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32話 悪魔が真実を語る時

「王子様が庶子って扱いにされると継承権が無くなっちゃうんだよ副部長。だから困ってるの」

「うん。ヘンリー7世のボーフォート家も本来は継承権無いんでしょ?」


「だからヘンリー7世だって議会を通して継承権を承認してさらに嫡子回復したお姫様と結婚して正統性を確保したからで………ん? じゃあ王子様達は? なんか混乱してきたぞ。ちょっと待って」


 周囲で思い思いに意見が交わされる。

「議会のランカスター派が結託して王子様の継承を通さない可能性があったじゃん?」

「実はゴリ押せば普通に行けたんじゃないか?」


「奥さんが亡くなった時にリチャード3世がある事ない事言われて否定した「エドワード4世の娘であるエリザベスと結婚して正統性を確保」これ、ランカスター側の発想だろ。

 正統性も何もリチャード3世は血の繋がった王弟だぞ。他に居ないならリチャード3世が継ぐしか無かったんだ、なのにあのタイミングでもこれだ」

「………つまりあの時点でも流言飛語で攻撃できるぐらいにはランカスター勢残ってんのか………確かにダメかもしんない………」

「いやでもバッキンガム公の反乱とかはエドワード5世を退けたせいで起こった反リチャード3世の側面があったわけで、そこが無くなれば……」



 副部長が眠そうな目で発言者達の顔を伺いつつ、続けた。

「何かこれが通るか不安になって来たけど、リチャード3世の後、王位継承者としては立場が弱いヘンリー7世が統治できたのって、議会が認めたのもあるけど、王様を倒したんで征服王朝とみなされたんじゃないかって説があるって書いてあった。

 これが通ったならヘンリー7世がリチャード3世にやった事、そのまま甥っ子にやってもらえばいい」




 寄り合い同好会集団、合同同好研究部。

 暇に飽かせて、童謡『Who killed Cock Robin』の元ネタを検証していたところ、歌の由来がリチャード3世の鎮魂を祈るものだったのではないかという仮説が出た。


 リチャード3世と言えばシェイクスピアに描かれる悪役主人公であるが、その悪行の多くは後代に創作されたものとされる。


 イングランドとフランスが争った百年戦争の終わり頃、イングランドでは中央政治から遠ざけられた貴族の間で、枢密院への不信が募り爆発。薔薇戦争が勃発する。

 その争いの中心となったのが枢密院のランカスター家とその分家ボーフォート家。そしてリチャード3世の父親、ヨーク公リチャードである。


 ヨーク公リチャードは王位継承権を得るものの、戦死。代わってリチャード3世の兄がエドワード4世として王位に就く。

 エドワード4世と従兄弟のウォリック伯、リチャード・ネヴィルが協力し、敵対していたランカスター派を追い落とすことに成功。

 この治世の間、リチャード3世はグロスター公の地位を与えられ成長していく。


 しかしエドワード4世の秘密結婚の頃から徐々にエドワード4世とウォリック伯の仲が悪化。

 ウォリック伯はクラレンス公ジョージと結託して反乱を起こし、エドワード4世とグロスター公リチャード達は国外に脱出する。

 その翌年、エドワード4世とグロスター公リチャードは軍備を整え、反攻を開始。


 この戦いによりウォリック伯は討ち死に、国王だったヘンリー6世の直系は途絶え、ランカスター派は勢いを失い、エドワード4世は国を治めた。


 エドワード4世の治世中、兄弟であるクラレンス公ジョージの処刑や、周辺国との戦争などがあったものの、概ね穏やかに国は保たれていた。

 しかし、そのエドワード4世が急死する。


 エドワード4世は死の間際に、グロスター公リチャードを護国卿に任命した。

 しかし、グロスター公リチャードは突然、甥の戴冠式を延期。

 秘密結婚の以前に別の女性と交わされていた兄の婚約によって、義姉との結婚は成立していないと発表。甥であるエドワード4世の息子たちの嫡出を否定し、継承権を無効化。自身が王位に就いた。

