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18.薔薇戦争の始まり

 寄せ集めの同好会集団、合同同好研究部。

 暇に飽かせて、童謡Who killed Cock Robinの元ネタを検証しているところである。

 現在は15、16世紀にリチャード3世の鎮魂を祈るためにできた。という仮説のもと、薔薇戦争の内容を確認している。


「エドワード3世の子孫の内、ヘンリー4世からはずっとランカスター家が王位に就いていた。

 ヘンリー5世が急死したから、その息子のヘンリー6世は生後9か月の幼君。

 その摂政政治に台頭したのがランカスター家と、その分家、ボーフォート家」

「まぁ、本当はランカスター家ボーフォート家っていうよりも枢密院って感じだったのかな? 方針が合わないとヘンリー5世の弟とかも排除されてるんで」



「何というか、百年戦争の戦線を見るとリチャード父さんが不信を募らせたのも分かる気がする。

 例えばリチャード父さんがノルマンディー守ってる横で、本国がアキテーヌに派遣したボーフォート家の軍が迷子」

「迷子???」


「あとは例えば、リチャード父さんは任期を果たしてフランスから帰ってきたらアイルランドに転勤を命じられる。見方によっては中央政治から遠ざけられたとも言える。

 そしてアイルランドで仕事してる間に中央で出世したボーフォート家の人が、フランス戦線のリチャード父さんの地位に就いて敗戦してる」


「あー……仕事横取りされた上で失敗された感じ……?」

「間が悪かったのかもしれないけど、そう見えてもおかしくないかもね………」




「ん? もしかしてリチャード父さん、ジャンヌ・ダルクと戦ってるの?」


「えーと……いいや違うね。調べてみたらジャンヌ・ダルクの亡くなったのが1431年。リチャード父さんようやく20歳。ヘンリー6世ようやく10歳。

 ジャンヌ・ダルクもリチャード父さんとほぼ同い年だけど、あの人は参戦した経緯が特殊だから………。

 で、リチャード父さんが1431年にフランスに渡ったのも、パリのノートルダムでやるヘンリー6世の戴冠式のために他の人達と一緒について行った感じなのかな?

 リチャード父さんが責任者として戦場に出たのは多分1436年。25歳。

 でもこの時期の他の戦線でもイングランドはよく負けてるけど、リチャード父さんは手堅く動いて武功を上げてる。ほとんど戦闘してないらしいんだよね」


「ジャンヌダルクと戦ったのはヘンリー5世の弟でフランスを任されてた人かな?

 がっちり固めて補給も確保して他国と友好を確立して手堅く攻めてる。けどフランスの快進撃に負けた」

「後にこの人の役目を引き継いだのがリチャード父さんで、リチャード父さんがアイルランドに行ってる内にそれを引き継いで敗戦したのがボーフォートの人」

「あー……それは……」


「ちなみにシェイクスピアの歴史劇『ヘンリー6世』ではジャンヌダルクを倒したのはリチャード父さんみたいな感じになってたはず」


「史実ではジャンヌダルクを捕まえたのはブルゴーニュの人。

 その後ジャンヌダルクはイングランドに引き渡されて、でっち上げの異端審問の末に火あぶりにされた」


「ブルゴーニュ公も、まぁイングランドの顔立てとくか、って感じでフランスに派兵したら迎え撃ってきたフランスの援軍の中にジャンヌダルクが居て、殿(しんがり)になってたジャンヌダルクが入る前に城門が閉じて締め出されちゃった所を確保、という経緯。

