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貴方の好きなモノは何かな

作者: とがの丸夫

 授業の終わりと始まりの間。

 10分という短い時間ですることは人それぞれだと思う。


 次の授業に向けた準備、睡魔を受け入れて寝る、友達との談笑、スマホゲームetc……

 そんな中で私がしていることは多分、誰とも被ることはないんじゃないかなと思っている。


 私は自分の席に座って、手には読みかけの小説を開いて目線を活字に向けている。

 ここだけを見れば、私がただ読書をしていると皆は予測するはず、そうでなくては私が困ってしまう。


 なぜなら、目の前の活字に目を向けている私は、その実小説なんて一切読んでいないのだ。

 正確に言えばさっきまで読んでいた、だけどそれは数秒前に変わってしまった。


 原因としては一つ、私の後ろにいる男子生徒たち数名による談笑のせいだ。

 いや、せいというよりおかげと言ったほうがいいのかもしれない。


 私が今していることはその談笑を静かに聞いていること、言い方を変えれば盗み聞きとも言える。

 だけどそれも仕方ないことだと私は思う。


 なぜならさっきまではゲームについての話から、好きな音楽の話に変わってしまったのだ。

 ここまで聞いても多分周りの人には理解されないと思う、だけど一つだけ、この中には重要なことが含まれている。


 その談笑している中の男子生徒の一人が、私の片思いをしている相手だということ。


 いつから好きだとかはもう覚えていない、劇的な事なんて一つもない、ただ気が付いたら好きになっていただけ。


 そして乙女ならば当然、好きな人の好きなものを知りたいと思うのは当然の流れでしょ?

 そうすれば、彼と話したことなんてプリント回収の時ぐらいしかなかったけど、もし彼と二人っきりになったときに共通の話ができかもしれない。


 もしも、そのまま会話が上手く弾んで、彼と話す機会が次第に増えていき……

 なんて考えてしまえば、今の私がしていることの重要性というのは万人に支持されるはず。

 義務といってもいい。


 私が彼らの会話に入っていくにはハッキリ言ってハードルが高すぎる、バーが見えないくらい高い。

 でも盗み聞きは当然よくないことだ。だから私は時にページを進めるなど小説を読むふりをする。

 決して、ばれるわけにはいかないのだ。


 どうやら一人一人順番に自分の好きな曲を提示しているみたい。

 彼以外がどの曲が好きなのかはどうでもいい、早く彼の話が聞きたい。

 数分という時間が物凄く長く感じていしまう。

 そうしてやっと彼の番になった。


 彼はよく音楽を聴くようで、他男子が挙げていたアニメの曲や有名どころな曲に対して理解をしているようだった。

 そんな彼が好きな曲はどんなのだろう。




 下校の時間になり、私は友達に早く帰ると断りを入れてから急いで帰宅する。

 自分用のPCを起動させて脳内メモを引っ張り出して検索する。

 そして該当するアーティストを動画サイトで見つける。

 少し頬が緩んでしまう、多分今日の私を彼が知れば引かれるかもしれない。

 だけどばれなければいいのだ。

 そう自分に言い聞かせつつ、彼の好きなアーティストの曲を聴いていく。


 彼の好きな曲はアニメ曲でも今どきな曲でもなかった。

 聞いたことがないとは思っていたが、彼曰くアーティストが活動していたのは20年近く前らしく、彼が聞いている曲も私が生まれる前後に出た曲ばかりだ。


 それを聞いた周りの男子は彼をからかったりしていた。

 私は好きなものを好きと言って何が悪いのだろうと思わずにはいられなかった。


 曲調などもやっぱり今どきではなく少し昔っぽく、内容は片思いする男子生徒の思いを歌った曲だった。

 彼はこの曲のどこがいいと思ったのだろう。

 彼はこの曲をどう感じながら聞いているのだろうか。


 そう思いながら聞く曲は、普段曲を聞いた時にはなかった、ドキドキ感があった。

 彼はどんな時にこの曲を聴くのだろう。

 暗い夜空を見ながらなのだろうか、もしそうならロマンチックに思えて、少し、にやけてしまう。


 そうして私の頭は、この曲を通して彼のことばかりになってしまう。


 彼と会話することができたなら。

 彼の好きなものをもっと知ることができたのなら。

 彼の見ている世界を私も少しは見れるかもしれない。

 だから私は、自分の好きな人が好きなものを、好きになりたい。


 友達に言えば変人扱いされてしまうなと思うがこれは仕方のないことだろう。


 ふと思う、もしかしたら今この時。彼も同じ曲を聴いているかもしれない。

 一度思ってしまった、たらればは、私の脳内妄想を加速させていった。


 曲をいくつか聞き終わり。

 私は自分のベッドに寝転んで少し気分を落ち着ける。


 だけど、何もない天井を見つめながら私はまた想像してしまう。


 いつか彼とお互いの好きなものを話したりして、仲良くなったりして。

 そして……


 顔に枕を押し付けることで、私は自分のはやる気持ちを必死に抑えた。

 呆然とする頭、赤く熱を持った頬。

「はぁ、今日は寝れなさそう」


 そうつぶやくいて、私はイヤホンを耳につけて目を瞑った。

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