 リチャード3世である。


 しかし簒奪の形になったためか、国内が不安定化。

 リチャード3世と同盟者のはずのバッキンガム公の反乱などが勃発。

 ボズワースの戦いではリチャード3世のほとんどの軍が動かず、ランカスター派の当主、ヘンリー7世に敗北した。



 この一連の史実を確認した上で、一番極端な事を仮定した。すなわち、リチャード3世が完全に無罪だった場合、何を思ってどんな行動をしていたのか。である。



 そうして出てきたのが、エドワード5世戴冠式騒動の真犯人は、エドワード4世時代の恩恵が無くなる事を恐れたウッドヴィル家の一部が、リチャード3世を排除しようとしたのではないか、という仮説である。


 エドワード4世とエリザベス・ウッドヴィルの結婚により、国王の庇護を受けていたウッドヴィル家。


 しかしエドワード4世の急逝により、急遽、護国卿に任命されたのは、ウッドヴィル家の対立派閥と目されていたリチャード3世だった。

 後ろ盾が無くなる事を恐れたウッドヴィル家の一部が、教会関係者を巻き込んで陰謀を企んだ。


 戴冠式でエドワード4世の重婚を指摘してその息子である王子を非嫡子扱いし、偽王排除の暴動を誘発する。その動揺を突いて政敵であるリチャード3世を暗殺し、自作自演の嫡子回復の功を上げて王を傀儡化する。

 しかし、その実態はランカスター派が策謀した、ヨーク派の内紛を狙う離間計だった。



 リチャード3世はそれを阻止しようとしたが、リチャード3世に味方してくれたアンソニー・ウッドヴィルや盟友のヘイスティングス達は騒動に紛れて処刑された。

 甥達は教会法に諮られるのは回避したものの、法律的には庶子という扱いにせざるを得なくなった。

 やむを得ずリチャード3世が王位に就く。


 法律上の庶子。それは国内の不穏分子を排除した後で、法律を削除して甥達を嫡子に戻し、王位に就ける布石だった。


 しかしロンドン塔で保護している間に、甥達が新興感染症、発汗病で亡くなった。

 埋葬時に教会法の下で庶子の扱いをされるのを回避するために、リチャード3世は甥達を兄、エドワード4世の墓に秘密裏に埋葬した。


 一方、王子達が排除されたことで王位にあと一歩に届いてしまったバッキンガム公は、反リチャード3世を標榜する集団に担ぎ上げられる。その多くはエドワード4世派と見せかけたランカスター派だった。

 反乱が鎮圧され、バッキンガム公が処刑されると、反乱で束になった集団は大陸に渡ってヘンリー7世のもとに参じた。


 リチャード3世がヘンリー7世を迎え撃ったボズワースの戦い。

 戦闘の直前に発汗病を発症したリチャード3世は、ヘンリー7世を討ち取るために突撃を敢行し、玉砕した。

 リチャード3世の症状に気づいた者の多くは、その戦いの最中にヘンリー7世に寝返ることを決めた。


 そしてヘンリー7世の治世下、流行する発汗病などの社会問題を新王朝からそらすために、リチャード3世を悪者に仕立てる印象操作が行われた。


 30年後、トマス・ウルジーが主導でフランスとの親和路線がとられた。

 そのために過去のチューダー朝とフランスの共同戦線であるボズワースの戦いが引かれ、リチャード3世は悪役に仕立てあげられた。

 それを記録に残していたのがトマス・モアだった。


 という仮説である。悲劇で終わったが、じゃあどうすればよかったんだろ? という話をしている。




「いやいやいやいや! 事実かどうかはともかく、この仮説だとこの叔父さん、甥っ子のためならマジで命を差し出しかねないぞ。何でこんな所でシェイクスピアの方のリチャード3世のセリフと変にかぶるんだよ?」

「?」


「『Lo, here I lend thee this sharp-pointed sword』

『Which if thou please to hide in this true bosom』

………『Then bid me kill myself, and I will do it』」

「I will do itしか分かんなかった」

 暗い顔でセリフをそらんじた元英語研究部近堂(こんどう)