 この締め出しがブルゴーニュ軍を防ぐためだったのか裏切りだったのかは今も不明。コンピエーニュ包囲戦」


「裏切り?」

「ジャンヌ・ダルクの身柄がイングランドに渡ったのはジャンヌ・ダルクに復権されたくないフランスが身代金を渋ったって噂」


「嫌な話だった」



「しかしそれでもイングランドの戦況は良くならない。

 1444年にトゥール条約を結んで休戦するけど、例の勝手に割譲しちゃった件で国内で不和が起こる。

 この条約を取り付けたのが枢密院のサフォーク公ウィリアム・ド・ラ・ポールって人。

 この人は1445年にリチャード父さんの後任としてボーフォート家をノルマンディー総督に、1447年にリチャード父さんをアイルランド総督にって人事をしてる人」

「……その人事はリチャード父さんの不信の芽が……」




「リチャード3世が生まれる直前の1450年頃は本当に色々起こる」

「1450年。先の人事をやったサフォーク公が5月頃、宮廷を追放されてる。ノルマンディーの戦線が悪化した責任を取らされて」

「まぁそうなるか」


「そして6月に反乱が起こる。

 それを受けてリチャード父さんは改革を主張。騒乱を止められなかった枢密院のボーフォート家を激しく攻撃した」


「ジャック・ケイドの乱だな。ロンドンすら略奪に遭って、王様も避難してたはず」


「うわぁ………それ収束したの?」

「初動で暴徒を過小評価して被害が出たという面があるらしい。そして地域住民は最初は反乱軍に同情的だったんだけど、暴徒が略奪を始めたんで非協力的になった。

 7月半ば頃にジャック・ケイドが殺されて決着がついてる」


「ちなみに政府対応を批判したリチャード父さんは王様達の命令でアイルランドに出張していた」



「………このジャックケイド、モーティマーを名乗ってリチャード父さんを政治顧問にするように請願を出してたらしいんだよね………」


「モーティマーってさっき聞いたような……リチャード父さんの母方?」


「合ってる。クラレンス公の血筋の人達。リチャード父さんのお母さんの家。

 ジャックケイドはその家系の庶子を名乗ったんだ。

 そしてシェイクスピアの『ヘンリー6世』ではね、このジャック・ケイドの乱の黒幕、リチャード父さんなんだ………」


「史実でヨーク公リチャードがこの反乱に関与した痕跡はないけどな」



「………もしかしてこの一件で、リチャード父さんが市民を使って王様に圧力掛けたと枢密院に思われて警戒されて、中央政治から遠ざけられたんだったりして……」

「……まさかぁ……と言いたいけど当時の状況だと分かんないな……」

「政敵が王様に何か吹き込むとかはあるかもね」



「そして8月。枢密院の有力者でもあるサマセット公エドムンド・ボーフォートが、フランスの戦線、フォルミーニーの戦いで敗北。

 ノルマンディーが陥落する」


「知ってる地名出てきた。それって枢密院としては大惨事じゃないの?」

「枢密院の大惨事はもっと後」

「この時に負けたサマセット公エドムンド・ボーフォート、この役職に就くにあたってドーセット侯からサマセット公に昇進してる上に、フランス戦線でのリチャード父さんの後任みたいな位置」

