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11.ロビンを探せ

「時代順だと次はロビン・フッドかな」

「ロビン・フッド自体が神話みたいなもんなのでほとんど話ができないんじゃないですか?」


 暇な寄り合い部、合同同好研究部。現在、部長の訳した歌詞を参考にマザーグースの『誰がコマドリを殺したか』を調べている。みんな好き勝手な事をする部活なため、自由参加である。



「ロビンフッドって名前は聞くけどそもそも誰? 最期は死ぬっていうのは聞いたけど、森に居て弓矢射って正義の味方って……妖精の仲間?」

 合同同好研究部副部長早矢はや。歴史に一番明るくないため司会進行を任された。

 彼に説明できれば大体OKという基準で進んでいる。


「緑の服を纏った弓の名手で13世紀頃の義賊とされてる。でもその形に落ち着いたのは19世紀頃。

 時代とともに語られる内容が変化してたみたいだ。

 書かれた時代によって出てくる王様の名前も変わったりしてるみたいだよ」

「少なくともモデルが複数いるとされてるはず」


「そうなると、そのモデルになった中の誰かの死に様? 物語のロビンフッドの死因は矢じゃないよね?」

「いや、ロビン・フッド縁の地とかそういうのはたくさんあるんだけど、そもそもモデルとされている人物達と物語のロビン・フッドと関連が無さすぎるらしい」


「日本で言う桃太郎みたいなもんか。金太郎は一応モデルがあるもんな」

「その金太郎も複数伝説がある上に実在が疑問視されてるんですよ」

「桃太郎って日本書紀の吉備津彦命きびつひこのみことで現場は岡山じゃなかったっけ?」

「実は桃太郎の成立年代がおよそ室町頃と考えられていて日本各地に伝承がある。吉備津彦命きびつひこのみことが四道将軍の一人として西道、山陽道を担当してたのと吾田媛あたひめっていう人の所と戦闘があったのまでは日本書紀にも書いてあるみたいだけど」


「え、そうなの? 金太郎は?」

「鎌倉時代に文献に出てきてみなもとの頼光よりみつの配下になって活躍……っていう話なので設定は十世紀頃ですね」

「平安時代の設定だな」


「金太郎どういう話だっけ? 熊と相撲をとる話は知ってる」

「父親は宮仕えの武士だったとか雷神だとか竜だとか母親も都に働きに出ていたとか山姥とかいろんな逸話があるみたいで、つまるところ田舎で母親の女手一つで育ててた超絶強い男の子が偉い人、つまりみなもとの頼光よりみつの目に留まって部下として大活躍するようになるというお話。

 頼光よりみつ配下の仲間は他に三人居て、渡辺綱わたなべのつな碓井貞光うすいさだみつ卜部季武うらべのすえたけ

 それに金太郎こと坂田金時さかたのきんときの四人で頼光よりみつ四天王、と呼ばれる」


「何かの組織の四人組を四天王って呼ぶのここからなの?」

「四天王は元々仏教において東西南北に位置取って仏教を守るとされる神様だから大体組織の有力者が四人居ればそういう異名が付く。この四人が京都のあちこちで妖怪とか退治してた伝説からかな」

「盗賊退治の逸話が変化したと伝えられる」

「盗賊とかが妖怪として伝えられた説だ」


安倍晴明あべのせいめいとか居た時代だから妖怪も居るよということにしておく」

「そういえば金太郎の話って言われても分からん。酒呑童子しゅてんどうじ退治しか知らない」

「土蜘蛛とか」

「あれ退治したのは頼光よりみつ本人では?」

「四天王個別に退治した妖怪は結構居るのよ。一人一殺ぐらいは」

「諸説ある。舞台化されるうえで話が変わったりとか」


「そろそろロビン・フッドに戻ろうか」

「忘れてた」

 部長美夏原みかはらの誘導で話が戻った。


「研究者によると、1215年頃にRobert Hoodという人物が殺人で記録されている。

 1226年のヨークの巡回裁判の記録でRobert Hodという人物がお金を借りて逃亡している。

 他にもあちこちで似た名前がある」


「つまり似た名前の犯罪者とかからだんだん連想ゲームみたいにロビン・フッドの伝説ができたって事?」

「え~、考えすぎじゃないの? 逆に研究者がロビン・フッドに似た名前の犯罪者探して勝手に関連付けてるだけじゃない?」

「似た名前そんな出てくるか? と思ったけどメアリー女王ですら被ったもんな」

「どうも13、14世紀ごろはロビンフッドの名前がならず者の代名詞として使われてたんじゃないかという説がある」


「確かに数百年にわたって個別の似た名前の犯罪者が関連付けられるとは思えないけど、ヨーロッパ圏には大昔から狐のレナードReynard Cycleとその原型みたいな、ダークヒーローというか権力者をぶっとばす擬獣化(?)悪役ものがあったみたいなんだ。風刺文学だな。