 きょとんとした顔で見る早矢はや副部長。

 不服な顔の元語学研究会谷志田(たにしだ)が補足した。



「古語のyouとかで混乱したんだな。シェイクスピアのリチャード3世がアン・ネヴィルを口説くシーンだよ。

 ヘンリー6世とその息子の葬式で、仇を前にして激怒するアンに、私を許せないなら、って剣を差し出して「剣を貸すからこの胸に刺してくれればいい」「死ねと言うならそうしてみせる」って言うんだよ」

「へー」


「今リチャード3世生存チャート作ってるの!」


「ん? ああ、そっか。別にそんな深刻なことしなくていいよ。

 リチャード3世が戴冠したら、甥っ子にちょっとロンドンを離れてもらって、折を見て護衛の人を大勢連れて帰ってきてもらうんだよ。

 それをノーフォーク公とか信頼できる人の軍隊と一緒に白旗を振って迎えて、自分の頭の王冠を甥っ子に被せればリチャード3世の王朝を倒した征服王エドワード5世誕生。厳重警備の中で議会にかけて、王位を認める法律を制定すればいい。

 継承じゃなくて征服で勝ち取ったんだから庶子関係ない。甥の兄弟姉妹は全員新興のイングランド征服王の血縁」



「え……………」

「その茶番………通るのか………?」

「いや分かんないけど。ヘンリー6世の王妃様とかもリチャード父さん達が議会に出なかったから結構強引にリチャード父さん達を反逆罪にしたりしてたでしょ?」

「コヴェントリーの時か」



「……利害関係も含め個々人の感じ方には差が出るとしても、歴史的に国民の大多数が落としどころにするパターンは割と大きく変化がない。

 アメリカなら選挙に勝った党と大統領だし。

 日本だと天皇家を旗印にして武威を示した奴が総大将」

「……確かに」

「朝廷から距離を置こうとして新政権作って鎌倉幕府を開いた頼朝(よりとも)も、とりあえず建前として官位もらってるし」

「南北朝とかでもとりあえず誰か皇族立てて錦の御旗掲げるしな」

「戦国時代の混乱期も信長が幕府、延いては朝廷を持ち上げまくったあたりで方向性出てきたし」

「明治維新も鳥羽伏見の錦の御旗で流れ変わった感あるもんな」

「………その理屈だと今の日本の総大将、GHQと言うかアメリカと言うかNATOなんじゃないだろうな。マッカーサー元帥と昭和天皇のツーショットとかのせいで」

「ははは、ありそう」



「ウィリアム征服王も居るし、ウィリアム3世の名誉革命も通った。その茶番もきっと通る」

「ロンドン市民が認めたら通りそう」

「裏側からおおよその事情をぶっちゃけて広めた方がいいんじゃないかな。「ランカスター派が教会とウッドヴィル家を脅してエドワード4世の結婚にケチ付けて王子を庶子扱いにしようとしてる」みたいな感じで。

 ジェーン・ショアとか、公共良俗違反でも顔が広くて人気者でエドワード兄さんのマブダチでしょ? 協力してくれると思う」


「えー、それで「はい脅されてました」って戻ってきた奴いたらむかつかない?」

「裏切りって別組織で新しい足場を構築しないといけないんだから結構大変らしいんだ。ランカスター陣営になったキングメーカーの従兄弟もそうだったでしょ? その苦境で元組織に許されそうと思ったら戻って来ることがある。

 解決が早まるならそれに越したことはないでしょ。その後の事は好きにすればいい」

「情報戦やるなら発汗病の脅威を喧伝した方がいいかもね。裕福な家庭の働き盛りの男性に発症しやすい奇病。ロンドンから有力貴族を遠ざける格好のネタになるし、戴冠式の日取りが定まらない言い訳になる。実際ヘンリー7世がそれで戴冠式を遅らせてるみたいだし」



