5th line:唯一無二のオブザーバー
紅莉栖「岡部はこれまで多くの世界線を漂流してきた。そこでは私がいない場合やまゆりがいなくなる場合、他のラボメンや秋葉原に変化が起きる場合等様々だった。」
岡部「あぁ。」
紅莉栖「これらの話はほとんど岡部だけが実体験をしている。私達もデジャヴのようなものを感じることはあるけれど、現実感まで伴っているわけじゃない。」
ここまで話して次の言葉を選ぶ。
岡部を除く私達がぞんざいにならないように。
紅莉栖「…岡部を中心に世界が変わる。岡部がある世界線にいる時、その世界が真となる。その他の世界線は存在しているかしていないかさえも不明。」
岡部は答えない。
しかし、それに近いことを感じたことはある筈だ。
紅莉栖「というのが、私があんたから世界線漂流の話を聞いた時感じたことなんだけどどうかしら?」
岡部「そう考えられなくもない。だが、お前が俺を助けに来てくれた時、お前は俺がいる場合とそうでない場合を認識していられた。俺が中心とはとても」
紅莉栖「違うのよ。確かに私は違いを認識できた。だけどそれは同一世界線上での話。岡部はS;G世界線とR世界線を行き来したりしていたけれどその記憶があるはず。」
岡部「…誰もいない秋葉原とS;G世界線とをいつの間にか繰り返していた。」
紅莉栖「私は世界線を移動したわけじゃない。私はここにいて様々なことを知覚し記憶し考え行動する。しているつもりだけど、そうだったし、これからそうするつもりだったということになっているだけかもしれない。」
岡部「過去の記憶やこれからどうするかは、俺がその世界線へ移動した時、あらゆる人、モノ、含めて決まる、と?」
紅莉栖「その可能性は否定できない。」
橋田「あーそういう話、昔アニメで見たことあるお。確か、人間原理とかなんとか。」
紅莉栖「この場合は岡部原理になるわね。」
岡部「流石に、あまりにも飛躍し過ぎなんじゃないか?」
紅莉栖「私が言いたいのは、岡部だけが特別だということ。岡部という観測者がいて初めて世界は確実なものとなる。もしかしたら、その際世界線も創られているのかもしれないというのは話のついでね。元からあるにせよ新たに創造されているにせよ、違う世界線に移ることに変わりはない。」
岡部「どうせなら自分のいいように創造できたらいいんだがな。」
紅莉栖「そうね。ともかく、岡部は世界線移動の影響は受けずに世界を外側から観測できる。観測していることが現実となる。そして、Dメール等で行ってきたように、世界線を変更することも出来る。忘れないで。」
岡部「…わかった。」
大体みんなに伝わったようだ。
重要な部分は話した。
後はまゆりの作戦の話。
と、鈴羽さんが零す。
鈴羽「オカリンおじさんは不思議な能力を持っているとは聞いていたけれど、今の話じゃまるで神様みたいだね。」
そう。
もしかしたら、もしかしなくても特別ななにかなのかもしれない。
でもそれはどうでもいい。
それでも私は。
私にとっては特別な。
紅莉栖「話をまとめるわね。」
今はまゆりを助けることだけを考える。
紅莉栖「『運命探知の魔眼を岡部が身につけた経緯は出来すぎているともいえる』、 『完全な運命探知の魔眼を持っているのは岡部だけである』、『世界は観測者である岡部がその事象をどのように捉えるかで決まる』、ね。納得出来なくても、そういうことも可能性として有り得ると理解してもらえるなら、作戦を話すわ。」
方法を告げなかった未来の私。
きっと今その気持ちを共有している。
このやり方は世界線に影響を及ぼす可能性が高い。
そして、上手くいかなかった場合、別の世界線に移ってしまい戻ってこられないことも有り得る。
そうならなくても、次の最善策はない。
岡部「…納得だ。話してくれ、紅莉栖。」
他の二人も頷く。
覚悟は決まった。
紅莉栖「よく聞いて頭に入れて。」