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21.国王の死

 暇な寄り合い同好会集団、合同同好研究部。

 暇に飽かせて、童謡『Who killed Cock Robin』の元ネタを検証中。


 現在は15、16世紀にリチャード3世の鎮魂を祈るためにできた。という仮説のもと、薔薇戦争の内容を確認している。





 百年戦争の終わり、中央政治から遠ざけられた貴族の間で枢密院への不信が募って爆発。イギリス内戦、薔薇戦争が勃発する。


 その中心となったのがリチャード3世の父親、ヨーク公リチャードである。


 ヨーク公リチャードは王位継承権を得たものの、志半ばで戦死した。代わってリチャード3世の兄がエドワード4世として王位に就く。


 エドワード4世と従兄弟のウォリック伯、リチャード・ネヴィルが協力し、敵対するランカスター派を追い落とすことに成功。


 このエドワード4世の治世の間、幼いリチャード3世はグロスター公の地位を与えられ成長していく。


 しかし、エドワード4世の秘密結婚の頃から、徐々にエドワード4世とウォリック伯の仲が悪化。


 ウォリック伯はリチャード3世の兄のクラレンス公ジョージとともに反乱を起こし、エドワード4世達はブルゴーニュに脱出する。


 その翌年、エドワード4世とグロスター公リチャードはブルゴーニュで軍備を整え、反攻を開始。



 現在、国を追われたエドワード4世が戻ってきて、ウォリック伯が戦死した。

 バーネットの戦いが終わった所である。





「従兄弟はエドワード兄さん達がブルゴーニュから戻って来たのを聞いて、フランスに応援を呼び掛けていたらしい。

 風向きのせいで船が動かず、フランスに居たヘンリー6世の王妃様と王子様が上陸したその日、ウォリック伯は戦死していた」

「あー……」


「上陸した王妃様達の軍がウェールズのランカスター派と合流するつもりらしいって分かって、エドワード兄さんを中心に追跡が始まる。リチャード3世とジョージ兄さんも一緒に出撃。

 一方、エドワード兄さん達が出撃した後、ロンドンはランカスター派に襲撃された。ロンドン包囲戦。

 だけどエドワード兄さんの奥さん、エリザベス義姉さんの実家のウッドヴィル家が迎撃して持ちこたえた」

「エリザベス義姉さんの実家有能だな。ただ贔屓されただけじゃなかったんだな」


「そして王妃様王子様達が、川を越えればウェールズまであと少しってところでエドワード兄さん達が追いついて戦闘になった。

 これがテュークスベリーの戦い」


「王妃様が戦場に居るの?」

「流石に戦闘中は近くの修道院に避難してたみたいだけど」


「王子様は?」

「この戦闘中に死んだ」


「死なせちゃっていいものなのそれ?! この間までリチャード父さん、反逆罪にされないように王様の扱いとか慎重にしてたよね?」

「流石に王妃様も居るし、遺体を晒すのは避けて普通に埋葬した様だ」


「シェイクスピアの劇ではリチャード3世が殺したことになってるし、一部の話ではエドワード4世、エドワード兄さんが処刑したことになってるらしいけど、多分エドワード王子は戦闘中、恐らく潰走時の混乱の最中に突発的に死んだ」