「がっちり証拠を固めて教皇庁に訴えれば、もしかしたら甥の嫡子のお墨付きも出してくれるかもね。

 継承問題にできないならエドワード4世の重婚云々に意味はない。

 教会がごねたら教会関係者が立場を悪用して世俗の事に首突っ込んだ経緯が英国王の名とともに永遠に残る。醜聞だと思うよ」

「何ならこの一件で教皇庁公認で英国国教会の形態に移行したりして」


「まさかヘンリー8世のあれは歴史の修正パッチなのか……」

「もうちょっと穏やかな修正パッチお願いします」

「それだと奇しくもヘンリー8世がリチャード3世の仇をとった事になるんだが………」



「まぁその後も戦闘はちょくちょく起こるだろうけど、エドワード4世派に紛れたランカスター派の暗躍が無くなる。多少は安定するし敵味方の区別が付けやすくなるはずだ」


「ランカスター派との紛争どれくらい長引きそう? 名誉革命もあの後の方が大変だったよね?」


「………ブルターニュの王様、ヘンリー7世の保護もしてたけど監視してるのもあったらしいでしょ。

 バッキンガム公の反乱の時はヘンリー7世を支援してイングランドに向かわせたりしたけど、その後はリチャード3世とブルターニュの王様はヘンリー7世の身柄の引き渡しの交渉してたりする。かなり中立というかどっちにも味方してる。

 そしてブルターニュの王様の娘は甥っ子エドワードの婚約者。

 甥っ子が健在で、バッキンガム公が反乱を起こさずにランカスター派が集まることがなく、ヘンリー7世の脅威度が上がらなければ、ブルターニュの王様がヨーク派ランカスター派の仲裁を買って出てくれるんじゃないかな。

 娘の将来は安定してて欲しいだろうから」


「その後でどっちかが仕掛けたらブルターニュの王様の顔を潰すことになる。下手な動きはしたくないと思うぞ」


「………ボズワースの戦いが発生しないでブルターニュが深く関わるとなると………フランスとブルターニュの狂乱戦争の真っただ中で援軍として参加してたイングランド護国卿が病気でぶっ倒れて大崩れのフラグが立った気がする」

「何でそういう不吉な予言をするのか」

「せめてもうちょっと気の利いた言い方して。マクベスの三魔女を見習って」



「数日ぐらい責任者が寝込んでても大丈夫な環境にしないと詰むな………」

「リチャード3世が2年後に病死しちゃうと、甥っ子まだ15歳だからね……」

「つまり先輩たちと同い年? 治められると思います? 国」

「議会って先生達が滅茶苦茶怒ってる職員室に行くより怖いだろ。王族の人って大変だな」



「病気といえばリチャード3世の奥さんと息子はどうにもならない?」


「二人とも病死だから、早目に王様を辞められれば、もしかしたら感染機会が無くなって助かるかもね。

 奥さんが病死しちゃったの……国王夫婦での行幸とかの仕事で忙しくなって、体力落ちちゃったのもあると思う………」

「中世の王様って病人に接する機会が多かったらしいからね」

「何で??」


「ヘンリー6世のお墓も治癒の奇跡の話が出たでしょ。多分プラシーボ効果とかなんだけど、ロイヤルタッチっていって、王様が触ると病気を癒す効果があるとされてたんだってさ。

 多分そこから聖人による治癒とかの印象も合わさって、ゲームとかマンガとかに出てくる西洋系回復魔法の御先祖様」




「ランカスター派と折り合いつけないといけないからってブルターニュの王様の薦めで顔を合せたら、姪のエリザベスとヘンリー7世の気が合って結婚した途端ヨーク家の男子が軒並み病死して結局ヘンリー7世が継ぐ回が複数回ありそう」


「何だその腑に落ちない終わりよければ総てよしは」

「全然よくない」



「ちょくちょくシェイクスピアさんが来るのは何なんだ?」

「名作は汎用性が高い」


「……シェイクスピアさん、このパターンのリチャード3世も想定してたかもしれないでござるな」


「?」

「サブカル研の先輩の一人の創作論ですぞ。

 書くのが遅い人は書くのが速い人に絶対勝てない。

 なぜなら才能が同じでも、書くのが速い人は遅い人が一本書いてるうちに何本も書いて、一番いい展開を選べるから。

 面白い人が寡作に見えたら、その人は一本書く間に千回推敲してる。

 だそうですぞ」


「ヘンリー6世三部作とリチャード3世、シェイクスピアさんのかなり初期の作品らしいでござる。史実や他の作品を元ネタに創作したりするシェイクスピアさんが、自分の過去作について考えをめぐらせてないわけないと思うでござるよ」

