で勇者以外が全滅して、前日までのトーナメントのような一騎打ちが始まった。しかし、魔法の道具と武具のせいで戦闘速度がけた違いだった。両方の勇者はともに能力効果で身体を強化して、常人の数倍の駆け足や切り合いや跳躍を見せた。決め手はシンプルに生命力だった。両者は互いのどてっ腹に剣を突き刺して動きを止めたが、疾風の勇者が先に崩れ落ちた。


 そして、三戦目が伝説の勇者マーヴィス・ボルトン殿と黄金の勇者アロンソ・ボルヘス・エルドラド殿との対決だった。司会進行が両方の代表者とサポートの名前を大げさに読み上げた。と、この名乗りに黄金の勇者殿のローブ姿の妙齢の女史がびくんと反応した。


「リタ・ウィロー?」彼女は動揺した様子で言った。「あのウィロー家の? 百人切りの? 暗黒の魔女のリタ・ウィロー?」


「お知り合い?」マーヴィは味方の少女にたずねた。


「お知り合いではないわね。お見知りおきくださいな」暗黒の魔女はにこやかに握手を求めた。訳知りのローブの女はたじろぎながらそれに応じた。その耳元にこんなささやきが聞こえた。「消えろ」


「失礼な」女子は恐れを振り払うように奮起した。「アロンソ殿、この魔女から離れてください。これは有名な淫売です。怪しい妖術で男をたぶらかします」


「あなたの目は節穴ですか? この顔、この身、私はこの二つで十分に男子を魅了できます。ねえ、アロンソさま?」魔女は色っぽく身をよじりながら、黄金の勇者殿に怪しく目くばせした。


「鼻の下が三ミリ伸びた」マーヴィは言った。


 試合前の煽り合いは最高潮に達したが、つぎの司会の発言で瞬時にうやむやになった。


「アルバート・ハレルヤ・アスランさん、サンシャ村の農民……農民?」司会進行が目をむいた。


「はい、そうです。今日はいい天気ですね」平凡な農民はてきぱき挨拶した。かんかんに張り詰めた空気がへにょへにょに溶けて、皆が笑いをかみ殺した。


 一同は素朴な挨拶と快晴の陽気にうっかり戦いを忘れて、ビーチか飯屋に行きかけたが、勇者の名の下に気を引き締めて、配置に付いた。一部の目をくぎ付けにした農民は率先的に最後尾に陣取り、歴戦の物干し竿を掲げて、前線の二人をしずかに鼓舞した。


 異様な雰囲気の中で開幕のゴングが鳴った。瞬間、魔女が無効化の魔法を即時に発動して、相手の魔法防御をゼロにした。そして、両手で沈黙の呪印を二重に結びながら、眠りの呪文を唱えて、開始三秒でサポートの二人を昏倒させた。黄金の勇者殿は類稀な抵抗力で堪えたが、マーヴィの一打であっけなく沈んだ。この圧倒的な勝利に会場はしんと静まり返った。


「ぼくらが勝ちましたけど」アルが司会に言った。進行役ははっとして、決着の鐘をごんごん鳴らした。


「天才だ」マーヴィは茫然とつぶやいた。


「私は最初にそう言ったわ」天才魔法少女はそう言い返しながら、率直な賞賛に機嫌を直して、控室にすたすた戻った。


 準々決勝の第四試合は一転して、勇者、勇者、戦士、剣士、闘士、拳士の近接戦闘の大博覧会となった。混然一体の合戦は最も赤く染まり、多数の負傷者を出した。戦士の腕が闘士の斧でずばっと落ちたときにはこの日の最大の悲鳴が上がった。が、歴戦の猛者はすぐにパーツを拾い上げて、逃げまどいながら、なにがしかの回復道具でくっつけて、戦線に復帰した。この戦いは十分の制限時間内に終わらず、脱落者の少なさでアレサンドロ殿が判定勝ちを収めた。そして、これが伝説の勇者チームの準決勝の相手に決まった。