「一説によれば王子様は顔見知りのジョージ兄さんの所に降伏しようとして近づいたところを、兵士に切られちゃったみたいな話がある」


「……顔見知りだっけ?」

「ジョージ兄さんはエドワード兄さんから王位を獲るために従兄弟のウォリック伯と一緒に行動してたでしょ。

 その時に成り行きでフランスに亡命してランカスター派と手を組むことになったから、顔ぐらいは合わせてるはず。

 義弟になるわけだし」


「え? 義弟?」

「ジョージ兄さんとエドワード王子様の奥さんは、従兄弟の娘の姉妹」


「あーそっか……政略結婚で……………いやジョージ兄さん王位に野心バリバリだったから、うっかり殺したって言っても怪しく見えちゃうだろ」


「なぜちょくちょく書かれるリチャード3世でもエドワード兄さんでもなくジョージ兄さん犯人説に行く?」

「ジョージ兄さんは一回裏切ったから、エドワード兄さんが警戒して見える位置に配置してたらしい。独断で意図的に殺害は多分無理だぞ」



「この後で王様のヘンリー6世も死んでるから、ヨーク陣営全体が今となっては王様達を殺しても問題ないと判断してた可能性が指摘されている」


「王様も死んでるの?」

「この戦いの後、エドワード4世達がロンドンに凱旋して王子の死を知らせた直後にヘンリー6世は死んだらしいぞ。死因は鬱によるもの。だそうだ」


「……殺されたんじゃないの?」

「当時の人も含め全員そう思ったぞ」

「明言こそしていないものの、隠す気がさらさらないって事はつまりヨーク家の天下だったと認識されている」



「1910年のヘンリー6世の遺体の調査では頭骨に損傷が認められたとの事」

「うわ……」


「まぁリチャード3世が1484年にチャーツィー修道院からウィンザー城に改葬してるらしいんで、その時とかに破損した可能性もない事もない。

 どうもヘンリー6世の骨の一部が盗まれたっぽいんだよね」

「何でまた……」

「何か、王様が埋葬されてて治癒の奇跡の起きる場所、っていうんで人気スポットになっちゃってたらしくて、もしかしたらそれにあやかろうとして…………」

「亡くなってからも災難だなヘンリー6世」



「ヘンリー6世殺害、シェイクスピアでも描かれてるんでリチャード3世が犯人って事にされがち。まぁ実行犯が誰かは別にして、王様殺害の判断を下したとしたらエドワード兄さんだよね」


「ものすごくヨーク陣営に好意的な可能性を上げると、鬱状態で息子の訃報を聞いた王様が衝動的に投身自殺。

 自殺は教会に埋葬できなくなっちゃうから事実を隠蔽。ぐらいかなぁと……」


「そうなの?」

「キリスト教圏では自殺者はキリスト教の葬儀を上げられないんだそうな。かなり古くからある決まりで、割と最近まで残ってたはず」

「自分で死を選ぶって事は神様を信じられなくなった、信仰を捨てたのと同義と見なされたらしい」



「頭部外傷が死因で、ヘンリー6世は死亡した事を公表するために、少しの間、棺に入れられて見えるように安置されてたって話が本当なら、怪我があるとすれば後頭部だよな。

 暗殺なら背後から殴るか高所から対面状態で突き落とすか。自殺なら後ろに倒れる様に飛び降りた」

「遺体置いといたら、よく見たらバレちゃうんじゃない?」

「遺体と言えど普通は王様には近づけないはずだよ」

「転落死ってかなり衝撃が加わるから、頚椎とかに痕跡残ってるんじゃないの?」

「20世紀の調査の時点でかなりボロボロだったらしいから、どうかなぁ……」

「仮に転落でも突き落とされた可能性は消えないし」



「王様を殺すにしてもやりようがあるだろって気もする。時間を空けて病死を演出するとかさ。後でどこで揚げ足とられるか分かんないし」

「でも放っておいて王様担ぎ上げる連中が出てきても困るでしょ。ロンドン襲撃されてるし。暗殺の可能性はあると思う」

「この辺のエドワード兄さんの判断がリチャード3世の塔の王子達への判断に影響を与えてそうな気がするから、なるべく明らかになってほしいんだけどね」

「公開されてる以上の情報はないぞ」


「とにかく、1471年。ヘンリー6世は死んだ。

 エドワード兄さん29歳。ジョージ兄さん22歳。リチャード3世、19歳」




「エドワード兄さんの治世は比較的安定していたとは言われてるけど、何だかんだ言って色々起こる。例えばジョージ兄さんとリチャード3世がバチバチする」


「何で?? 王位狙うならバチバチするのはエドワード兄さんじゃないの?」

「1472年。リチャード3世、20歳。ジョージ兄さん23歳。

 それぞれの奥さんの相続する財産を巡って争いになったらしいんだよ。流石に戦争じゃなくて民事裁判的な争いだけど」



「………奥さん? リチャード3世結婚してたっけ?」

「この頃に結婚したんだよ。リチャード3世の奥さんはアン・ネヴィル。ジョージ兄さんの奥さんの妹」

「というかこの紛争の原因がリチャード3世の結婚だ」


「あー奥さんが姉妹だから相続で……。ん?

 アン・ネヴィルって事は従兄弟のリチャード・ネヴィルの娘?」

「合ってる」

許嫁(いいなずけ)っぽい幼馴染?