「……He was not of an age, but for all time。彼は時代の人でなく、いつの時代でも時の人。の巨匠の頭の中か、どうだったんだろうね………」




「いやーおもしろかったね!!!」

 部長が本当に嬉しそうである。


「確かに面白かったけど」


「一見すっきりしたように見えるけど、もしもだらけのか細い綱渡りなんだよな」

「誰がコマドリを殺したかの解釈とか発汗病とか、マジでほぼあてずっぽうだからね」

「傅役が戴冠式から離れる理由付けとして緊急逮捕は正しいかとかさ」


「未検証の部分も多いんですよね。特に法律面」

「公式文書の名前が分からないから検索するための単語すら分かんなかった」

「『中世イングランドの教会法の下の血族の訴えによる離婚について』とか『中世イングランドの戒厳下の臨時法廷について』とか『中世イングランドの教会法の下での埋葬時の庶子の扱いについて』なんて調べても出てこねーよ、専門書とか読めるわけねーよ」



「あと普通にロンドン塔から発見された子供達の骨の可能性もあるんだよね。このパターンでも」

「発覚する可能性を最小限にしたいならその場に埋めるのが一番だからな」

「一部の仮説は割と願望入ってるよね」


「ぶっちゃけ甥、生存してる可能性もあるしな。特に弟の方。

 万が一の時はノーフォーク公が姪達とジョージ兄さんの子達担当、他の人が甥達担当って分けてて、思いがけずボズワースで多数討ち死にしたせいで人が揃わなくて巻き返しできなかったみたいなオチもありうる」


「弟の方が生存してたとしたら、エドワード兄さんのお墓の棺、片方空っぽ?」

「………完全に甥っ子弟の行方を隠蔽しようとしたなら、替え玉の子の棺かもね」

「え? あー………近い時期に死んじゃった歳の近い子を……みたいな?」


「病死したリチャード3世の息子とか」

「え?!」


「リチャード3世の息子、生年月日がはっきりしてない。残ってる記録から推定されるのが7~11歳。甥っ子弟が行方不明になった時期とほぼ同い年。1476年生まれって説もあるけど、結婚の翌年、1473年生まれって説が正しいなら甥っ子弟と同い年のはず。

 そしてリチャード3世の息子は墓はあるけど棺が無い。どこに埋葬されてるのかは未だに不明だったはずだ」



「結局真相どれなのさ?」

「なーんも判明してないよ。毛色の変わった素人仮説が一本加わっただけ」

「え? そうなの?」


「副部長。念のため言っておくけど、世間一般ではリチャード3世は『お芝居とかで描かれるほど極悪非道でもないらしいけど、よく分からない簒奪をやって結果的に王朝を滅亡させた王様』だよ」

「……そうか……」


 部長が手を叩いた。

「まあ事実なんてどうだっていいさ。専門家じゃないのにこれが真実だ!って騒ぐのが問題なだけで」

「まぁ検証は専門家の役目ですね」


「そうそう。さて、どうやってまとめようか」

 そこに元電子音楽研究部津都築(つづき)から声がかかった。


「部長、やっぱ字数入りきらないよ。歌詞を変えたいよ」

「え、そう? 英語得意な人、作詞できる人、替え歌得意な人集合ー」

「歌詞のメモこっちです」


 美夏原みかはら部長と書記の能上のがみが移動していくのを副部長早矢(はや)が頬杖をついて見送った。


「実際の所、どういう経緯で作られたんだろう、コマドリの歌」

「込められたメッセージねぇ………あるのかどうかも分からないからね……」




 教室の別の場所から声が上がる。


「誰かー。能上のがみの代わりにリチャード3世の銘、メモしといて。古フランス語だって」



 1483年に署名とともに綴られていたというリチャード3世の銘は『Loyaulte me lie』だったという。


 意味は『忠誠が我を縛る』。


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