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交わらなければ  作者: 桜坂
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今日、僕はあの人に想いを告げた

相手に正確にしっかりと伝わったのか、まるで自信は無い

確かめる方法も無い

だが、あの人の答えが僕の望むものならそれでいい、それ以上は望まない

そんな僕の思いとは裏腹に彼は否定の態度を示した



「気持ち悪い」


一瞬だった、むしろ呆気なさすぎた気もする

少しでも期待した自分が馬鹿だった

それでも好きだった

どうしようもなく自分のものにしないと取られてしまうのではとさえ思った

でも、今じゃ無かった

もっと時間をかけて言うべきだった

いや、きっとこれ以上は自分が辛かったのだろう

これ以上我慢する事が限界だったのだろう

スッキリも良い気分もしなかったがどうでも良くなった

その時からだ、一人称が僕から俺になったのはー



初めてだった、男に告白されたのは

嫌な気持ちにはならなかったがそんな目で同性を見た事がなかった

友達だと思ってたのに

最初に出てきた感情は裏切られたという憎さだった

断る事に理由はなかったけれど思春期という誰にでもある生理みたいなものが俺にもあった

ただそんなに傷つけるつもりは無かった

でも言ってしまった思ってもいない事を

その時からだ、人とうまくいかなくなったのはー



大学を卒業して僕はようやく社会人になった

あれからうまく人との付き合い方がわからなくなった

少しでも距離が近いと感じると、もしかして俺のこと好きなんじゃ、、そういう目で見てるのではと

自意識過剰なのは分かってるがそういう感情が止まらなくなってしまった

だが、それだけなら他の人間も話せば同情してくれただろうし、付き合い方を工夫してくれただろう

僕は自意識過剰に感じたその好意を意識して接してしまうようになったのだ

つまり簡単にいうと好きな男の前で子猫になる女子みたいなものだ

それが可愛い女なら喜んで男は飛びついただろう

しかし相手はゴリゴリの男で可愛げもクソもないときた

相手がどう思うか

答えは簡単だ、気持ち悪いと思う

だから周囲が避け始めた

単純すぎるなと思ったりもしたが自分も単純な事に変わりはない事に気づいてすぐに考えるのをやめた


この会社はそういうことにも理解のある会社でLGBTもそうでない人も多くいるらしい

まさか自分がこんな世界に入るとはあの告白を断る時は思っても見なかっただろう

バチが当たったのかもしれない、馬鹿にするような事を言った事

あの子はきっと真剣だっただろうに

そう思う事は簡単だ、もうあの子に謝ることも会うことすら確率的には叶わない話だ

あの子は大丈夫だろう、あの子なら。と信じて自分も前に進む事にした



僕が配属された先は我が社の広告を担う部署だった

うちのチームは人数が少なく、上司の暁月さんと書記の西田さん、メンバーがその他5人いる

そして僕、黒崎と同じく新入社員の中野未玖と林原高人の3人だ

先輩方もみんな優しくて、今までとは違う感覚に心が踊っているのが自分でも分かった

「何か分からない事があればいつでも聞いてね。あと、今日の夜は新入社員歓迎会をするつもりだから今夜7時に駅前のバルっていう居酒屋集合ね!」

正直、今日が初出勤で疲れはどっときている

1秒でも早く帰りたいところではあるが、ほかでも無い鈴木先輩からのお誘いだ

「分かりました!楽しみです!」

俺が答える前に同志の中野未玖が答えた

彼女は天然な所もあり、危なっかしくて目が離せないが逆にそこが愛嬌があると先輩たちには大層気に入られている

そんな彼女だ、先輩に誘われたことが嬉しかったのだろう

お世辞を言おうとした自分が恥ずかしい

そんな話をしていると、背後から鈴木先輩を呼ぶ声が聞こえた

「鈴木~お前サボってないでこっち手伝えよ、そんな事してると暁月さんに酒癖悪い事言うぞ?」

先輩の高木さんだ

「うっせえ高木!それ言ったらお前が足臭いのも言うかんな!!」

「ああ?俺は臭くねえし」

「私だってお酒強いんですけど?」

この二人は犬猿の仲という言葉が似合う程の仲の悪さで、目が会うたびに喧嘩している

その険悪な理由はどうやら上司の暁月さんが関わっているらしいがあまり首を突っ込みたく無い僕はそれ以上の事を知るのが嫌で避けるようにしている

にしても、先輩たちにこれだけ慕われてる上司ってどんな人なんだろうか

新入社員の僕たちはタイミングが悪く、ちょうど出張に出ているため挨拶もまだなのだ

「大丈夫かな、」

何も考えずに口に出してしまった

無意識に不安だったのだろう、いくら同じ立場の人間もいると言っても価値観が同じであるとは限らない

受け入れてもらえる自信は今の自分にはなかった

「まぁ、不安にもなるよな。でも別に黒崎だけじゃ無いと思うけどな、不安になってるのは」

そう言って林原は少し微笑んで高木さんと鈴木さんの言い合いを止めに行ってしまった

同期なのに、あいつはどこか大人びているし、何よりどんな事があっても冷静に状況を把握して自分に出来ることを迷うことなくこなしていく