 結局兄弟で幼馴染と結婚した感じ?」

「そう、リチャード3世の結婚相手は従兄弟のウォリック伯の娘、アン・ネヴィル」


「その子、ヘンリー6世の息子の王子様と結婚してなかった?」

「合ってる。エドワード王子が戦死しちゃったから未亡人だよ」


「リチャード3世とアン・ネヴィルとの結婚。

 シェイクスピアの『リチャード3世』ではアンが、王様と夫の仇、って恨みをぶつけてくるのに対して、リチャード3世が、彼らを殺したのはあなたと結婚したかった一心で、みたいな感じで口説き落として篭絡したことになってる。

 財産目当ての演技なの」


「いや、そもそもこの二人幼馴染だよね?」

「はっきりした記録はないけど、史実では多分そう」



「親戚で幼馴染で許嫁で、政略結婚のせいで敵方と結婚して引き裂かれて、自分が戦った戦争で父親が死んで夫も死んで未亡人になってて、相続で難色示す兄にも邪魔されたけど結婚したわけだ」

「リチャード3世、相続でかなりジョージ兄さんに譲歩してるっぽいんだよね。

 一説によるとジョージ兄さんが相続権で揉めてアン・ネヴィルの身柄を隠したけど、リチャード3世が方々手を尽くして発見して教会にかくまったとか。

 裏切ったとか考えなくていい、財産もいらない、結婚してって」


「大恋愛じゃん」


「この時点でリチャード3世、庶子居るけどな。男の子女の子一人ずつ」

「ずっこけたわ。幼馴染のアンちゃん一筋じゃないのかよ」

「アンちゃん言うな。英国王妃殿下だぞ」

「結婚後は多分浮気してないよ」


「………記録にある庶子達のおよその年齢から逆算するに、ちょうどジョージ兄さんと従兄弟の裏切りでゴタゴタしてた頃らしいんだよな。

 エドワード兄さんにネヴィル家絡みで余計な心労を掛けたくなかったんじゃないかって気もする。

 裏を返せば、何かしらの行動を示して結婚の意思を否定しないといけないぐらい、アン・ネヴィルと親密だったのかもしれない」

「………悲しい話だったのか」


「この庶子達の行方はよく分かってない。

 リチャード3世の間接的な扶助の下で成人はしたっぽいんだけど、娘の方は若くして亡くなって、息子の方はリチャード3世の死後にヘンリー7世に処刑されたって説もある。

 だけど、それを示す書類とかは無いらしい」



「ジョージ兄さんがアン・ネヴィルの身柄を隠した件は、リチャード3世と結婚したくなかったアン・ネヴィルがジョージ兄さんの提案に乗ったって説もあるけど―………」

「リチャード3世が発見した時、アン・ネヴィルはロンドンの下町の洗濯屋で下働きさせられてたって話だから無理があるだろ。保護するならそれこそ教会にでも連れてけばいいんだから。

 話自体が作り話か史実かのどっちかだと思うぞ」


「さすがに幼馴染で義理の妹にそこまで無体は働かないでしょ………そこまでするなら殺した方が早いよ」

「むしろロンドンの町中に放り込まれたらどうやって見つけるんだ、写真もない時代に」

「行方不明にでもなられたらそれこそ相続権が宙ぶらりんになるだろうから作り話だと思うぞ」



「まぁ貴族の結婚だから色んな利害が絡んでの事で、普通は恋愛感情とかは二の次だからね」


「リチャード3世が簒奪を目指し始めたとしたら、この辺りじゃないかとか言われてたりする。北部を中心に地盤固めしてるらしいんだ。そのためにネヴィル家の土地が必要だった」

「一方で、エドワード兄さんが承認してるから、真面目に国防を考えて北方を固めてただけって話もある」


「リチャード3世、アン・ネヴィルの母親を領地に呼ぼうとしたとされてるんだけど、それが遺産目当てだってジョージ兄さんに憤慨されて、お義母さんの生前に死後の領地の分配を決める羽目になってたりするらしい」