「ああ、あの不信が募りそうな人事か」


「サマセット公。何か知らんけどあっさりフランス軍にやられる」

「トゥール条約で休戦中にフランスが軍を再編、反攻準備していた」

「あー……」

「サフォーク公のやっちまった感……」

「休戦もサマセット公の人事もサフォーク公だもんね……」



「先のジャックケイドの乱が原因かは不明だけど、議会のリチャード父さんの主張に対する反応は鈍かった。そのためかリチャード父さんは半隠居状態していたらしい。

 そしてこの頃、1452年。ヘンリー6世のお妃さまが妊娠した。

 ただ、当時は子供が育つとも限らなかったせいか、結婚から時間が経っていたせいか、この頃には万が一の時の後継者の事も考えられていたとされる。

 その有力候補がリチャード父さんの家ともう一人、ヘンリー6世の異父弟、の子」


「誰??」

「フランスからヘンリー5世に嫁いできたお妃様、一般男性と再婚してたよね。

 その息子がヘンリー6世の異父弟」

「ああそっか」


「実はこの再婚相手は一般男性ではなく、ウェールズの王家の末裔。どういう事情でイングランド宮廷に居たかは諸説あるらしい」



「へー……あれ? それだとフランス王家とウェールズ王家の血筋ではあっても、イングランド王家の血筋じゃなくない?」


「だからボーフォート家の女性と結婚させて、血筋を繋げようとしてたっぽい」

「あれ? ボーフォート家ってえーと」

「王様達ランカスターの分家で、王位継承権が無くて重役に就いてたとこ」


「いいの? それ」


「それが通るとなったらますますボーフォート家が盤石になり、専制がまかり通ってしまう。と思ったのか、それともライバルを排除しようとしたか。

 リチャード父さんは兵隊を集めて王様に圧力かけようとしたのかな? ダートフォードという所で決起した。

 1452年。リチャード3世が生まれた年のこと」


「しかしリチャード父さんの陣営に集まった貴族。二人」

「それで勝ったの?!」


「負けた。というかほぼ不戦敗。城門を閉じられて王様の所まで進めなかったらしい」



「この決起、大きな罪には問われなかったものの、普通はこれでリチャード父さんの政治的完敗ということになる。

 が、翌年の1453年、枢密院はとんでもない事になる」


「とんでもない事?」

「フランスの戦線、カスティヨンって所で負けて、超有力武将が戦死しちゃった。

 その報告を聞いたショックで王様が倒れちゃって、いきなり政治が出来なくなっちゃったと言われている」

「一方、戦場では、この後数か月で周辺の町も落とされてボルドーが包囲されて、イングランドは追い出された」


「ショックで倒れて政治出来ないなんてある?」

「ヘンリー6世のおじいさんのフランス王も精神の病気っぽいの発症してるから、遺伝の精神病って説は強いな。

 環境か体質かは分からない。

 ただ、当時の胃の痛くなる状況だと、遺伝が無くても病む人は居ると思うけどな」



「王様ヘンリー6世にしてみれば、推してる枢密院のベテラン貴族がやってもことごとくうまくいかない政治。起こる反乱。負け続けるフランス戦線。

 それを武闘派超大物貴族が、激しく糾弾する」


「そんなしんどい環境のせいか、それともフランスのおじいさんからの遺伝病だったのか、とにかくヘンリー6世は精神的に病んで政治ができなくなった。

 そのため枢密院は有力貴族を集めて政治を行う事になる。当然大物貴族のリチャード父さんも呼ばれた。

 ボーフォート家は最後まで反対したらしいんだけど、むしろ他の貴族がボーフォート家の独裁を警戒してリチャード父さんを呼んだという説がある様だ」


「ボーフォート家えー………と。

 王位継承権が無くて心置きなく枢密院の重役に就いてた王様達ランカスター家の分家」

「合ってる」


「そうした政治駆け引きの末に、リチャード父さんは護国卿の地位を得る」


「護国卿、さっきも出てきたけど。何? 王様処刑してたけど」



「……さっきの話に出てきて王様処刑して護国卿って言うと、オリバー・クロムウェルさんかな?」


「Lord Protector護国卿、守護卿。日本語に無いからな。ヘンリー6世が小さい頃に作られた役職だったはず。

 摂政や関白みたいに言われるし、実際そういう側面もあるけど………なんだろ? 征夷大将軍とか?」


「Lordが一番偉い地位でProtectorが守護とかだろうから……もしかしたら守護大名の一番偉い人と考えたら意外と征夷大将軍は近いかもしんない」


「英語と日本語の謎の一致」

「権力者が軍事を担ってる事は多いし、軍事の仕事の一つが防衛だと考えたら、古今東西で似た名称や組織構造になる事はあるんじゃないだろうか」



「護国卿は王様に代わって国の事を色々する立場ってだけで、本来は王様にとって代わるものじゃない。オリバー・クロムウェルが異質なだけ……って事も無いか……?」


「他ならぬ護国卿になったリチャード3世がこれから簒奪するからな」

「リチャード父さんも結局簒奪みたいになるし」


「まぁ何かしらで王様の仕事を代行せざるを得ない状況だから、護国卿が出て来るのは大体乱世や非常事態って側面はあったと思うよ」


