パーティバトル
「手強い相手だった」マーヴィは夜の宿で魔法の治療を受けながら言った。「皆が最後まで諦めない。あれこそは勇者の鑑だ」
「ほほほ、ご謙遜を。あなたは勝利を誇りなさい、マーヴィ殿」リタは勇者の無数の負傷を手当てしながら言った。「それにしても、死人が出ないのはえらいもんだわ。素人がいない。全員が勇者の名に値する」
「ああ、おれたちが全員でヘルズフェインに乗り込めば、きっと魔王を倒せるぞ」伝説の勇者は冗談ぽく言った。
「それは良い案だわ」魔法使いはきらりと目を輝かせた。「数百人の世界屈指の実力者とファトム砦の強力な魔法の武具、この組み合わせは人間側の最強の切り札じゃない?」
「本気か?」伝説の勇者は目をむいた。
「魔王の討伐は勇者の浪漫、勇者を名乗る者はこれに同調しませんかね? 伝説の勇者さまはどう思います? この大会の優勝者、勇者王が魔王への聖戦を宣言するならば?」
「おれは賛成する」
「とすれば、他の参加者の心の中の勇者も同様ではありませんか? これは千載一遇のチャンスですよ?」
「うーん、そんなにうまく行くか?」
「あなたたちの勇者を信じましょう。そのためには勝つ
! 優勝する!」リタは力強く言った。
「勝敗は最後まで分からない。相手は強敵ばかりだ」
「明日はパーティバトルでしょう? じゃあ、簡単だわ。このリタさまは絶対に負けない。先手必勝、全力投球、一網打尽」魔法使いは拳をかためて、軍師のごとく机を叩いた。「これで伝説の勇者の決勝進出は確定したわ。もう一枠が誰になるか……」
「マーヴィは女の子に会いに行かないの?」アルは不意に言った。
「女の子?」マーヴィは聞き返した。
「マーヴィが昼間に唾をつけた女の子だよ」
「おれは明日の戦いで手一杯だ!」
「野暮ねえ。娘さんはきっとどきどきでお待ちですわよ? おなごの期待を裏切るのは勇者的ではありませんなあ」少女は冷かした。
「散歩に行ってくる」
「はいはーい、朝までには戻ってね。あと、夜道には気を付けてね」
「ふん、鎖帷子を着込むかな」マーヴィはそう言って、どかどかと出て行った。
「うるさいのが出て行った」リタは言った。「さて、アルくんはどれに賭ける? だれが決勝に来る?」
「ぼくは三番のベオウルフ・ラインハルトさんに賭ける」農民は頷いた。
「ほう、穴狙いですな。理由は?」
「名前が強そう」
「あはは! 私は手堅くアレサンドロ殿に多めに張って、マーヴィからの流しでこうこうこうすると……」リタはトーナメント票にちゃっちゃと印を入れて、指折りに皮算用を始めた。
「明日、ぼくはだれをやっつけようか?」アルはたずねた。
「あなたの物干し竿の出番はないわ。私が一気に始末する。あんたは私のうしろにいなさい」
「うん、そうする。でも、リタが活躍すると、マーヴィが目立たたないね。明日の女の子に困らないかな?」
「あんたはときどきえぐいことを言うよね」
「英雄色を好むというやつだよ」
「まあ、そうね。人類の繁栄にはマーヴィみたいな勇者の子孫は必要だわ。産めよ、増やせよ、栄えよ」
「リタは結婚しないの?」
「あんたは?」
「うーん、ぼくは一人で生きられるなあ」
「私も一人で生きられるなあ。この自由という約束された甘い汁を投げ捨てて、謎のベールに包まれた闇鍋的な家庭生活に入るかと言われれば、手放しでうんとは答えられない」リタは言って、アルを見た。「でも、まあ、魔王をやっつけて、平和を取り戻したら、しばらく一緒に暮らす? お試しで?」
「ぼくは構わないけど」
「はい、『大歓迎します!』と悶絶しない時点であなたは候補から外れます」
「だって、浮気は火炙りだし」
「なんで浮気が前提だ!」魔法使いはかっとなった。