林原高人はそういう男だ

見せ付けられたその差に、ようやく追いつこうという気が湧いてきた

そしてその初めての見せ場が今夜の新入社員歓迎会だ



「それでは新入社員の3人を歓迎して、、、かんぱーい!!」

「「かんぱ~い!!」」

PM7時、歓迎会が始まった

新入社員の世話係の鈴木千夏先輩は勿論、その先輩の新田聡さんやまさにOL感が出まくりの佐々木美佳さん、書記の西田さんまで来てくれたのだ

高木先輩はシングルファーザーらしく娘さんの迎えがあるからと帰ってしまった

もう一人の先輩である篠崎さんは元々こういう場には参加しないらしくいわゆる一匹狼だ

篠崎さんは口は悪いが部署の中でも1,2を争うほどの優秀さで上からも一目置かれているらしい

まるでアニメかと思うほどの謎キャラに惹かれない訳が無い

話してみたかったが次に機会を伺うことにした

そしてもう一人、上司の暁月さんの姿も見当たらなかった

気になって西田さんに聞いてみた

「西田さん、暁月さんに挨拶したいんですけど今日は来られないんですか?」

「ああ、暁月さんなら帰ってきてはいるけど今日出た提案書をまとめたいからそれが終わったら来るって言ってたわよ」

「そうですか、」

「そんなに気になる?暁月さんのこと」

「気になるっていうか、結構皆さんに慕われてるしまだお会いした事もないですし、、、」

「年下の上司だから?」

一番痛い所を突っ込まれた

そう、暁月さんは僕より二個下で高校を中退するなり親の伝手でお試し入社という形で入り、その能力が優れ過ぎていることから目を付けた社長が飛び越しで部長にしたらしい

それを聞いたときは凄いなという感想くらいで別に何も思わなかったが、その人の下に就くと聞いた時正直嫌悪感しか無かった

幾ら何でも上司が年下というのは複雑でしかない

どれだけ出来るのかもまだ分からないし親の伝手で入ったという所からして部長になれたのも親の伝手では?と今でも思っている

そんな思いを当てられてすぐに否定ができなかった

「私達も初めは同じ事思ってた。あんたと違って私は6歳差よ?!そんな奴の下なんてふざけんなって上に言ったこともあったわ。でもね、会って話したらそんなこと関係無いっていうか敵わないって思ったのよね」

そんな言葉があの負けず嫌いの鈴木先輩から出るとは思わなかった。

「西田さんも、、、ですか?」

恐る恐る聞いてみたが

「私は嫌悪感はなかったけど興味はあったから初めは好奇心で近づいたんだけど、気づいたらあの人のペースになってて、、みんなが慕っているのも暁月さんの力じゃないかしらね」

ここまで評価が良いと逆に嫌悪感が増すのは俺だからだろうか

「そう言えば確か暁月さん帝正中学だったから、黒崎の後輩じゃないの?」

いつから呼び捨てになったのだろう、いや問題はそこじゃないそんなところじゃない

同じ中学?僕と?そんな訳が無い。僕は中学の時生徒会長をやっていた

他の生徒よりは顔も広いし大体の顔と名前は一致する

だが、暁月なんて名前聞いたこともないし学校に多くの資金を収めてくれる生徒のリストにも載っていなかった

それにもし、そうだとしたらあの噂も、、、

焦りのあまりに動揺していたら流石の鈴木先輩も何かを感じたのか飲みたくなってきたから付き合えとビール両手に後輩二人を連れて行ってしまった

今回ばかりは助けられた、安堵しつつも誰なのか気になって仕方がなかった

その時

『いらっしゃいやせ~!!』

店の扉が開いた

まだ心の準備が出来て無いと思いつつも好奇心には勝てず、目をやった

だがそこには高身長で肌の白い見知らぬイケメンが居た

「あ!暁月さん!!こっちですよ!」

後ろからの声で気付いた。この人が暁月さん?

顔を見ても全く検討がつかない

もしかして鈴木先輩の勘違い、、?

みんなが駆け寄る中、心に引っかかる不安を取り除けず俺だけがその輪に入れなかった

「はい、じゃあ新入生きりーつ!全員その場で自己紹介しなさい」

だいぶ酔った鈴木先輩が余計な事を言い始めた

だが、上司である暁月さんが目の前にいる以上、無視するわけにもいかない

そこで新入社員たちの自己紹介が始まった

「じゃあ私から、、中野未玖です!年齢は23歳で大学ではデザイン系を専攻していたので絵を描いたりデザインするのは得意です。PCは基本的な事なら出来るので沢山役に立てるように頑張りますので宜しくお願いします!」

「デザイン専攻だったんだ。じゃあ西田の下に就いてまずはうちのデザインイメージを掴んでいこうか、西田良いかな?」

「もちろん、しっかり働いてもらうわよ」

「はい!西田さん宜しくお願いします」

凄い、年下とは思えない統率力に流石に部長だけあるなと感心していたら自分の番だったらしく名前を呼ばれた

「次は黒崎くんかな」

「はい、、っと、黒崎蓮です。年齢は23歳で大学は理系だったのでこっち関連のことはあんまりです。ただ中学からPCはいじるのが得意だったのでそこの仕事を中心に出来たらとは思っています。

宜しくお願いします、、、」

「んー、じゃあ明日から俺の下に就いて」

え?んん??待て待て、、話聞いてた?

