第二十二話・校内予選のその前に
『異世界帰りのゴーレムマスターが、子供たちに夢と希望を与えるゴーレムバトルを広め、世界を席巻する物語』は、毎週水曜日の更新です。
はてさて。
全国高校生魔導騎士コロシアムの北海道予選まで、あと二週間。
我が校の魔導騎士部は、どうにか新しい顧問を迎え、校内予選の準備を始めた。
かたや、俺たち魔導騎士同好会 というと、大会までに正式メンバーをあと一人加えなくてはならないため、掲示板に同好会メンバー募集の張り紙をしてみた。
ちなみに公式ルールでは、一つの高校に二つの魔導騎士関連の活動組織がある場合、掛け持ちができないというルールがある。
これは校内予選で敗北した団体が、勝者の団体に参加して乗っ取りが起きるのを防ぐためである。
過去にそのような事例があったので、それを防ぐために設けられたルールであるが、実は穴がある。
校内予選が開始されるまでに、正式な手続きを経て転部を行うことができる。
これは校内予選一週間前までに、バトルリングを通じて行うため、不正ができない。
結果として、正式な部よりも勝率が高そうな他の活動団体に移動することができ、正式メンバーがごっそりと移動して乗っ取りを行うという事例もある。
そのため、転部については転部元、転部先それぞれの顧問の承認が必要となり、よほどのことがない限り添付はできなくなっている。
………
……
…
生徒会室では。
「ということですので、本日より星野さんの特訓を開始しますわ‼︎」
「は、はいっ、よろしくお願いします‼︎」
「何が、ということなのかわかりませんが。具体的には? 何をするんですか?」
──ビシィッ
秋穂波先輩が、指先を曲げて俺を指さす。
あ、アメリカ海兵隊式だ、人を指差すときは指を曲げて、直接指を向けないってやつ。
よくご存知で。
「十六夜くん、あなたのブレイザーの秘密を教えてもらいますわ」
「そっちかよ。まあ、世界大会常連とかは、俺よりも上のスキルまで解析しているからなぁ」
「国内では? プロ選手とかでも十六夜さんのような攻撃手段を取っている人はいませんわよ?」
そこな。
実は、プロ選手は大なり小なり、俺の使っている設定システムを解析している。
それを広めないのは、自分の手駒が減るのを防ぐため。だって、人におしえて使われたら、自分の勝率も下がるだろう?
自分の収入にも関わるところだから、普通は教えないし、俺も教えるつもりはない。
「それがいるんですよ……たとえばですね?」
──ピッ
壁に埋め込まれているモニターを起動し、YouTubeに接続する。
「チャンネルは、ツクダサーガ公式……全国プロトーナメントは……これだ」
画面には、昨年度のプロトーナメントの様子が映し出されている。
これは、国内に5つあるプロトーナメントの一つ、『サーガオリンピア杯』。
優勝賞金が五千万円の大会であり、本戦に参加するだけでも50万円の賞金が手に入る。
そこから一回戦の動画を探し、伊勢ひかりプロの画面を見せる。
「女子プロランキング二位の、伊勢プロですわね」
「この方も、まさか十六夜くんの戦闘スキルが使えるのですか?」
「伊勢プロは、俺みたいな魔力外部出力はしていないんですよ。システムとフレームコントロール、あとは内部の増幅に回しています」
「……うん、よくわかりませんわ」
「そりゃあそうでしょうとも。外から見てバレるようなヘマはしませんよ。そもそも、この使い方だって『セカンドスキル』っていう使い方で、俺の『ファーストスキル』よりも効率が良いんですから」
外に放出する場合、どうしてもロスが出る。
それをどこまで補えるかが、セッティングの見せ所なんだけどさ。
俺でも出力ゲージの34%はロスしているからね。
「そ、それでは、その方法を伝授して頂けますか?」
「いや、正直言って無理。だけど、セッティングは俺がある程度してあげますが、どうですか?」
「それでも構いませんわ。一流のプロチームですと、専属メカニックがいると聞きましたが」
「HONDA・マギウスとかロータス・アナライズのような世界的プロチームですと、メカニックはいますね。そういうところの人たちは、俺の知っているレベルよりも遥か高いスキル、サードスキルやフォーススキルが使えるはずですよ?」
サードスキルは、魔導騎士活動時のモーションキャンセラー。
ファーストスキルでは、人間のような動きに近くするために、素材に魔力で柔軟性を高めるんだけど。
セカンドスキルは、そのものズバリ『変形』が可能になる。
まあ、人型から飛行機型とかいうとんでも変形ができる機体は見たことがないが、それに近しいことはできる。
つまり、機体の自己回復。
これによりダメージが減少するんだけど、一般的には打たれ強くなった程度にしか見えない。
減ったゲージを回復させるなんて、非常識にも程があるから。
そしてフォーススキル。