「とにかく、護国卿は滅茶苦茶偉い人。王様の代理。王様とほぼ同等の権限を持っている。

 というわけでリチャード父さんは枢密院で権勢を振るっていたボーフォート家の偉い人、サマセット公エドムンド・ボーフォートをロンドン塔に閉じ込めた」


「さっきからちょくちょく出てる枢密院の王様の助言役でリチャード父さんの後任にノルマンディー任されて敗戦した人ね」

「もしかしてちょっと私情入ってる?」


「この時点でリチャード父さんが本気で王位を狙ってたのか、枢密院に不信を抱いてボーフォート家の専横から王様を守ろうとしたのかは今も分かっていないらしい」


「失政を重ねても王様王妃様に守られ立場が不動の摂政会議。

 そして当時はヘンリー6世に子供が居なかったから、後継者にボーフォート家。

 政治を牛耳っているように見えてもおかしくないと思う」



「まあイギリス貴族院はちょっと前まで終身制みたいだし、当時でもよっぽどの事が無いと首にはならないんじゃないかって気もするけど」


「へー、早い時代に庶民院が整備されてたから、貴族院も何か一定の間隔で入れ替わる感じの仕組みがあるんだと思ってた」


「意外なようなイギリスらしいような」

「昔だと物理的に首になる事あるしな。辞めさせるのも慎重になるだろ」

「実際に1450年にヘンリー6世の宮廷から追放された重臣、死んでるからね」

「さっき閉じ込めたサマセット公エドムンド・ボーフォートと一緒に枢密院で権勢を振るってたサフォーク公」


「………1450年に辞めさせられたサフォーク公って……もしかして条約でこっそり割譲とかうっかり人事とかした人?」

「合ってる。1450年5月に追放され死亡したのはサフォーク公ウィリアム・ド・ラ・ポール」


「追放されて大陸に渡るはずだったのが、ドーバーの浜辺で死んでたらしい」

「……それは辞めさせにくい………」



「1453年。病気のヘンリー6世は王子様が生まれても反応できなかったと言われている。後継者を指名できなかったんだ。

 しかし1454年の冬にヘンリー6世は政治活動を再開し、リチャード父さんが遠ざけていたボーフォート家を再び取り立てる」


「リチャード父さんは最有力王位継承者ができて焦ったのか、それとも専横に拍車がかかる事を危惧して奸臣を討ちに行ったのか、薔薇戦争が本格的にはじまる」



「………それはリチャード父さんが簒奪狙ってない?」


「この後に親戚達がリチャード父さんの味方してくれるけど、その理由が『ヨーク公が自衛のためにやったことだから』」


「枢密院で主戦派だったヘンリー5世の末の弟、和平派に退けられて直後に死んでたりするんだよね」

「リチャード父さんの継承権を主張した議員がロンドン塔に閉じ込められてたりするぞ」

「情勢にもよるけど、目障りな有力貴族が力を削がれたら……って考えたら、まぁ……」

「じわじわ命懸けか」

「命懸けなのはボーフォート家も同じだけどな。ヨーク公と比べて立場はかなり王様頼みだし」



「リチャード3世、3歳。薔薇戦争の始まりは1455年。第一次セント・オールバンズの戦い。ロンドンから約30kmほどの街での市街戦だったと言われている。

 事の起こりはヘンリー6世がリチャード父さんを護国卿から解任しようとしたことらしい。

 リチャード3世の伯父さんと従兄弟がリチャード父さんに味方して加勢に来ている。お母さんの方の親戚のネヴィル家ね」


「えーと、あ、親子で名前が一緒の伯父さんと従兄弟?」

「合ってる。伯父さんがソールズベリー伯リチャード・ネヴィル。従兄弟がウォリック伯リチャード・ネヴィル」


「前回リチャード父さんの失敗した決起に来てくれたのってこの親戚の二人?」

「ちがうよ」

「今回リチャード父さんに味方してくれるのは、ネヴィル家がパーシー家っていうところと土地争いしてて、枢密院がパーシー家側に味方したっていうのもあるらしい」



「一方、当時は大将が戦場に立ってこそって時代なせいか、ロンドンから比較的近い事もあってか、王様も枢密院の人達もかなり出陣していたみたいだ」


「他に人が居なかったのかも。リチャード父さんが軍隊連れて向かってきてるのを知って、大急ぎで兵を集めたって話もある」



「セントオールバンズの街に布陣した王様達ランカスター陣営は、町を利用してバリケードを作ったと言われている。

 一説によると従兄弟のウォリック伯が細い道を抜けてバリケードの内側に入り込み、王様達が揃えられなかった長弓部隊で一方的に射った。

 バリケードの中に急に敵が現れたんで、国王軍が総崩れした。そこにリチャード父さんが突撃をかけてバリケードを破った。

 王様達ランカスター陣営はこの奇襲を受けて重臣に死者を出し、王様は捕虜になる」


「奇襲しても王様は無事なんだ。やっぱり王位簒奪より政治の健全化を願ってたのかな?」


「いや、王様を殺したら大逆罪になる。全貴族に自分を殴っていい大義名分を与える事を、リチャード父さんが危惧した可能性もあると思う」


「この時点で王様が死んでも、赤ちゃんの王子様に継承すればいいからね。議会が一致団結して王子様を王位につけて、リチャード父さんは王様を殺した反逆罪って裁定される可能性が高いと思うよ」


