第十五話 転校生
穏やかに時は過ぎていく。
しかしそれは、新たな波乱の幕開けでもあった。
花見は、高校の授業を受けていた。
親友のかえでとも変わらず仲がよく、教室での会話が弾む。
その日、担任は転校生を紹介した。
「西園寺沙耶です。よろしくおねがいします」
上品そうな生徒だった。
沙耶は、現在博物館で開催中の【花の宝石展】のため、両親と引っ越してきた。
花の宝石展は、世界から珍しい宝石や装飾品を集めた展示会だった。
沙耶の家系に伝わる【花弁宝石爛舞】は、見た目は生け花のようだが、花びら一枚一枚が宝石を加工して作られた貴重な芸術品だった。
今回の展示会では、この【花弁宝石爛舞】を見るために訪れる来場者が多い。
お昼になった。
「沙耶ちゃん、屋上でご飯食べない?」
さっそく、花見とかえでが誘ってみた。
「はい」
沙耶は、恥ずかしそうに返事をした。
三人は、屋上で弁当を広げた。
沙耶の弁当は豪華だった。
花見は、興味津々。
「すごい、ホテルのディナーみたい!!」
「家でシェフが、作ってくれました」
「シェフ?」
「家に料理人の方が?」
「はい」
「私なんか、昨日の残りのからあげと煮物……」
と、花見は自分の手作り弁当がみすぼらしく思えた。
「よろしかったら、お二人で」
と、沙耶は弁当を差し出す。
「いいの?」
「代わりに、からあげ、いただけますか?」
「でも……」
「どうぞ」
花見とかえでは、沙耶の弁当を食べてみた。
「おいしい」
「このからあげも、おいしい」
沙耶も花見の弁当に箸をつけた。
「まずかったら、まずいって言っていいのよ」
「そんなことありません。煮物も味付けが絶妙で」
「褒められたね、花見」
と、かえでが、からかうように言った。
女子の会話は続いていた。
放課後。
「お昼は、誘ってくれてありがとう」
花見とかえでに、沙耶が声をかけてきた。
「お友達ができるか不安だったんです」
「また、お弁当食べようね」
「これはお礼に」
沙耶は、博物館の招待券を手渡した。
「ええ~いいの?」
「来てください。ご案内します」
花見とかえでは、大喜びだった。
夜、国会議事堂の上空は暗雲に覆われていた。
悪霊や死神の足音が聞こえてきそうな冷たい夜。
議員の部屋から怪しげな声がする。
「【花弁宝石爛舞】は、高い値がつく。活動資金のため、どんな手を使っても手に入れるんだ」