「ここには超人しかいないぞ」伝説の勇者は言った。「勝者も敗者も尋常じゃない。歴戦の強者ばかりだ。勇者は世界中にいた。おれは井の中の蛙だった」


「それを勝ち抜いて、優勝すれば、あなたは真の勇者です。あ、それはもういるか」リタは名簿を見直した。


「つぎはアレサンドロさんだ。元祖勇者だね」アルは言った。


「地元の御仁だな。おれたちはアウェーだ」マーヴィはうなった。


「五万の観衆は敵に回るけど、彼らは弓矢をぶっ放さない。相手は目の前の三人だけだわ。しかも、魔法使いがいない」


「勇者、闘士、拳士の組み合わせだったな。道具を使うにしても、魔法使いには後れを取るぞ」


「何か切り札があるとか?」


「何かって何だ?」


「裏工作、色仕掛けなど」


「勇者はそんなことをしない。おれが保証する」マーヴィは自信満々に胸を叩いた。


 実際問題、裏工作や色仕掛けはなかった。ただし、人員の入れ替えがあった。アクエラ出身の勇者殿は地の利を活かして、サポート役の二名をごっそり変更した。魔法使いと魔術師のコンビである。このような交代要員の人数制限はルール上の盲点だった。


 準決勝第一試合は天空の勇者チームが制した。つまり、決勝の相手の片方は十五番に決まった。「やった! 勝った!」リタは裏賭博のオッズを思い出して歓喜した。「十五の十! 十五の十! 来た! 取った!」


「あー、負けたー」平凡な農民は百ゴールドをすってしまった。

「安心して。マーヴィが優勝して、お小遣いをくれるわ」リタは財布から勇者券を取り出しながらるんるんで言った。


「集中してくれー」伝説の勇者はたしなめた。


 大会六日目の最終試合は注目の一番だった。一方は暗黒の魔女と伝説の勇者と農民という奇怪な組み合わせ、もう一方は元祖勇者と魔法使いと魔術師という順当な編成だ。初戦のような煽情的な挑発合戦は起こらず、事前の面通しは紳士的に進んだ。


 で、案の定、会場は地元の勇者の応援で一丸となった。ウルルとアクエラの旗があちらこちらに翻り、この水の都の市歌が流れた。


「アウェーだ」マーヴィは愚痴った。


「逆境に燃え上がるのが勇者というものだぞ」暗黒の魔女は目をらんらんとさせた。「この一戦でわらわの出番は終わりじゃ。ならば、ここで魔力を使い切っても構わんの? の? の?」


「会場を吹き飛ばさない程度に頼みます」


 ゴングと共に魔女が必勝パターンを発動した。ところが、元祖勇者は魔法の道具で魔法防御をがちがちに固めて、初手の無効化魔法を凌いだ。


「おほほほ、やりよる」リタは魔力を高めながら、狂気の色を深めて、怪しく輝きながら、宙にぷかぷか浮いた。元祖勇者の強力な魔法壁が氷みたいに解けて、ぱつんぱつんと泡のように弾けた。


 最期の一枚が消えた直後、内部の術師の術式が完成して、その冠みたいなものを魔法使いに被せた。すると、煙幕のようなものがもやもやと広がり、すべての魔法効果をかき消した。


「まさか、あれは雲の冠?」リタは魔力的高揚から怜悧な策士に戻った。


「なにそれ?」アルはたずねた。


「魔法を打ち消す雲を出す神器よ。あれもどっかの王家の秘宝だわ。なんでこんなところにあるの?!」リタは焦りを見せて、地上に降りた。


「お嬢さん、勝つためには手を尽くすのが勇者というものです」ディ・ラケーレ殿は雲に紛れながら言った。「あなたの魔法は天才的です。しかし、私も地元の民衆の前でおめおめと負けられません」


「おお、あなたは本物の勇者だ! いざ、勝負と参りましょう」マーヴィは正々堂々と切り合いを始めた。


 他方、サポートの魔法使いと魔術師は煙幕に紛れながら、弓矢とボウガンで物理的な射撃を仕掛けつつ、魔法の雲を纏いながら、リタとアルに近付いた。


「マジじゃない!」リタは遠隔攻撃をバリアで弾きながら、突風の魔法を起こした。しかし、これも雲の冠の煙に打ち消されて、煙幕を消し飛ばせなかった。

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