第二十五話・いきなりピンチ、もうあとがない‼︎
『異世界帰りのゴーレムマスターが、子供たちに夢と希望を与えるゴーレムバトルを広め、世界を席巻する物語』は、毎週水曜日の更新です。
茫然自失。
いや、待って、俺負けたんだよね?
たしかに対人戦の経験は少ないけどさ、いきなり初戦敗退ってどういう事なの?
あとはどうにか先輩たちに頑張って貰わないとならないんだけどさ。
すでに魔導騎士部は勝利確定の雄叫びを挙げているし。
「……まあ、十六夜くんの敗北の原因はひとつだけ。貴方は、公式戦ルールでの経験が乏しかっただけよ。このまま校内予選を勝ち抜いたら、少し魔導騎士部の先輩たちに相手をしてもらいなさい」
「は、はぁ……仰る通りです、とほほ……」
でも、秋穂波先輩は勝つ気満々。
かたや星野先輩は、真っ青な顔になっている。
そりゃそうだ、俺が敗北した結果、我が魔導騎士同好会にとっての勝利は、ここからの二連勝のみ。
秋穂波先輩が勝って星野先輩が引き分けても、俺と秋穂波先輩の機体のメンテナンスは間に合わないので、結果として負けは確定。
「さて、それじゃあお相手してあげましょうか。全国魔導騎士小学生コロシアム三年連続制覇のこの私が‼︎」
おっと、魔導騎士部の中堅は、二年の里山はるみ先輩かぁ。
小学生大会で、四、五、六年生で三年連続制覇の記録を持っていますからなぁ。
「では、こちらも本気でいきますわよ」
おお、秋穂波先輩も燃えている‼︎
◾️◾️◾️◾️BATTLE START ■◾️◾️◾️
──ゴゥゥゥゥゥゥ
巨大な円形闘技場。
全国高校生バトルコロシアム予選で使われるステージであり、全試合共通のノーハンデフィールド。
秋穂波の『ニア・ブランシュ』と里山の『デジタル』。
共にメイドスタイルの機体ではあるが、かたや『ニア・ブランシュ』がクラぅシックスタイルであるのに対して、『デジタル』はミニスカ萌え系メイド。
スタートラインで腕を組み、お互いにガン付けあっている。
「そんなロングスカート、戦闘では邪魔ですよ?」
「そんな短いスカートを翻して……貴方は痴女?」
「ぶっ……壊します‼︎」
公式戦のスタートラインに両機が並ぶと、クリスマスツリーと呼ばれるスタートコールが点滅を開始。
──3…2…1…GO‼︎
観客一体のカウントダウン。
それが終わった直後だが、両機ともに動かない。
いや、ニア・ブランシュは箒をガン、と地面に突き立て、デジタルに向かって右手を差し出す。
──クィックィッ
かかってこい、そう態度で示すが、デジタルは空手の構えをしたまま、一歩も動かない。
「そんな安い挑発には乗りませんよ」
「そういう貴方こそ、カウンター狙いなのが見え見えですわね」
「このまま時間切れまで持ち込んでも、私たちは構いませんからね」
「ふぅん。それなら、こちらから仕掛けさせてもらいますわ」
──ドゴッ‼︎
くるっと箒を回転させて、力一杯振り回す。
距離的には届かないはずだが、突然、箒が九つに分解し、鎖によって繋がった。
九節棍ならぬ九節箒での攻撃。
これにはデジタルは不意をつかれ、思わず回転受けで弾こうとしたが失敗。
右腕を絡め取られ、しかも頭部に一撃を受けてしまう。
──ジャララララッ!
すぐさま九節箒を引っ張り、デジタルの腕から外すと、手元で素の箒に戻した。
「これで、私が逃げ切ったら判定勝ちですわ」
「な、なんだよその武器は‼︎ 反則じゃないのか?」
「まっさか。普通に作った武器ですわ。そもそも、魔導騎士のルールでもありますわよ?【発想こそが勝利の鍵】って」
そう告げてから、ニア・ブランシュのスカートが膨れ上がる。
そしてホバリングモードに移行すると、スカートから圧縮空気を吹き出して後方に下がっていく。
「きっ、汚ねぇぞ、堂々と勝負しやがれ‼︎」
「あらあら、地が出ていますわよ」
「ハッ‼︎ そ、そんな事ないわよ‼︎」
慌てて口元を押さえる里山だが、観客は盛りに盛り上がっていた。
「さぁさぁ、早く追いつかないと、判定負けですわよ?」
「くっそぉぉぉぉ、闘気砲‼︎」
──ダン‼︎
デジタルが、両足でしっかりと大地を踏みしめて腰を落とす。
そして右腕に魔力を集めると、ニア・ブランシュ目掛けて正拳突きを撃ち込む‼︎
──ドゴォォォォォッ
すると、右拳から、魔力によって形成された拳が飛び出す。
「……ブレイザーの魔導砲で、その技は散々見ていますわ」
──ゴゥッ
ニア・ブランシュのスカートに魔力が集まり、スカートの中に搭載されている『魔力スラスター』がフル回転する。
そしてデジタルの右拳を交わしつつ、さらにデジタルの引っ張る後方に回り込むと、九節箒での乱撃を始めた。
──ドゴドゴドゴダゴッ
まさにタコ殴り。
一方的な打撃が続いたのだが、デジタルのダメージゲージが動かない。
「……ふぅ。ようやく魔力チャージが終わったよ。本当に、ファーストリミットって、使いづらいよね?」
──ギン‼︎
そうデジタルが呟いた刹那、デジタルが白く光る。
そして高速でニア・ブランシュの正面に回り込むと、魔力を纏った拳での正拳突きが直撃する!
