第八話・魅せられて、決断‼︎
『魔導騎士から始まる、現代のゴーレムマスター』は不定期更新です。
また不定期更新詐欺と思われるでしょうが、もう少しだけ不定期更新宣言にお付き合いください。
児童会館で見た、魔導騎士の最新型戦闘システム。
それを見た亀尾と伊勢の二人は、本来の任務を一瞬だが忘れてしまう。
あの機動性、自然な動作、あのノウハウを手に入れたいという気持ちは、自分たちにもわかる。
あれがあれば、出世街道間違いないという山田錦弥部長の言葉も理解できる。
だが、それで良いのか?
伊勢ひかりは、以前渡されたチラシを取り出して、じっくりと眺める。
常識的に考えれば、あれは極細フレームによって構成されたロボット。体表面に軟質ラバーを張り巡らせることによって、人間らしい柔軟性を表現している。
思考回路によるラジコンというところだろうが、それも言語入力システムにより命令を伝達していると思えば理解できる。
もっとも、今の伊勢の予想が実現できるかというと、それは不可能に近い。
関節可動部のギアボックスおよびサーボの小型化、超小型バッテリー、そして音声入力システムとそれを解析し全身に命令するAIなど、軍事レベル的にも存在しない。
それが、目の前にある。
けれど、開発者の彼は、あれをロボットと認めず、ゴーレムだ、魔法で動くと必死に誤魔化している。
「……はぁ。伊勢さん、俺たち、もう本社に戻ることはできないんでしょうかね」
「山田部長の命令では、契約を取るまで戻ってくるなっていうたたなぁ。そんじゃ、帰れへんなぁ」
「そんな簡単な……俺、先週、彼女ができたばっかりなんですよ?」
「諦めや」
「そんな簡単な‼︎」
営業所の会議室に、亀尾の悲しそうな声が響く。
でも、伊勢はそんな形を無視して、チラシを隅から隅まで確認した。
魔導騎士の説明の他には、開発メーカーであるゴーレムファクトリーの説明も記されており、しかも、他社に対しての牽制なのか、商品化についての説明も記されている。
・12タイプの魔導騎士の販売
・追加で外装甲や装備の単品販売
・バトルシステムは非売品だが、全国のホビーショップやイベント会場で公式バトルを始める
この三つの説明だけでも、他社営業や開発部が飛びつくことは確実なのだが、伊勢は頭をひねるだけ。
「一過性のオモチャで終わる可能性もあるなぁ、どうすっかなぁ……」
「一過性でもなんでも良いんですよ、騙してでも契約取って、システムのノウハウを手に入れないと俺は破局なんですからね‼︎」
「犯罪まがいのことするぐらいなら、そんな恋愛、壊れてしまえや‼︎」
そう言い捨てて、伊勢は亀尾を置いて退社する。
明日は朝一番でやることがあるので、別行動だと亀尾に伝えて。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
予想外。
最新型のバトルシステムを使った魔導騎士のバトル。
あの場ではメンテナンスが間に合わなかったので、自宅に戻ってからチェックをしているのだけれど、予想外にダメージが蓄積している。
「あっちゃぁ……武器は半分近く作り直しか。本体のダメージもあるから、連続稼働については考えないとならないか」
「ユウさま、ソードマスターとニンジャのダメージが一番ひどいです。予備機の用意も必要かと思われますが」
「ダメージのひどいのは、物質修復の魔法陣に放り込んでおいてくれるか? 小町も綾姫を手伝ってくれ」
「了解。社員ですから何なりとお言いつけくださいね」
ニコニコと笑顔で返事をする小町。
あ、そうか、社員か。
それなら、小町にもゴーレム製作のノウハウの一部だけでも教えておくか。
「魔法陣展開……接続」
今からゴーレム魔法の修行をしたところで、小町がそれを身につけるのは十年単位だろう。
それなら、魔導具を作って、それを渡しておけば良い。
「素材は……アダマンタイトで、形状は……」
小町は空手をやっているからなぁ。
必要に応じて取り外しできないとまずいけれど、盗まれると困る。
解析なんてできるはずがないけど、アダマンタイトを失うのは大きい。
ミスリルで作るのもありなんだけど、アダマンタイトは魔力増幅作用があるから、これでアクセサリーでも作って渡したほうがいいのかなぁ。
