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小椋夏己の千話一話物語  作者: 小椋夏己
2023年  8月
339/1001

溺れる人は静かに沈む

 今年は暑いからでしょうか、それとも本当は毎年このぐらいの数は見たり聞いたりするんでしょうか、やたらと水の事故のニュースがあるように思います。


 実は、私も水の事故の現場に立ち会ったことがあります。

 といっても、それは海や川ではありません、家の中でした。


 その時、多分、私はまだ幼稚園に入る前ぐらい、1つ下の妹がお風呂で溺れました。

 そんな年齢の頃のこと、あまりよくは覚えてないんですが、お風呂に入っていたというより、ぬるま湯でもためて、そこで子供2人で遊んでいた時のような気がします。


 当時は須磨の団地に住んでいて、お風呂は木のお風呂でした。木のお風呂にくっつくように、すのこのような座れたり、子供がそこに乗ってから浴槽に入れるような、そんな形になってました。


 私はおもちゃを持って遊んでいたんですが、浴槽に背中を向けていて、それでふと振り向くと、その中で妹が下を向き、丸くなって浮かんでいました。


 多分、すごく驚いたのだとは思うんですが、「きゃー」とか「わー」とかの声は出せず、歩いてお風呂場の外に出たら、すぐそこに母がいて、私の顔を見て、


「どうしたん?」

 

 と聞いてきました。


 それで私は、


「◯◯が浮いとう」


 と、お風呂場を指さして言ったのを覚えています。


 その次のことは覚えていないんですが、続いての記憶は、お風呂場を出てすぐのところにあったら冷蔵庫の前で、母がバスタオルにくるんだ妹をゆするとか叩くとかして、しばらくしたら妹が「うわあああん」と泣いたことです。その間、私は裸のままでその横に立っていたのは覚えています。


 あの時、私は浴槽に背中を向けていて、妹は音もなく沈んでいたので、どのぐらいの間そうして浮いていたのか分かりません。

 母も出入りして様子を見に来ていましたし、多分ほんのちょっとの間だと思いますが、それでも、少なくとも意識を失っていた状態ですし、もしももうちょっと遅かったらと思うと、ぞっとします。


 よく溺れてる子供がばしゃばしゃして、それを見つけた人が飛び込んで助けるというシーンがありますが、


「子供が溺れる時は何も言えず静かに溺れます」


 と、テレビで解説していた人がいて、本当にその通りだったなと思い出します。


 もしも、背後で妹が「きゃあ!」とか言っていたら、幼かったとはいえ、私もびっくりして振り向いたと思いますし、ドアを開けて中で遊んでいたので、母親もその声に飛び込んできたと思います。

 

「溺れる人は静かに沈む」


 これを覚えておいた方がいいと、水の事故のニュースを見ながらあらためて思っていました。

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