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光の剣が光ってしまう

「融資。まるで商売だ」マーヴィは魔族の提案に目を細めた。


「商売ですよ」フィッツジェラルドは応じた。「金銭のやり取りは下手な魔法より強力な縛りです。人間は契約を重んじる。そして、いくばくかの金を払わないと、大事に扱わない」


「完全に同意いたします」リタは深くうなずいた。「ちなみに、卿はおいくらで貸し出します?」


「武器のみ、武器と傭兵込み、武器と傭兵と魔法具込みで時価及び応相談ですね」魔族はてきぱき答えた。「広義にはこれは戦力や武力の提供であり、従来の傭兵部隊の運用と変わりません」


「魔法具?」リタは聞き返した。


「三階は特別な道具の展示室です」卿は天井を指した。


「魔力を増強する可愛いアクセサリみたいなものはあります?」


「もちろん。ルビーとミスリルの黄金の腕輪、エメラルドとオリハルコンの首飾り、ダイヤとアダマンタイトの指輪などはいかがです?」


「すてき」魔法少女はそわそわした。


「後にしよう。今は光の剣だ」剣士はすぱっと言った。「フィッツ卿、おれたちの目的はあなたの野心や商売の相談じゃない。勇者の武器だ、光の剣だ」


「ああ、光の剣ですか……」フィッツジェラルドは興を削がれたように調子を落とした。「あれはまさに私の武器集めの記念碑的な一本でした」


「でした? ここにはもうない?」マーヴィはたずねた。


「ありますよ。そこです」フィッツジェラルドは武器の間の片隅の地味な展示台を指した。そこには一本の地味な古い剣と豪華な鞘があった。


「鞘はぴかぴかだけど、剣はぼろぼろだね」アルは言った。


「これは埃まみれだな……係りの者がサボったな……」フィッツ卿はぶつぶつ言って、そのなまくらを取り上げ、磨き布を手に取り、つかつかと廊下に出て、ふっと埃を払った。


「それが光の剣ですか?」リタは尋ねた。


「ルーメンの伝承ではそうですね」魔族は言って、審美眼を刃渡りに走らせた。「うーむ、作りが雑だな……」


「光らないの?」アルが言った。


「この通りです。むしろ、私が見つけたときにはこの剣はもっとぼろぼろでした。一応、この百年間、定期的な手入れを欠かさず、鞘をこしらえ、油を与え、かいがいしく取り扱いますが、伝説の目撃者にはついぞなれません」


「それは本物ですか?」マーヴィは疑った。「なんか安っぽい模擬刀っぽく見える」


「実際、切れ味はペーパーナイフ並みです」魔族は切っ先を長い指ですっと撫でて、無傷の指先を見せた。


「偽物ではありませんか?」


「高度な魔法の仕掛け扉の先の隠し部屋に伝承通りの剣がありました。さて、それが偽物でしょうか?」


「あなた以前にすり替えた者がいた」


「とすれば、その者とその剣はどこに行ったか? 仮に人間が伝説の勇者の遺産のような貴重品を見つけたならば、それを大々的に喧伝しませんかね?」


「発見者が謙虚な人物だった」


「勇者の剣は人間世界には夢と希望です。謙虚な人物は高徳の人物でしょう。そのような人は匿名で公表しますよ。偉大な発見を完全に秘することは真っ当ではありません」


「では、なんであなたは発表しない? そして、なんであのようないたずらを仕組んだ?」


「この剣の真偽が定かでありません。そして、若気の至りです」フィッツジェラルドは答えて、再三にその安っぽい剣を見つめた。「うーむ、刀身がぐにゃぐにゃだ。所詮、伝説は伝説か……」


「文句を言うなら、おれたちに返してくれませんか?」勇者マニアは言った。


「ふむ、私は構いませんよ」魔族は長い爪でぼろ剣をちんと弾いた。「正直、これは私のコレクションの中で最もダメな一本です。思い出の品、それだけです。海で拾った貝殻のようなものだ。これをよければ、別の魔法武器を置ける。合理的ですね」


