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小椋夏己の千話一話物語  作者: 小椋夏己
2023年  8月
391/1001

技術と気迫

 先日、病院へ行く途中、車の中から見た人の話です。


 病院へ行くのはちょうど朝の通勤通学ラッシュの頃で、大きな幹線道路を渡る時には、駅に向かう自転車がたくさん並んでいます。


 そのうちの一人、まだ若い男性の着ているTシャツの背中にこんな文章が書いてありました。


「気迫は技術に勝る」


 うーん、それはどうよ、と思わず物言い。


 確かに気迫は大事だと思います。先日書いた怖い話の時に「幽霊って気合でどうにかなるんだ」と笑われましたが、まあ、そういうこともあるのかも知れません。


 ですが、何かをやる時に技術と気迫、どちらが必要かと言われたら、それはやっぱりまず技術でしょう。コツコツと積み重ねた技術があった上で、気迫が必要となるんです。何も技術がない者が「気迫だ!」で何かをやったとしても、到底できるものではありません。


 拙作の話で恐縮ですが、短編集「百物語」の中の一編の、


「答えは出ている」


 で職人の話を書きました。


 まだ若い職人が、大きな仕事を前に気後れをして先人に相談します。

 正直、あまり自信がないので「おまえには無理だ」と言われること半分覚悟というか期待しつつ相談したところ、思いがけない返事が返ってくるのです。


『どこに断る理由がある』


 主人公が驚くと、さらに続けてこう言われます。


『なんでもやってみないとできるかできんか分からんだろう。そしてな、終わったその時には、それはもうできることになっとる』


 これ、創作ですが創作ではないんです。私の友人、ちょこちょことネタを提供してくれるL氏がある職人で、本当に大先輩にそう言われたのだとか。あまりにいい話だったので使わせてもらいました。


 ですが、このやってみるようにという言葉も、その職人が努力をして技術を磨いているからです。全くの素人が「どうしよう」と相談しても、一笑に付されて終わりです。


 そう、気迫はそれだけの日々の努力、そして身につけた技術があってこそ生きるのです。

 ビギナーズラックという言葉もありますが、そんなの宝くじで当たるのと同じぐらいの確率でしょう。


 なので、そのシャツを着ている男性の背中に向かって、


「いやいや、それは違うと思うで」


 と、思わずつぶやきながら、信号が変わって走り出した後ろ姿を見送りました。


 なんとなくですが、最近、そういう考えの人が多くなったように思います。恐らく、動画サイトやSNSなんかで、ふと投稿したりつぶやいた言葉が「バズって」一気に有名になったりすることがあるからかも知れない。


 それも確かにあることですが、やっぱり何かは「気迫」を活かせる「技術」を身につけておいた方がいいと思うなあ。

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