「お義母さんを領地に呼んだ理由、奥さんのアン・ネヴィルに頼まれたからって説がある。

 ウォリック伯が戦死しちゃって、娘二人もお嫁に出たから、お義母さん一人ぼっちだったらしいんだ」


「……エドワード兄さんも恋愛結婚っぽいし、リチャード3世とアン・ネヴィルの大恋愛婚、案外本当の事だったりしてね………」

「そんな感じかぁ……」




「まぁエドワード兄さんがこの辺のジョージ兄さんとリチャード3世、弟達の相続のいざこざを裁定したらしいんだけど、ジョージ兄さんはそれが気に入らなくてますます横暴に振舞って最終的に反逆罪で処刑。

 シェイクスピアの『リチャード3世』ではリチャード3世がジョージ兄さんの裏切りをエドワード兄さんに吹き込んだことになってるけど、史実ではジョージ兄さん普通に色々やらかしてるらしいんだよな。

 奥さんが亡くなった時に付き添ってた女性に難癖付けて、奥さんの死の責任を被せて独断で処刑したり。反乱に協力した疑いがあったり。他にも色々」


「ジョージ兄さん、奥さんが急死して陰謀を疑ったらしいんだ」

「それでエドワード兄さんも滅茶苦茶悩んだっぽいけど、裁判してジョージ兄さんに大逆罪を適用。処刑」


「そういう経緯で確かにリチャード3世はかなりの地位と財産を相続はしたけど、この時点では堅実にエドワード兄さんの補佐やってるだけだな」

「ジョージ兄さんの自滅の結果なのか」



「他の事件と言えば、前に従兄弟のウォリック伯とジョージ兄さんに追い出された時に、エドワード兄さんとリチャード3世が頼ったブルゴーニュ公居たでしょ。マーガレット姉さんが結婚した」

「ああそういえば」

「その人と、あと他の国の王様達とも組んでフランスに殴り込んだ」

「またフランスと戦争してる……」


「いまいち足並みがそろわなくてもたもたしてた時に、フランスからこれあげるから帰って!って言われてお金もらって帰った。

 リチャード3世は憤慨して受け取り拒否したっぽいけど」

「かつあげ……?」

「軍隊の出撃にもお金かかるから」

「思ったよりせちがらいな王様達」

「どう見ても賄賂なので、当時の価値観から見てもかなり不名誉だったらしい」

「ピキニー条約Treaty of Picquignyって休戦条約で、百年戦争としては結構重要な契機らしいのよ」



「あと1481年ごろにリチャード3世が軍を率いてスコットランドと戦争したりしてエディンバラまで行った」

「エドワード兄さんの次女がスコットランドの王様の息子の所に嫁ぐことになってたんだけど、この頃しょっちゅうスコットランドが侵略してくるからエドワード兄さんが直々に婚約破棄。

 スコットランドの王様に反逆しまくってたスコットランド王弟を応援してスコットランドに殴り込んだという経緯らしい」


「………それってジョージ兄さんをフランスが応援してきたみたいな………?」

「そう考えると因果応報というか何というか………ただ、スコットランドの王様が貨幣改悪とか恩赦乱発とかして不評だったって話ではあるけどな、息子にも反乱起こされてるし」

「ちょくちょく侵略してくるからイングランドと北部守ってるリチャード3世にとっては死活問題だし」


「何か途中でスコットランドの王様が反乱軍の捕虜になってエディンバラ城に立て籠もるという事態になってるらしい?」

「なんだそれややこしいな」

「まぁ何か取り決め交わして解決したのかな? 王弟の恩赦とか昇進とか、エドワード兄さんの娘の持参金返済とか領地とか? よく分かんなかったけど多分色々。この辺はちょっと分かんなかった」


「そんでリチャード3世はベリックっていう要所の城を包囲して交渉の末に明け渡させてるらしい」

「イングランドの北の端っこの東の海岸沿いなんだよね。昔っからイングランドスコットランドで取り合いしてた所だったみたい。国防のためにはとっておきたかったのかね?」

「包囲してた頃は軍の大半は軍資金が尽きて帰ってたみたいだけどな」

「せちがらい」



「実の所、イングランドも財政は結構大変だったみたいだ。

 リチャード3世も王位に就いた後、一度免除した税制を再導入してたりしたみたいだし」

「それで恨まれたのでは………」


「とにかくエドワード兄さん、見た目は派手にしてたけど結構大変だったらしい。

 そんなエドワード兄さんが1483年に崩御する」



「ちなみにこのエドワード兄さんの死でイングランドからの応援が難しくなっちゃったのもあってか、先のスコットランドの王弟は王様に追い出されたぞ」


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