第十二話 新しい仲間~結界術使?
優香の部屋を出て、一階8号室の前を通る花見。
三角のカラフルなデザインの帽子が落ちていた。
「この部屋かな?」
呼び鈴を鳴らした。
どんな人が住んでいるんだろう?
扉が開いた。
ギョッ!!
顔を見て驚く。
その顔はピエロだった。初めて会う8号室の住人。
「あの~?」
「ああ、管理人さんですか?」
「初めまして……これ落ちていましたけど」
三角帽子を差し出した。
「ああ、どうも」
「いえ、それでは」
花見が扉を閉めようとした時、
「ああ、でも初めましてじゃないですよ」
「はい?」
「ほら、スーパーの前で」
すぐに思い出した。
「あの時の!!」
スーパーの前で、チラシ配りをしていたピエロがいた。
「あのピエロさん?」
「8号室の赤羽クウヤです」
「管理人の桐咲花見です」
「そうだ、お礼にこれを」
クウヤは、カフェの割引券を渡した。
それは、外来種カフェだった。
捨てられた外来種生物を保護して展示しているカフェらしい。
またも不思議な体験をしそうな予感。
翌日、花見は外来種カフェに行ってみた。
店の前では、ピエロがチラシを配りながら、カフェの案内をしていた。
「赤羽さん」
「早速、いらっしゃいませ」
店の中に導かれた。
店長の小畑優樹菜が笑顔で出迎え、親切にテーブルに案内してくれた。
周りの水槽に、外来種の魚や亀、小動物もいて客が楽しそうに見物している。
テーブルのメニューを見た。
写真入りで、ドリンクや軽食まで。
花見は、パフェを注文し割引券を渡した。
美味しかった。
赤羽にもお礼を言おうと外にでたが、姿はなかった。
都会の夜。
バラドールの演奏が終わった直後だった。
ライブハウスから数人の男たちが駆け出した。
密かに潜入していた悟は、後を追った。
男たちは、駐車場に入ると、無作為に車を選び、火をつけた。
奇声を響かせ逃げていく。
悟は、端末で動画を撮影した後、すぐに緊急通報をした。
緊急車両のサイレンが街中に鳴り響く。
希美のマンション前、バンドの車が停車する。
希美が車から降り、一人で自分の部屋に向かった。
その様子を、花見と三奈が見ていた。
「直接話すしかなさそうですね」
「ええ」
「ただ、一つ伝えておきたいことが」
花見が言った。
「希美さんの様子を見ると、もしかしたらアルゴが関係しているかも?」
「アルゴ?」
「詳しくは言えませんけど、人が生まれ変わる時に別の魂が混ざり合い、時にモンステリアという怪物になることがあるんです」
「そんな……」
「もしかしたら……希美さんも……事実を受け入れる覚悟をしてください」
そう言った花見の手には、優香から預かった香水が握られていた。
部屋の中では、希美が汚いメイクを落としていた。
クローゼットの鏡で、自分の素顔を見てみる。
「これは私じゃない」
悪魔こそ、今の自分だと思い込んでいるのか?
部屋の外まで来た花見と三奈。
「カギ、開いているみたい」
その時、鏡が割れる音がした。
「なに!?」
「希美!?」
花見と三奈は、部屋の中に駆け込んだ。
希美が鏡を手で割ったようだ。手から血がでている。
「治療しないと」
「近寄らないで」
希美が叫ぶ。
「これは私じゃない。私は、悪魔に身を寄せた。この世を壊すことが、私の音楽……」
「なに言っているの? どうしちゃったのよ」
「うるさい。でていけぇ」
「戻ってよ。前のような優しい希美になって」
三奈が泣き叫ぶ。
「消えてしまえ」
と睨みつける。
やはり、彼女は……。
花見は、香水を希美に向けた。
「花見さん!!」
三奈の悲痛な顔。
「希美さんの本性があらわれる」
「やめて!!」
三奈が訴えかける。
「こうするしかないの」
「希美が……怪物なんて……」
花見は三奈の涙を見ないことにした。
ためらわず、香水を希美に吹きかける。
が……反応はなかった。
……?
香水の効果で、むしろ冷静さを取り戻しつつある
「彼女はアルゴじゃない」
悟の声だった。
「どうしてここに?」
花見は不思議そうに悟を見た。
「どうしてって、君が助けを求めたんだろ。社長に」
「そうですけど……希美さんはアルゴじゃないんですか?」
悟は、希美に近づいた。
「なに!!」
希美の腕をつかむ悟。
「暴力は……」
花見は不安に思った。
が、悟は希美の服の袖をめくり、腕を見た。
そこには、奇怪な紋章が刻まれている。
「それって???」
体内に邪気が吹き込まれた証だった。
希美は歌いながら、吐く息で狭い空間に邪気を充満させる。
加えて、音符にのせた醜い歌詞で、人を洗脳させていた。
「どうして?」
花見は、悟に問いかけた。
「何者かに邪気注射をされた」
「邪気? ……誰が? その犯人がアルゴ?」
「本物のアルゴを封じないと、彼女は解放されない」
悟は真剣な顔で言った。
その夜、希美は一人で寝ていた。
少しだが、気持ちが楽になり、回復しているようだった。
が、寝ていると、体の中から悪魔のささやき……。
腕の紋章が濃くなり、昨日の花見や三奈との記憶が消されてしまう。