第十九話・ブレイザーの秘密と、同好会と
『魔導騎士から始まる、現代のゴーレムマスター』は、毎週水曜日の更新です。
全く。
上手く乗せられたような気がする。
ブレイザーの奥義の一つ、魔導砲。
機体内部に蓄積されている魔力を圧縮し、レールガンのように飛ばす技。
簡単に説明しているけど、実際にこれを自在に使えている魔導騎士操縦者は、俺の知っている限りは一人だけ。
それも、世界大会三年連続出場、二連覇を果たしたアメリカ代表のキャロラインっていう女性のみ。
彼女が駆る魔導騎士、『ティーゲル』の主兵装の『20cm滑空砲』が、実は魔導砲ということは、殆ど知られていない。
彼女の場合、砲身内部のライフリングの溝に合わせて魔力をコーティングしてあるため、射出される砲弾が魔力を纏って飛んでいく。
実際にオプション兵装で同じようなことを考えていた人は多いけれど、誰も魔力をコーティングできなかった。
「さて、秋穂波……先輩か。そっちで見ていてくれや、設定から直さないとならないんだから」
「あら? 人に見られて困ることでもあるのかしら?」
「あるに決まっているだろうが。バトルコロシアム北海道大会までは、温存しておきたいんだよ」
「ふぅん……そういう事ですか。貴方も、あの面白くない魔導騎士部の部員だったのですね?」
おっと、秋穂波先輩の声のトーンが変わった。
なんもなく、負の感情が見え隠れしているなぁ。
「まさか。あんなくだらない部活なんて願い下げだよ。俺は、楽しくバトルがしたいだけで、あそこまで勝敗に厳しい部活なんてゴメン被る」
「ふぅん……でも、北海道予選大会に出場できるのは、各校の代表三名までですわよ? 団体戦、個人戦共に三名。その他補欠が二名。部活に参加していない貴方が、どうやって?」
「そこなんだよなぁ……と、ほら、こっちのメモリーカードに、秋穂波先輩のブランシュならデータが入っているから。それで、こっちが調整済みのブランシュだよ」
外見なんて変更する必要はない。
どれだけ、機体をうまく操れるか。
そして、どれだけ勇気があるか。
俺が差し出したブランシュを受け取ると、秋穂波先輩はマテリアルBOXからケーブルを伸ばし、ブランシュに接続する。
「ステータスチェックを行っても?」
「どうぞ。設定してフィニッシュ掛けてますから、何をどうしたかなんてわかりませんよ」
「そうなの? では遠慮なくいきますわ」
──ピッ……
マテリアルBOXのコンソールに、ブランシュの機体データが映し出される。
ブランシュ ブランシュⅡ
筋力レート: 75_____ 70
器用レート: 98_____ 70
反射レート: 85_____ 70
知覚レート: 80_____ 70
知力レート: 0______ 70
対Dレート: 40_____ 20
魔力レート: レベル2 レベル4
どこをどういじったのかわかるように、二つの機体の設定を並べて見ているようだが、秋穂波先輩の肩が震えている。
魔力レートは俺の方が二段上、これは設定できないから、仕方ないんだよなぁ。
「な、な、な、なんて勿体無い事を‼︎ ステータスボーナスの知力レートを70ポイントも残しているじゃないですか‼︎」
「あ〜、まあ、そんな感じ。でも、それで調整してあるよ?」
「……それにしても、ポイントがおかしいですわ。私のブランシュの機体ポイントと、貴方の設定では、貴方の方が8ポイントほど足りないのですが、それはどこに行ったのですか?」
「秘密。それじゃあ、フリーバトルのリングで実験して見たらいいさ」
「……なんとなく、納得いきませんけれど……」
『ピッ……ドライバーコード00021。リンクスタンバイをお願いします』
ちょうど、俺の予約呼び出しが掛かった。
それなら、笹錦おじさんには申し訳ないが、俺と先輩で遊ばせてもらうことにしますか。
「ほら、今の呼び出しが俺だから。行きますよ‼︎」
「わ、わかりました‼︎ 急がさないでください」
………
……
…
【魔導騎士マーギア・ギアセット。機体コードAT01ハルバード00021Mドール、ギアネーム・ブレイザー】
大型モニターに、ブレイザーと機体コードが表示される。
先程とは違い、この瞬間にザワザワと声が聞こえてくる。嘲笑じゃなく、どちらかというと噂話。