「まあ、今はペンダント型で、ペンダントトップには魔晶石を加工した魔導核を配置。大が一つで、周囲には六つ……」
中心の魔導核は、小町と同調するためと魔力増幅。
周りに配置した小さな魔導核は、知識継承術式を使って、ゴーレムに関する知識を組み込んでおく。
組み込む術式は、全部で六つ。
・物質修復
・解析
・契約解除
・空間収納《3m立方の簡易型》
・基礎ゴーレム知識
・変形
「……これでよし。小町、ちょいとこれを手に取って、契約してくれるか?」
「え? なにこれ綺麗。手に取って契約すれば良いのね? 契約‼︎」
──キィィィィィン
ペンダントトップの魔導核全てが輝き、小町との契約が完了した。
「?????」
「これで、そのペンダントは小町のものだ。ゴーレムファクトリー開発部の社員として、頑張ってくれ給えよ」
少し偉そうに話すと、小町が笑いながらペンダントを身につける。
──ヒュィィィィィィン
すると、小町の頭の周囲に様々な術式が浮かび上がり、小町の頭の中に刷り込み始めた。
「え? なにこれ? えええ? お、あ〜、なるほどなるほど」
頭の中に浮かんでいる術式と知識を、小町が反芻している。
「これって、私もゴーレムが作れるようになったの?」
「基礎だけなら。あと物質修復、解析、契約解除は俺と同じように。新型開発とかは、まだ小町では無理だけど。あとは、俺よりも小型の空間収納、そして歪んだ機体を治すための変形かな?」
「十分だよ。私を信じて教えてくれてありがとう‼︎ これで、私もゴーレムファクトリーの社員だね?」
「まあな、と言うことで、こいつらのメンテナンスを頼むわ」
今日の体験会に使った魔導騎士を全て取り出して並べておく。
「綾姫、飯の準備を頼むわ。疲れたから肉が食いたいので、よろしく」
「かしこまりました。今から解凍するのは間に合わないので、買い物をしてきます」
いそいそと綾姫が買い物に出かける。
そして俺はバトルリングの調整を始めることにした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
翌朝。
伊勢ひかりは、朝一番でゴーレムファクトリーの本社である十六夜悠の家にやってきた。
チラシには住所や連絡先は書いてなかったけど、子供たちから書き込み調査を行なって、悠の自宅までやってきたのである。
「……本当に、隠す気がないんやなぁ」
門柱の表札には十六夜悠の名前。
その上には『ゴーレムファクトリー』の看板が設置してあった。
「よし、ここからは営業の腕の見せ所やな」
覚悟を決めて、インターホンを押す。
──ピンポーン
軽快な音が響くと、すぐに反応があった。
『はい、十六夜ですが、どちらさまでしょうか?』
「私、バンライズ営業部の伊勢ひかりと申します。本日は、魔導騎士の開発者である十六夜さまに、耳寄りの情報をお持ちしました」
営業スマイルで話をする伊勢。
少しして、門がゆっくりと開くと、玄関から綾姫が姿を表した。
「社長がお話を伺うと申しております。こちらへどうぞ」
「ありがとうございます」
丁寧に挨拶を返すと、伊勢は綾姫に案内されて家の中へと上がっていった。
………
……
…
朝九時、普通の会社なら仕事は始まっているのだが、ゴーレムファクトリーの営業時間は十時から。
表立って告知していないので、悠としても来客対応として事務室へと案内して貰った。
「早朝から申し訳ありません。先日もお伺いしました、伊勢と申します」
「いえいえ、営業時間を公開していなかったこちらのミスですから」
昨日とは違い、今日はしっかりと名刺交換もする。
昨日のうちに交換しておけばよかったのだが、生で見た魔導騎士のバトルに圧倒されてしまい、それどころではなかったのである。
「それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「はい。こちらのチラシのことについて、いくつか教えて欲しいことと、あとは……商品展開についてのいくつかのアイデアがありまして」
「……それは、バンライスさんで、うちの開発権利を購入してから、こうしますって言う提案ですか?」
悠の口調が強くなる。
だが、伊勢はその程度の反応は予想していた。