僕何もできないって言ったよね。何で部長の補佐??

「いや、有り難いお言葉ですが僕はこの中でも経験も知識も浅いと思いますが、、もっと適した人がいるのでは無いでしょうか、、、」

「気にくわない」

「、、えっ」

「此処にいる人間は何かしら目標があるのを初対面の俺でもわかる。中野はデザインがしたいから此処にきた、林原も新入社員の中で優れたいと並並ならぬ努力をしていると聞いた。でも、悪いが黒崎くんからは何も感じないし優秀だという話も聞かない。今日の歓迎会も本当はめんどくさかったんじゃない?」

隠していた本音をさらりと当てられた、それも出会って五分も経ってない年下に。

何も言い返せない。言ってしまえばやっとの思いで入れた居場所を手放す羽目になる、、それだけは避けたい、、

「なんてね!冗談だよ笑やって見たかったんだこういうの笑俺の下に就いてもらうのは本当だけど、

なんかお腹すいてきた。鈴木、おすすめあるかな?」

「もうやめてくださいよ~笑おすすめですね!えっとー、、」

なんなんだ、ただ冷や汗をかいただけじゃないか

こんな人の下につくなんて最悪だ

「黒崎くん、早速だけど明日の打ち合わせしたいから少し時間くれる?」

小声で話しかけてきたその声は何処と無く懐かしい気がした

「、、はい」

「ちょっと待ってください」

すると今まで話していなかった林原が暁月に声をかけた

「林原くんだっけ、そっか君の紹介聞いてないね。聞かせてくれる?」

「俺が貴方の下に付くのはダメですか」

え?いや、僕だと不満なの?そりゃ林原の方が出来るけど、、

まあ言ったの暁月さんだし、さすがに僕を取る、、

「いいよ」

は??

「ほんとですか?!」

「君の評価は他の社員からも聞いてるよ。これからの会社を考えたら君みたいな人材を育成していくべきだと思うしね」

「ありがとうございます!!」

そんな誰でも良かったのなら最初から林原を選べば良かったじゃないか、

僕を余計な感情に巻き込むなよ、それとも腹いせか?僕が仕事できない年上だからって馬鹿にされたのか?理由は何にせよ、もうあいつには関わらない。こんな気持ちにさせたあいつなんか知るもんか、、、こんなことばかり言ってるからダメなんだろうとまた自分が嫌になった。

「いいの?あっさり譲っちゃって。こんなチャンスもう無いかもしれないよ?」

鈴木先輩がこの状況で俺に気を遣ってくれるのは意外だった。

、、、分かってる、分かってる。でも、、

「良いんじゃないですか(笑)僕の力量には合わないかもって不安だったのでちょうど良かったです(笑)」

「、、、あんまり無理しないようにね」

鈴木先輩なりの優しさだろう。

彼女はそれだけ言い残して林原の元へと行ってしまった。

「どう?悔しかった?」

次から次へと話しかけてくる人たちに、ここには空気の読める人間は居ないのかと言わんばかりの態度で振り向くと、そこには一番顔も見たくないその男が立っていた。

「悔しいわりにはあっさり譲っちゃってたけどね」

「僕より林原くんの方が適任かなって僕も思ったので譲っただけです(笑)」

「、、しょうもな」

「は?」

予想外の返答に驚きすぎて咄嗟に出た言葉を訂正しようとしたが、する暇を与えない勢いで会話を続けてきた。

「いや、何で黒崎くんが決めるわけ?俺がそんな事一言でも言った?俺が言ったのはあくまで彼が優秀だということは知ってるっつっただけでしょ。別に会社で優秀かどうかは俺まだ見てないんだし知るわけないだろ?

それなのに何を根拠に俺はコイツに劣ってるって悲劇のヒロインぶちかましてるわけ?

それは林原が自分より優秀だからじゃなくて年下の俺の下に直属で就くのが嫌だったんじゃないの、違う?」

「僕はただ、、、」

ただ、認められたかもって少しでも思った自分が嫌になっただけだ

言い返す事もできず黙っていると、

「、あの時も同じ顔してた」

そう言い残していった暁月さんはどこか寂しい目をしていた

なんのことなのかさっぱり分からなかった

そしてそのまま歓迎会は幕を閉じた

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