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小椋夏己の千話一話物語  作者: 小椋夏己
2023年  7月
317/1001

ビリー・ジョエル来日で思い出したこと

 ネットのニュースに、


「ビリー・ジョエルが東京で一夜限りのコンサート」


 という文字が踊っていました。


「え、ビリー・ジョエル!」


 ものすごく興味を持ちました。

 

 ビリー・ジョエルはそこそこ好きだし、カラオケ行ったら「ストレンジャー」を歌いますが、ライブに行こうとかは思ったことがなかったです。


 そのビリー・ジョエルが16年ぶりに来日、そして今は74歳ということで、


「多分、日本でのコンサートは最後になるだろう」


 との声もありました。


 もしも、大阪や神戸でコンサートがあったなら、ちょっと行ってみたいな、と思いましたが、東京はとても行けないな。


 そのぐらいのレベルで好きなビリー・ジョエルですが、実は、一つだけちょっとした思い出、というのも大げさな、エピソードがあります。


 大学の時です。2年か3年あたりかな。多分1年ではなかったと思います。


 その日、午後から大きな階段教室で授業があり、終わったらもうちょっとだけ暗くなっているぐらいの時間でした。

 

 その教室がある校舎は古く、ちょっとした怖い話もあったりする場所だったりもします。

 外の新しい校舎とは廊下でつながっていて、隣の校舎に入ると一気に雰囲気が変わりますが、まあ、そういう落ち着いた雰囲気のある校舎だったのです。


 私は帰る前に行っておこうと、その校舎のトイレに入りました。

 新しい校舎のトイレの方が明るいけど、そっちに行く予定がなかったし、その時は、そのトイレに怖い話があるなんて、全然知らなかったので、普通にそのトイレに入りました。便利なのが一番です。


 入った途端、トイレの廊下に向かって右側、階段教室のある校舎の端っこ、隣の校舎とつながる廊下のない方向から、


「ぴぴぴぴ~ぴ、ぴーぴぴぴぴ」


 と、ビリー・ジョエルの「ストレンジャー」の、あの有名なイントロの口笛が聞こえてきたんです。


 その口笛がすごく上手で、思わず聞き惚れるほど。

 かすれることもないし、音程もしっかりしてる。


「うまい口笛だな」


 と聞いていたら、トイレに近づくに従って次第に音が大きくなり、トイレを通り過ぎたら隣の校舎へつながる廊下へ進みながら、段々と小さくなっていきました。口笛ドップラーです。


 そして、イントロの最後まで吹き終えると、そこで隣の校舎へは移動せず、階段で上か下に進んだのでしょう、ぴたりと音が消えてしまいました。


 私はトイレから出てその方向を見たんですが、もうどこにも誰の姿もなく、その名演奏の奏者の姿は影も形もありません。


「うわあ、どんな人やったんやろ」


 そこから歌が始まるところ、静かな音楽から、


「ちゃっちゃらちゃっちゃちゃら」


 と、イントロが切り替わるまでの本当に短い時間でしたが、素晴らしい口笛でした。


 吹いていた人が男性か女性か、若い人、学生か、それとも学校関係者のもうちょっと年上の人かも分かりませんが、あの校舎のうす暗い廊下を、多分、トイレに人がいて聞いていると思いもせず、気持ちよく口笛吹きながら歩いていたんだろうなあ。

 もしかしたら、階段を上がるか降りるかしたところに人がいるのに気がついて、それでいきなりやめたのかも。


 だけど、あれが本物のビリー・ジョエルだったと言われても、びっくりしないぐらいのいい時間でした。

 トイレにいたのだけがシチュエーションとしては惜しいですが、それ以来、ビリー・ジョエル、ストレンジャーと聞くと、あの時のことを思い出します。

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