「いえ、たしかに私は、本社からゴーレムファクトリーの魔導騎士シリーズの開発システムや権利についての契約を取ってこいと言われてますが、これは別の話ですので」
「では、今日は魔導騎士シリーズの開発システムについての契約の話はない、と考えても?」
「ええ。今日の提案はですね、私個人の意見とお考えください」
それで話は纏まった。
まずは伊勢の誤解を解くために、悠が彼女の前でゴーレム魔法を披露する。
当然ながら画像として残すことは構わないと説明して、新型魔導騎士を一台、素材から完成させたのである。
これには伊勢も言葉を失う。
以前、ツクダサーガの五百万石の前で見せたものと同じ手順ではあるが、彼女は初めて見る魔法に心を奪われてしまった。
そして、先日の無礼な言葉に対しての謝罪を改めて行うと、ようやく悠が本物の魔法使いで、ゴーレムである魔導騎士を作ることができると確信した。
………
……
…
「では、本題に入りたいところですが、ちょうど朝ごはんの時間ですので、宜しければどうぞ」
「あ、よろしいのですか?」
「ご飯は大勢で食べた方が楽しいですからね」
そのまま食堂に案内されると、綾姫と小町が朝食の用意をしていた。
そして全員……綾姫を除いて……で、食事を終えると、居間で本題に入った。
「では、本題に入りますが。魔導騎士の商戦ですが、あれでは、すぐに飽きられてしまう可能性があります」
「……ほう」
「最初に12タイプをラインナップし、追加で武器や防具などを販売する、大会は都度、必要に応じて行う。これは構いませんが、子供のおもちゃ程度の認識で終わります」
そこからは、伊勢のマーケティング。
簡単にいうと、個人でカスタマイズできなくては、長く売れることはないと。
漫画やアニメでいうのなら、『主人公が自らカスタマイズした機体』であったほうが、より大勢のマニアの心を掴むことができる。
現に、過去に漫画やアニメであった作品などを考えると、主人公が手塩にかけて作り出した機体でなくては、愛着が湧かないと言うのである。
「……おおう」
この伊勢の言葉には、悠も衝撃である。
魔導騎士を開発し、ラインナップを揃えて体験会をしていたときには、気がつかなかった。
たしかに子供たちは、昨日の体験会で武器や防具を好き勝手に、自分の趣味で装着していた。
中にはタイプ・プロテクターに両手剣二刀流などと言う奇妙奇天烈なことをしていた子もいる。
だが、その想像力を、今のシステムでは活かしきれていない。
「ありがとうございます‼︎ そうか、そこまでやらないとダメだ。今のままじゃあ、市販の規定で遊ぶラジコン大会と変わりがない、そうだよ、なんでそんなことを忘れていたんだ‼︎」
瞳を輝かせながら、悠は伊勢の手を取った。
「ありがとう、これで、ゴーレムファクトリーはさらに飛躍できる。小町、今日は綾姫と二人で体験会を仕切ってくれるか? 俺はカスタマイズ用のシステムを構築したい」
「はいはい。それは構わないけど、伊勢さんが固まっているけど?」
「え?」
そう小町に突っ込まれて、悠は慌てて伊勢を見る。
すると、伊勢は顔を真っ赤にして固まっていた。
「あ、あ、はい、ありがとうございます」
すぐに伊勢から手を離すと、悠は改めて伊勢を見る。
「ありがとう。このお礼をしたいのですが、何か希望はありますか? 我が社はまだ、それ程大きな企業ではありませんけど、是非ともアイデア料をお支払いしたいのですが」
たとえ魔導騎士が欲しいといわれても、悠は喜んで差し出すつもりだった。
だが、このあとの伊勢の言葉には、その場の全員が驚くことになった。
「私はバンライスを退社します。そして、このゴーレムファクトリーに営業として雇って欲しいのです」
思わず出た言葉。
これには伊勢本人も驚いたのだが、昨日からの心のざわつき、そしてゴーレム魔法を見た驚きが、彼女を決断させたのである。
すると、悠は静かに右手を差し出す。
「ようこそ、ゴーレムファクトリーへ。我が社は、あなたを営業として雇用したいと思います」
あっさりとした結末。
だが、悠は伊勢を信用した。
自分に理がないと分かっていても、魔導騎士の将来の道の一つを切り開いてくれたのだから。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。