これはパートナーと心も魔力も一体化して発動するもので、なんというか、愛の力で魔導騎士がフルバースト状態になる。
そうなるとダメージは受けないわ、機体の運動性能が著しく向上するわ、ダメージだって十倍近く跳ね上がる。
これを使っているのは、世界大会のイタリア代表チーム『ウラカン・ヴェネーロ』。
三人人チームのうち、男性一人に女性二人という、どこにでもある編成なんだけどさ。
実は、カップルで参加しているので、試合前も試合後もアツアツ状態。
もう一人は男性の妹だったので、やきもちもなく平穏だったのよ。
一昨年までは。
去年の世界大会では、妹さんが外国に嫁いだのでチームから一人、メンバーを追加したんだけど。
世界大会中に男性が浮気して、そりゃあもう、修羅場だったらしい。
チームメンバーで男性を取り合い、結果としてチームワークがバラバラのまま二回戦敗退。
愛の力には、代償がつきものなんだよ。
「サードスキル、フォーススキル……まだまだ先が遠いですわね」
「私たちでは、ファーストスキルも使えませんし」
「いや、セッティングは俺がするから、ファーストスキルは使えるようになる。実際、秋穂波先輩は、俺と戦ったことあるからな」
「負けましたけど……あれは、クセになりますわね」
そんな話をしている最中も、俺は秋穂波先輩と星野先輩の魔導騎士のセッティングを行う。
数値的セッティングの後には、機体の素材の調整。
市販されている修復用マテリアルの中でも、最も高価な銀を少しだけ使う。
本当ならミスリル銀を使ってあげたいんだけどさ、あれは全国大会以上のレギュレーションでないと許可されないんだよ。
ちなみにミスリル銀、すごく高価。
作れるのが十六夜の家系、すなわちゴーレムファクトリーだけなので、大会商品として『ミスリルの剣』などに加工して贈られるのが普通。
UAE代表チームの機体なんて、レギュレーションギリギリの『機体素材45%ミスリル銀』だから、とにかく高出力。
結果として制御できなくて敗退することの方が多いんだけど、それはそれで満足しているみたいだ。
「……よし。これで調整完了です。こっちが秋穂波先輩のマテリアルBOX、こっちは星野先輩のです。ステータスコードはロックしてありますので、外部からは見えなくなっていますので」
「徹底しているわね。でも、一目見て理解できるものなのかしら?」
「まあ、小学生でも理解できる子はいるでしょうね。ファーストはその程度なんですよ……」
さて、次は俺の機体の調整。、本当なら親父から受け継いだ『ブレイザー2』を使いたいところだけど、あれは高校公式戦だとレギュレーション違反になる。
親父がフルカスタマイズして使っていた機体なので、オリハルコンもミスリル軽合金も使っているからね。
なので、俺の普段使いの機体から、ミスリルを抽出してアルミ軽合金を組み込む。
──ゴトッ
「あら、それは?」
「ん?ミスリル軽合金。関節稼働部にメッキコーティングしてあったんだけど、公式戦ではレギュレーション違反になるから」
「なっ‼︎」
「これが本物のミスリルですの?」
うはぁ、飛びついた。
交代で触ってみては、感触を確かめている。
「でも、これがないということは、ブレイザーの運動性能も低下するということでわよね?」
「ファーストスキルの濫用はできないなぁ。コーティングしてあっても、試合後の調整が必要なのはわかるだろ?」
ファーストスキルを使うと、機体内部に魔力が浸透するため、魔導核に負荷が掛かってしまう。
そのため試合後には、マテリアルBOXなりパワーBOXで魔力の拡散を行わないとならない。
また、魔力が浸透した機体は若干硬度が変化し、脆くなったり硬くなりすぎたりする。
だから、ファーストスキルを外に放出するのは危険なんだよ。
内部に循環させて機動力を上げているプロは、どうやってそのあたりを回避しているのか知りたいぐらいだからね。
そんなこんなで全ての調整も終わり、生徒会室にバトルリングを展開してテストプレイも行なった。
明日からは第一体育館の隅っこを使う許可はもらっているので、実践訓練も始めることにしよう。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
夜。
誰かがこっそりと、生徒会室に侵入する。
目的は、棚の上に隠してあった『カメラ』を回収するため。
それを手に取ってモニターに再生すると、ちょうど生徒会室で銀河たちがトレーニングをしている映像が映っている。
そして少し巻き戻すと、銀河がファーストスキルを使うためのセッティングをしている動画が映し出された。
「……意味がわからんが……まあ、解析させれば済む話だ」
背中のディバックにカメラを放り込むと、その生徒は一目散に生徒会から出ていった。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




