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小椋夏己の千話一話物語  作者: 小椋夏己
2024年  7月
815/1001

静かに沈む

 小学生の子が学校の水泳授業の時に溺れて亡くなったというニュースを見ました。

 泳げない子のグループにいて、プールの縁につかまってバタ足の練習をしていたそうで、なんでそんな状態で溺れたのか、どういう状態だったのかと不思議に思ったんですが、状況を聞いて少しだけ納得できた気がしました。


 いつもは小学校のプールを使っているのに、その時はプールが故障で使えず、いつもより深い中学のプールを借りていたようです。縁のあたりは浅く、真ん中は深い、そんな形のプールで溺れた子は真ん中の深いところに沈んでいたとか。おそらく何かの拍子に溺れ、足がつかない場所まで流されて溺れてしまったんでしょう。


「溺れてる子に付いていた先生たちはなんで気がつかなかったんだ」


 と、思うかも知れません。


「溺れる」


 この言葉を聞くと、ばしゃばしゃと暴れるイメージがあるかも知れませんが、子どもは静かに沈むことがあります。その状態ですうっと流れてきたら、気がつかない可能性もあるんです。


 まだ小さい時、私が幼稚園に行く前の年齢だったと思うんですが、家のお風呂に水を張って、妹と二人、そこで遊んでいました。須磨のプールまで毎週のように近所の人たちと一緒に行ってたんですが、さすがに毎日行くわけにもいかない。今と違って家にエアコンもない、それでそんなことをしてたんでしょう。このお風呂で遊ぶというのも、この時だけだったのかいつもだったのかも覚えていません。


 木のお風呂で座って体を洗うように、お風呂に沿って木の板か、もしかしたらすのこだったかも知れませんが、それを渡してベンチみたいな形になってました。私はその板の上で何かやって遊んでたんですが、ふと湯船の方を見たら、妹が沈んでたんです。


 今でも覚えてますが、私から見て左に頭があって、それがやや斜め下に向いて全体が水の中でぷかっと浮いてる。

 驚いたけど、そういう時って今の私が驚いた時のように「わあ」とか「きゃあ」とかってならないもんですね。私は静かにお風呂場から出て、出た所の台所にいた母親に静かにこう言ったのを覚えてます。


「◯◯(妹の名前)が沈んどう」


 その後のシーンで覚えてるのは、お風呂を出たところの冷蔵庫の横で、母親がバスタオルで包んだ妹の名前を呼びながら叩いてるところ。その横でじっと立って見てたんですが、しばらくすると妹が「うわあーん」と、声を上げて泣きました。

 おそらく妹が沈んでいたのはそんなに長くなかったので蘇生したんだと思いますが、もしももう少しでも長く気がついてなかったらと思うとぞっとします。


 夏になって水の事故のニュースを見聞きした時に、


「子どもは静かに沈みます」


 という言葉を聞くと、その時のことを思い出して本当にそうだなと思うんです。


 溺れると聞くと、激しく水をかくイメージを持つ人が多いでしょう。でもそうじゃありません。


「子どもは静かに沈む」

 

 これを覚えておいてください。もしかしたら、何かの時に役に立って、誰かの命を救えるかも知れません。


 決して子どもはドラマや漫画の中のように「助けてー」「うわー」とばしゃばしゃ溺れるのではないのです。

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