「ただ、普通なら王様の居る軍に殴り込んだ時点で反逆罪になる可能性が高い。リチャード父さんはこの時には自分の人気と実力にある程度の自信を持っていたようだ」


「ちなみに従兄弟のウォリック伯が矢を射たせたんで、普通に王様は怪我したらしいぞ」

「危ないな!?」



「この時に戦死したのがサマセット公エドムンド・ボーフォート」

「枢密院で発言力あったりノルマンディー陥落させちゃったりした人」

「ああそっか」


「ヘンリー6世の異父弟と結婚した女性の叔父だそうです」

「えーと?」

「ウェールズの偉い人と再婚した王妃様居たでしょ。その息子が居て。その人と結婚したボーフォート家の女性が姪って事」


「ああ、例の「いいのそれ?」って感じの継承権か」


「つまりヘンリー6世に子供が生まれず、姪に子供が生まれたら、王様のえー………と、大叔父?になる予定だった。

 リチャード父さんが王位を持ってかなければの話だけどね」



「サマセット公エドムンド・ボーフォートは枢密院に参加してて摂政みたいな位置。

 この人がノルマンディー総督やったフランス戦線で大敗したのは知っての通り。

 そんでこの人の兄がリチャード父さんの横で戦力注ぎ込んで迷子になったジョン・ボーフォート」



「つまり、リチャード父さん視点、自分達で負け続けた末に日和って和平を結んだ。

 フランスの戦線で防衛は果たしてたのに不遇に扱われ、中央政治から遠ざけられてたリチャード父さんにしてみれば恨み骨髄。

 さっき言ったように病気になった王様がリチャード父さんを護国卿にしたときに、ロンドン塔に閉じ込めたんだけど、王様が病気が治ってやっぱ自分で政治やるって言った時に出てきちゃって……。

 今を逃したらいつ首をとれるか分からないと思ったのかは定かではないけど、このセントオールバンズの戦いでキャッスルインっていう所に追い詰めて、殺害」



「キャッスルインって何だろ? 地名? キャッスルとかインっていうぐらいだから砦か旅籠みたいな建物か何か?」


「調べた限り分からなかった」

「イギリスの人は言われればすぐ分かるのかな?」

「サマセット公エドムンド・ボーフォートが『城の中で死ぬ』みたいな予言を受けてて城を避けてたんだけど、戦闘で追い詰められたお家の名前がキャッスルインだった。みたいな伝説があった気がするんで、建物だとは思う」

「現在はプレートが掛かってるだけみたい」

「池田屋事件の跡地みたいなもんか」

「日本だと池田屋なら何となく時代劇で見たことあるってなるから、向こうの人もそんな感じなのかな」

「やっぱ一般常識だと他文化圏から調べるのがむずい」


「イギリスにもこれぐらいの時代の時代劇ってあるの?」

「他ならぬシェイクスピアが書いてるでしょ。ヘンリー6世」


「シェイクスピアの『ヘンリー6世』ではここでサマセット公を殺したのはリチャード3世のはずです。城の予言の話も出て来ます」

「………3歳だよね? リチャード父さんじゃなくて?」

「史実では長男のエドワード兄さんですら13歳だぞ」

「だから時代劇ってこと、劇の中ではこの時期にもう戦闘ができる年齢として出て来るの。the youngerって書いてある方のリチャード・プランタジネットがリチャード3世のはず」

「やっぱ劇でも名前で見分けつけるの苦労してたんだな」



「ちなみにヘンリー6世の異父弟の奥さんは、さっきちらっと話に出てきたエドムンド・ボーフォートの兄、ジョン・ボーフォートの娘だったりする」


「アキテーヌで迷子になった人?」

「合ってるけど覚え方が酷い。ヘンリー7世のおじいさんだぞ」

「ヘンリー7世誰だっけ……」

「ネタバレするが、ボズワースの戦いでリチャード3世を倒して王様になるのがヘンリー7世だ。ヘンリー7世の息子が離婚騒動で宗教改革やったヘンリー8世だ」

「ああ、そっか。

 ………おじいさんの迷子の詳細がちょっと気になるんだけど」

「アキテーヌに派遣されたんだけど、どうも戦線が巨大でどこを守るか決心がつかずに、効果的な防衛が出来なかったらしい。

 あと翌年体調不良の中、軍隊連れて友好国の町に入っちゃったりする。多分この辺の責任感じて自殺してる」


「厄年かな………アキテーヌの近所のイギリスの友好国ってスペイン?」

「ちがうよ。当時はフランスの北西にも公国があったの」



「このセントオールバンズの戦いではネヴィル家と領地問題で対立してた人も死んでるんだよね」

「つまり狙ってやった?」

「詳細は不明だが、とにかくヨーク陣営にはそこまで派手な被害もなく、一番厄介だった政敵は死んだ。翌日には王様をロンドンに送り返している」

「そして改めてリチャード父さんには護国卿の地位、従兄弟のリチャード・ネヴィルにはカレーを治める地位が与えられたらしい」

「このリチャード3世の母方の親戚のネヴィル家だけど、この後もリチャード父さんと戦線を共にしてくれる」


「何はともあれこれで事態は収束。とはいかなかった」


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