──ドゴォッ
たった一撃で、ダメージゲージの半分が削られる。
「ま、まさか、期待の運動性能を、ファーストリミットで補ったのですか?」
「その通りさ。まあ、これを使うと長く持たないけどさ、その前にあんたをぶっ壊せばおしまいだろう?」
──シュンッ
再びデジタルが高速移動して、ニア・ブランシュの後方に回り込む。
「これで終わりだよっ!」
「貴方がですわ」
──シュンッ‼︎
デジタルの攻撃が直撃する刹那、ニア・ブランシュの機体が消えた。
正確には、魔力スラスターによりサイドステップしただけであるが、デジタルの一撃をなんなくかわすと、そこからデジタルの首目掛けて、力強い回し蹴りが炸裂した。
──キィン
鋭い金属音が響く。
「ふん、そんな軽い蹴り、私のデジタルに効くはずがない‼︎」
──ゴトッ
里山の自信満々な叫びと、デジタルの首が切断されて、頭が地面に落ちたのは同時。
たった一撃で、デジタルの頭部は破壊されてしまった。
この瞬間、デジタルの目から見える映像が地面だけになり、機体の制御は勘に頼るしかなくなった。
「な、なんだって‼︎ 何をやったんだよ!」
「貴方がチャージしてまで機体の運動性能を上げていたことを、私は最初から行っていただけですわ。これでフィニッシュです‼︎」
ニア・ブランシュが高々と右足を高く掲げる。
その踵に魔力が薄く、鋭く纏わりつくと、力一杯、高速で頭のあった場所目掛けて振り落とされた。
──ダン‼︎
「ギ、ギブアップ!‼︎」
里山がコクピットブロックにあるギブアップボタンを拳で叩き押す。
その瞬間、試合は終了し、ニア・ブランシュの攻撃はデジタルの胴部にめり込んだ瞬間に停止した。
魔導核まで、あと1センチ。
里山は、ギリギリの判断でデジタルを失わずに済んだのである。
◾️◾️◾️◾️GAME OVER ■◾️◾️◾️
「ふふん。急いでメンテナンスですわね‼︎」
余裕をもってニア・ブランシュを回収すると、秋穂波はマテリアルBOXに格納し、冷却を開始する。
かたや里山も大慌てで回収するが、すでに機体の胴部からシュウシュウと放熱している。
「ま、間に合って‼︎」
どうにかマテリアルBOXに格納すると、里山も急いで冷却。ギリギリのところで、破壊を間逃れていた。
「はわわわ……」
この瞬間、魔導騎士同好会は一勝一敗のカウントリセット。
勝敗は、大将戦へと持ち越されてしまった。
「ど、どうしましょう」
「まあ、ここまで来れたんだ、楽しんできたらいいさ。それよりも秋穂波先輩、機体の冷却は間に合いますか?」
「そうね……あと二時間は必要ですわ。十六夜くんは?」
「俺はダメ。三時間以上は必要だな……」
冷却だけならなんとでもなるが、そのあとの損傷部位の修復、プログラム調整に時間が掛かる。
物質修復を使えばすぐに治るんだけど、ここで使う訳にはいかない。
あれはあれで、本人の魔力の消耗が激しいから。
「いずれにしても、星野さん、貴方に全てが掛かっていますわよ。でも、気負わないで、遊んでくるといいですわ」
「そうだよな……」
「まあ、負けなければいい、時間切れ引き分けで構わないからね」
「そうだよな……って、機体は?」
「予備機はあるわよ。まあ、バトル経験値はないから、かなり不利だけど」
そうなるよなぁ。
まあ、今は、星野先輩の勝利を祈るしかないか。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