「おお! では、いただけますか?」


「ええ、あなたのお財布の中身の全部と交換しましょう」フィッツ卿はさらっと言った。


「金を取るのか!」マーヴィは目をむいた。


「私の目当ては金額ではありません。あなたの本気さです」


「マーヴィ、冷静にね」リタは冒険の経理担当に助言した。


「差し上げますよ!」剣士は大きい財布と小さい財布をぱっと取り出して、交渉上手の魔族にもってけドロボーとばかりに差し上げた。


「おしまいだー!」魔法使いは仲間の再三の暴挙に茫然と立ちすくんだ。この不穏な叫びに付かず離れずでいたカリムとハテムが踊り場から顔を出した。


「今夜は野宿だ」アルはいつものように平然と言った。


「では、丁重にお返しいたします」フィッツジェラルド卿は有り金を受け取って、安っぽい剣をイカれた客人に手渡した。


「おお、これが……」マーヴィは感動と興奮で声を震わせながら、ダメな一本を四方八方から吟味した。「これが……本当に伝説の剣だ?」


「光らないね」


「微塵の魔力も感じないわ」


 身内の散々な酷評と側近たちの失笑と魔族の憐みの眼差しがおろかな剣士にずしずし圧し寄せた。マーヴィの顔色が赤から青、青から紫になって、目が異様に血走り、足元がふらついた。


「アル殿、許してくれ……」彼はそう言って、農民にすがりついた。


「うん、ぼくは構わないよ。また何か依頼をやって、お金を稼ごう」アルはけろっと言って、剣士の狂った頭をぽふぽふ叩いた。


「何というおおらかさ! 私はこのドアホウを許さないけど」リタは冷たく言い放った。


 そのとき奇妙なことが起こった。マーヴィの手の中の安っぽい剣がふるふる震え、霊妙な淡い光を発した。直後、閃光がほとばしって、薄暗い廊下を白く照らした。


「光の剣だ……」マーヴィは茫然と呟いた。


「ば、馬鹿な!」有り金をかっさらってほくほくだったフィッツジェラルド卿はほとんど初めて感情を爆発させ、あきらかな狼狽の色を見せた。


「伝説は本当だった!」マーヴィは立ち上がって、光の剣を青眼に構えた。


「それは私のものだぞ」フィッツ卿はそう言って、財布を投げ捨て、聖なる光に吸い寄せられた。「勇者の力、魔王を超える力……人間の手に過ぎたものだ」


「勇者……魔を討つ者……おれの心が聖なる光で満たされる! ああああああ」マーヴィは雄たけびを上げながら、剣を頭上に掲げた。謎の光はよりまばゆく輝き、廊下を真っ白に染め上げた。


「それを寄越せ……」フィッツ卿は火に誘われた蛾のように光の方へふらふらと近付いた。


「あああああああああ」マーヴィは狂信的な叫びを発して、光の剣をぶんと振り下ろした。指の肉すら切れなかった切っ先が流星のごとくきらめき、魔族の肩から腰までばっさりと一刀両断した。


「おおお……おまえは何者だ……あ、あああ、ああああああ!」フィッツ卿は壮絶な断末魔を上げつつ、太刀筋から侵食した光で消し炭のごとく消滅した。


 この超絶な力は使用者にも及んだ。マーヴィの手の中で閃光が渦巻き、手のひらの皮をべろべろに焼き焦がした。挙句にその武器自身も力を使い果たしたか、花火のように燃え尽きた。


「貴様!」踊り場にいた二人の側近が白昼の惨劇に怒声を上げつつ剣を抜いた。しかし、お互いが顔を見合わせて、神経質そうなハテムがぎょっとした。


「カリム、おまえのその顔!」


「私の顔が何か?」カリムは怪訝に顔をしかめた。それは褐色の偉丈夫のものでなく、蛇っぽい魔族的なものだった。


「魔族!」リタはその変化に気付いて、溜めなしの火炎魔法をぶっ放した。


「おっと!」隙を付かれたカリムはかっと目を見開き、炎の玉を吐いた。二つの火球が空中で激突して、絶大な爆発が生じた。衝撃で窓が割れて、建物がびりびり揺れた。


「おまえは魔族だったのか……」ハテムは剣をそちらに向けた。


「え、バレたか? さっきの妙の光のせいか? 変装が解けちまったか!」カリムは荒っぽい口調で言って、おのれの爬虫類風の手を見て、蛇みたいな長い舌をぺろっと出した。

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