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小椋夏己の千話一話物語  作者: 小椋夏己
2023年  8月
384/1001

割り箸と居場所

 小説つながりのある方の息子さんが、この春、進学のために家を離れられました。そして夏休みで帰っていらっしゃいます。お母さんは色々と大変ですね、うれしいしおかえりの準備しないといけないし。


 それで、ふと、思い出したことがありました。


 私がバイトしていた職場にいたまだ若い男性なんですが、ある連休かなにかの後で出勤してきたら、はあっとため息をつかんばかり。そしてこう話しかけてきました。


「俺、この週末、実家帰ってめっちゃショックやってん」


 この方は同じ神戸市内に実家があるんですが、就職する時に通勤に便利なワンルームの部屋を借りて独立されてました。実家はその気になれば通える距離ではあるらしいのですが、それなりに不便なのと、4人か5人兄弟姉妹がいるので早々に家を出たとか聞いたように思います。


 それで、何がショックだったのか聞いてみたら、


「家帰ってご飯食べる時、俺だけ割り箸やってん……」


 本人はいたって真面目な顔でため息混じりにそう言ったんですが、ごめんね、笑ってしまった。


 さらに食後、ご両親と兄弟姉妹と一緒にテレビを見ようと思ったら、


「みんな寝転ぶ位置が決まっとって、俺の場所なかってん」


 いや、かわいそうなんです、気の毒なんですが、めちゃくちゃ笑ってしまった。だって、どんな深刻な問題があったのかと思ったんです、そのぐらいの顔して聞いてって言ってきたんですから。


 その当時、確か22歳ぐらいだったんですが、家を出て数年経つとそうなるのか、とちょっとおもしろかったのと、お箸ぐらい置いておいてあげてもいいのになとも思いました。もしかしたら、最初は置いてあったのが、年月の間にだめになってしまったのかも。そして割り箸。


 さらに食後、そういう時の定位置が決まる、というのもなんとなく分かりますよね。おそらく兄弟姉妹ももう小さい人ではないと思うので、一人前の大きさの子供と親がそれぞれの位置に座ったり寝転んだり、にーちゃん入る余地がない、というのも想像がつかないでもない。


 でもまあ、仕方ない。彼のお城はもうあのワンルームです。同僚と一緒に私も行ったことがあるんですが、狭いながらも自分の一番安心できる空間だと思います。

 私は実家に自分の食器もあるし、今も自分の部屋も残っていますが、今はやっぱり、こうしてパソコンの前に座るここが自分の城です。仕事があるので毎日実家に通ってますし、父が悪くなってからはしばらく自分の部屋で寝泊まりしていましたが、やっぱりなんとなくお邪魔しますな感じでした。


 知人の帰ってこられる息子さんは、まだまだ両方が自分の城ですね。きちんと割り箸じゃないお箸でおいしいご飯を家族と堪能してほしいと思います。

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