 架空の人物に権力者を殴ってもらってすっきり、それが実在の事件を下敷きにしてるとなればなおさら、っていうのはありえるんじゃないかと思う」


「なるほど、それで実在の事件、いわゆる武勇伝をくっつけて行って解釈違いの内容が排除されていった結果、段々と設定が固まった、ていうのはありそうですな」

「武勇伝言うな」

「もしかして外国のケモ好きの方はその辺りの擬獣化ヒーローから来てるのでござるか?」

「それは知らん」


「そういう形でエピソードが付け足されていったなら……」

「なるほど、その形だったら絶対誰かが架空の最終回作ってるからロビン・フッドが死んだ回が複数ある可能性があるのか」


「じゃあコマドリの歌は物語には不採用で詩だけが残ったロビン・フッドの最期という事になる?」

「それはちょっと違和感あるな。肝心の物語の内容が無さすぎる」


「でも劇的に死んだけど盛大に弔われてるのはそれっぽい」

「物語として残らなかった理由があるとすればいきなり主役が死んでるからでは?」

「確かに」

「お待ちくだされ! 死因が明かされなかったらそこから三次創作作り放題ですぞ!?」


「当時は三次創作の概念が薄いだろうから、発表したところで何で主人公死んでんねんて顰蹙ひんしゅくを買って終わってしまったのでは?」


「めっちゃ想像がつく」

「回想シーンで答え合わせをすればよかったのに。導入は良いんだから」

「編集者みたいな事言うでござるな」


「でも仮に物語から分化したとしたら、葬式に参加してるのが仲間の誰だか分かるようになってるんじゃないの?」

「ロビンフッドの仲間達の設定は割と最近できたのでは?」


「とりあえずロビンフッドのキャラとコマドリの歌の登場人物については検証してみればいいんじゃないかな?」

「ロビン・フッドのキャラちょっとでも分かる人~」

「アニメでいいなら……」


 部内の数人が集まってくる。結構いるもんである。


「リトルジョンLittle JohnとマッチMuchが多分15世紀……」

「リトルジョンは蝿って線もなくはない? 一の子分みたいな扱いだし、死んだとき傍に居たって事を強調されることはありえるかも」

「本人はでかいから一人で棺担いでたっぽい鳶かもしれない、本編でも埋葬を託されるみたいだし」

「牛かもしれない。でかいし力自慢っぽいし。歌に出てくるの最後だし」


「マッチはパッと出てこない。何か歌の中に連想できる話あったっけ」

「名前が違うとか設定が違うとかで同じキャラかどうか判別しづらいのが居る」

「とりあえずチャイルドバラッドChild Balladとかで出現年とかまとまってる所無いかな……」


 チャイルドバラッドとは、19世紀後半にアメリカの文献学者、フランシス・ジェームズ・チャイルドがまとめた民謡・伝承つまり歌物語集である。ロビン・フッドも収録されている。


「ウィルスカーレットWill Scaretが多分16世紀……」

「15世紀の可能性がある」

「赤いのが特徴っていう印象があるからムネアカヒワかなぁ?」

「アーサーアブランドArthur a BlandとアランアデイルAllan a Daleが多分17世紀」

「結構ギリギリだな」

「皮なめし職人だっけ? shroudに革って使っていいのか?」

「shroudに関しては調べた限り亜麻が人気で絹、麻、馬の毛?、羊毛、インドと貿易するようになって綿。かな? 革は無い」

「アランは恋人とのエピソードがあるからミソサザイ夫婦の可能性?」

「タック修道士Friar Tuck。文献として残ってるのは17世紀だけど15世紀頃から居たっぽい」

「坊さん居たね。ミヤマガラスのやつ?」

「マリアンMarian。設定がたまに変わりつつ大体16世紀に定着かな……」

「聖歌を歌うツグミがshe多いんだっけ?」


「んー……仲間の人数が足りない?」

「細かいのとか入れれば埋まるかもしれないけどそれでもなぁ」


「当てはめられない事もないけどそれだけっていう気配がしますぞ」

「例えるなら学園パロも一応はまるが本編とは全く関係ないし微妙みたいな空気を感じるでござる」


「ところで伝承を調べてたら何か鹿狩り中に射殺されたRobynの綴りのロビンが出てきたんだけど」

「名前がロビン・フッドのパチモンぽい」

「失礼な事言うな。こっちの伝承がコマドリの原型かもしれないだろ」


「説明によると、文の特徴から推定される年代がおよそ15世紀半ば頃? ここで犯人探しと復讐に奔走するGandeleynというキャラがGamelynという別の話に登場する主人公との類似性を指摘されてるっぽい?」


「やっぱパチモンなのでは?」

「どうもGamelynの記事を読むとロビンフッドと近い時代、13~14世紀頃に成立した話。

 Gamelynは父親が死んで家族から不遇に扱われて無法者として指名手配される。その後、悪い家族と共謀した悪代官的など含めて殺すなり懲らしめるなりして王様に褒められ取り立てられるって感じ。

 近い時代の話とは双方に影響を与え合ってるみたいだ。恐らくロビンフッドとも」

「何となくウィリアム2世の話にも影響受けてそうだし……」

「むしろ当時のシェアワールドなのでは?」

「まさか当時のクロスオーバー二次創作!?」

「ていうか当時は流行った物はシェアされるのが当たり前だったのでは?」


「そんなん調べ切れるわけないだろ……」

「……もう諦めていい?」

「いいよ~」

「次の検証行こう」


「……なぁ、ロビンフッドには関係なくて申し訳ないんだけど、BeetleがBeadleで教会の諸々全般担当職説あったよな?」

「何か見つけた?」

「タック修道士Friar Tuckの托鉢僧friarってflyやeyeと音掛かってたりする?」

「…………ˈfraɪəとˈflaɪとaɪがネイティブスピーカーにとって掛かってると感じるかは分からないけど……発音記号を見る限りは一緒」

「もしかして聖職者たちが歌われてる可能性ある……?」


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