二人の婚約は破綻したが、伝説の勇者の逢引きはうまく行ったか、深夜にマーヴィが鼻歌交じりに上機嫌で戻って来た。足取りの軽さと腰の軽さは人類の明日への繁栄を感じさせた。
大会六日目、勝ち抜き戦の後半のパーティバトルがスタートした。勇者の数は四分の一の八名に減ったが、二名のサポート役がおのおのに加わり、総勢は一回戦以来の大所帯となった。勇者、戦士、魔法使い、魔術師、導師、盗賊、弓兵、武闘家、魔物使いなどの多彩な顔振れは屈強な男子の生々しい一騎打ちの良いアクセントとなった。ことさらに数名の女子の参加者は一服の清涼剤だった。
一戦目は真の勇者チーム対天空の勇者チームだった。この準決勝から司会進行役が入って、参加選手の名前の読み上げや、両軍の握手と鼓舞、ルールの確認などのセレモニーを行った。また、相手の殺害以外はほぼフリーとなって、俄然に真剣勝負の色合いが濃くなった。もっとも、医者と回復魔法の使い手と復活薬の準備は万全だった。ちなみに、殺害以外の一発退場は開始のゴング以前の呪文や呪印のフライング、対戦前の能力上昇、四つ以上の魔法の道具の持ち込み、場外からのサポートだった。
両者が配置について、一戦目のゴングが鳴った。最初の数秒は様子見だった。この間に呪文と呪印が完成し、ほぼ同時に火炎魔法が発現した。一方は瞬時に爆発して、もう一方はめらめら燃焼した。さらにぞくぞくと電撃や竜巻、つららやかまいたちが飛び交った。ここまで勝ち上がった上位陣は手練ればかりだった。先手必勝、全力攻撃は安定の必勝のパターンである。魔法が先行するのは予想通りだ。
と、十数秒のどんぱちで天空の勇者の魔法使いの攻撃が途切れた。そこを真の勇者の魔法使いの爆風が襲った。弓の男があえなく吹き飛んだ。
機を見た真の勇者は天空の勇者には直行せず、後衛の魔法使いに突進した。しかし、これを見越した天空の勇者は踵を返して、真の勇者と味方の魔法使いの間に入った。しかしながら、魔法に耐えた真の勇者のシーフが疾風のごとき素早さで背後に回り込み、魔法使いの背を刺した。ところが、これは幻影であり、魔法使いだったもの毒の霧になって、あたりを汚した。真の勇者の魔法使いは追撃魔法をキャンセルし、浄化の魔法に切り替えた。
天空の勇者は息を止めて、シーフに一撃をくれた。これはもろに入って、彼の脇腹を掻っ捌いた。これで両方の後衛が脱落した。そして、一時休止の笛がぴっとなって、負傷者が応急処置のために運び出された。数秒後、毒の霧の幻影を残した魔法使いが別の方向にゆらっと現れた。透明の魔法の効果切れだった。
小休止の幕開けも魔法の応酬だった。しかし、一セット目でかなり消耗した両魔法使いはたがいの防御を破れなかった。同時に両方の勇者が駆け出して、ばちばちと剣を交えた。魔法使いたちもたがいに顔を見合わせて、そちらから少し離れて、堂々の一騎打ちでやりあった。
まもなく、真の勇者が天空の勇者の前に敗れた。その敗北に集中を切らした真の勇者の魔法使いが天空の勇者の魔法使いの電撃魔法を食らって、びりびり痙攣しながら立ちすくんだ。ここでゴングがかんかん鳴って、勝敗が確定した。
「すごい戦いだなー」アルは参加者席から言った。
「本気だな」マーヴィは苛々と貧乏ゆすりしながら呟いた。「本気でやらないと普通に死ぬぞ。なあ、アルのために棄権しようか?」
「ざれごとだわ」リタは一蹴した。「あんたが止めても、私が出る。スイッチが入った。頭の中で戦いの音楽が鳴り止まない。観衆の声が聞こえる。勝利は私たちのものだ!」
「ぼくは後ろにいるよ」
「うん、おれがきみを守るぞ。危なくなったら、すぐに降参しろ」マーヴィはアルの手をがっしり掴んだ。




