3rd line:遥か彼方のネクストムーヴ
まゆりの死まであと5日。
タイムリープした俺は、まずフェイリスにまゆりの連れ出しを依頼した。
真に迫るものを感じたフェイリスは、二つ返事で引き受けてくれた。
洞察力に長けていてくれて本当に助かる。
それから、紅莉栖、ダル、鈴羽にこれまでの経緯を説明した。
紅莉栖「なるほどね。タイムリープでの解決に囚われた。仕方のないことね。」
ダル「でも、オカリンと牧瀬氏、僕と鈴羽がいてもどうしようもなかったって、どうするん?」
岡部「世界線漂流では、紅莉栖達にアドバイスをもらい俺は行動出来た。だが今回それではどうしようもなかった。そうだな、鈴羽?」
みなが沈黙する。
鈴羽「うん、まぁ。」
紅莉栖は分野に関わらず様々なアイデアを出せる天才だ。
ダルも世界で匹敵するようなコンピュータに関する知識を持ち、論理的な考え方は卓越しているだろう。
鈴羽は現在までの出来事を知っている。ある意味、誰も彼女には敵わない筈。
これほどの人材を持ってしても解決できないこと…。
岡部「俺達だけでは不可能なのか…?紅莉栖は知り合いに頼れそうな人物の心当たりはないか?」
紅莉栖「大学の先輩とか思い当たるフシはあるけれど、私達とそう変わらないと思う。」
それから、俺達は長い時間をかけて様々な議論やトライ・アンド・エラーを重ねた。
まゆりは本当に世界線によらず死んでしまうのか。
S;G世界線より、よりよい世界線へ移動できないか。
そもそもまゆりが俺達と出会うことが死の因果となっているのではないか。
etc。
問題が起きなさそうなものについて、タイムリープをし次々と実践していった。
必要であればフェイリスやルカ子、萌郁等の手も借りた。
…しかし、どうしても。
まゆりは2011年8月26日を迎えることは出来なかった。
…
2036年某日。
紅莉栖「完成したわね。」
私と橋田、そして岡部のみんなで作り上げたタイムマシン。
あの夏の日、鈴羽さんが見せてくれたものと寸分違わぬもの。
岡部「俺達はこのタイムマシンを通じて、2011年~2036年を繰り返している。このループを抜け出す鍵は、まゆりを死の運命から解き放つこと唯一つ。」
岡部は白衣のポケットからまゆりの懐中時計を取り出す。
あの時から、止まったままの。
そして、岡部は懐かしそうにタイムマシンを触る。
橋田「そうだな。オカリンと牧瀬氏、僕達の願い。鈴羽、頼んだぞ。」
鈴羽「うん、わかってる。」
岡部「”今回の”俺達は失敗した。けれどその積み重ねが、いずれ道を拓く筈。」
それに頷く私。
もう何度繰り返しているのだろうか。
今の私があるということは、これまでの私も同じ選択をしてきたということに他ならない。
本当にこれでいいのだろうか。
岡部「紅莉栖、どうした?」
訝しがる岡部。
気づいているようには、見えない。
橋田もこちらを見ている。
紅莉栖「岡部は。」
息が詰まる。
これで良かったのか、なんてとても訊けない。
紅莉栖「狂気のマッドサイエンティストは、科学者なのよね。」
不意に話をそらした。
岡部は不思議がることもなく答える。
岡部「懐かしい設定が出てきたな。俺は悪の科学者でもなんでもない。気取るなら、本物の科学者のお前の方が映えると思うがな。」
岡部は苦笑する。
紅莉栖「私は、科学者失格よ。最善を尽くすことが…。」
どうしても言葉にならない。
どうにか出来たのではないかという想い。
しかし、岡部は続ける。
岡部「最善を尽くす、か。流石は紅莉栖。科学者だな。」
岡部は再び懐中時計に目を落とす。
私が思いついていた他の様々な方法。
内容はわからなくても、岡部はその存在に気づいていたのかもしれない。
そして、何故私がそれを言わなかったのかを。
…私は間違えたのかもしれない。
だったら。
紅莉栖「そうよ。方法があるならやるのが科学者よ。狂気のマッドサイエンティストさんも根っこは同じ…きっとね。」
喋りながら、タイムマシンの名前『OR204 2nd EDITION Ver2.31』の最後に『×』の印を書く。
鈴羽「マッドサイエンティストはよくわからないけど、やれることがあるのにやらないで後悔するのは、私は嫌だ。だから、私はタイムマシンで父さん達の願いを叶えてあげたい。」
若いが故か、真っ直ぐに本音をぶつけてくる。
いや、鈴羽さんはそういう人間だ。
…。
私に出来ることはここまで。
後は私次第ね。
紅莉栖「引き止めてしまったみたいでごめんなさい。大変だと思うけれど頑張って。」
鈴羽「そのつもりだよ。」
岡部「鈴羽。気をつけてな。」
鈴羽「うん。今度こそ上手くいくよう、祈ってて!」
タイムマシンに乗り込み操作をする鈴羽さん。
やがて扉が閉まり、青白い光とともにタイムマシンは消えた。