さっきのバトルを見た観客が、何か期待して集まり始めている。
「うーむ。さっきとは違う雰囲気があるなぁ」
制御用腕輪の接続調整を行いつつら秋穂波先輩の機体の呼び出しを待つ。
【魔導騎士マーギア・ギアセット。機体コードMD02478Fドール、ギアネーム・ブランシュ】
先輩の機体もスタートデッキに姿を表す。
これでバトルスタンバイはオッケー。
「……あそこまで設定が違いますと、操縦系統に大幅な調整が必要かと思いましたけど。それほどではありませんでしたわね」
「普段通りに戦っても、問題はないはずだ。それじゃあ、頑張ってくれよ」
「ええ。今度こそ、楽しませて貰いますわよ‼︎」
「「バトル、スタート‼︎」」
俺と紗香の掛け声と同時に、バトルリングが輝き、巨大なジオラマを形成する。
◾️◾️◾️◾️BATTLE START ■◾️◾️◾️
──ピッ
バトルリングのランダムステージ。
今回のバトルリングは【小島】。
周囲を海に囲まれた、森に覆われた島が今回のステージ。
「いやぁ、これは参った。まさかの島ステージか」
ぶっちゃけると、島ステージは足場が弱くて踏み込みが甘くなる。
それでも、条件は五分五分なので、まずは相手を探しに歩き回るしかない。
「……まあ、この試合は、ブランシュの性能テストのようなものだからなぁ。負けたくはないところだが、秋穂波先輩が納得してくれるなら、それもありか」
「甘いですわよ‼︎」
──ゴゥゥゥゥゥゥ‼︎
森に向かって歩き始めていると、後方からブランシュの反応が出た。
すぐさまブレイザーも振り返ると、海上をホバリングで突撃してくるブランシュの姿があった。
「な、なんだと?」
スカートに組み込んである『スチームホバーシステム』を自在に操り、バランスを崩す事なく突っ込んできた。
──ガギィィィィーン
そこから一直線に間合いをつめてくると、すぐさま右回し蹴りを打ち込んでくる‼︎
──ビジッ‼︎
その脚からは稲妻が発生し、両足が帯電している。
そのまま回し蹴りを繰り返し、とうとうブランシュ必殺の間合いに追い込まれた。
「こ!これが未知の領域ですの?」
「そういうこと。理屈がわかると、未知でもなんでもない。そして、俺は、まだ先輩にも教えていない部分があってね」
稲妻を纏った左回し蹴り、右後ろ回し蹴り、さらに着地しての右旋風脚と、次々と蹴り技が飛んでくる。
しかも蹴りの軌跡にも稲妻が走るので、かなり厄介な状態になっている。
「軽い、軽いですわ、どうしてここまで軽くなるのですか?」
「教えられない。けど、これは覚えておいた方がいい。魔導騎士で、皆が知っているのは全体の10%程度。そこから先を知り、身につけたものだけが、世界を目指すことができるってね」
これ以上のネタばらしは危険と判断。
このまま一気に勝負をつける。
「ここからの三分間は、観客へのサービスだ。秘密は、自分で解明しろよ‼︎」
──ブゥン‼︎
右手を軽く振る。
すると、その手の中に、炎によって形作られたハルバードが姿を表す。
──ウォォォォ‼︎
観客は騒然。
そりゃそうだ、物理兵装が当たり前の魔導騎士が、エネルギー兵器を公開したんだからな。
「……そうですの……私にも、わかりましたわ」
ペロッと唇を軽く舐めてから、ブランシュが高速でバックジャンプ‼︎
空中で姿勢制御を行うと、離れた距離から回し蹴りを撃ち込んできた‼︎
──バジバジバジバジッ
回し蹴りの軌跡が鞭のようにしなる。
脚から繰り出される電撃の鞭、それを左右巧みに使いながら、ブレイザーの表面装甲を削ろうとしたが。
──ブン!
その電撃の鞭を、ブレイザーは構えたハルバードを振り回して消滅させる。
「あと一分か。それじゃあ‼︎」
──ゴゥゥゥゥゥゥ
さらに炎のハルバードが燃え上がる。
それを横一閃に振り回すと、空中でうまく回避行動ができないブランシュの胸部に直撃した。
──ドゴォォォォォッ
その一撃で、勝敗は決した。
ブランシュのダメージゲージが一撃で振り切れ、ゲームオーバーとなる。
◾️◾️◾️◾️GAME OVER ■◾️◾️◾️
──ウォォォォォォォォ
喝采が響く。
勝負は俺の勝ちだけど、ここからが本当の勝負。
俺と先輩は急いで魔導騎士を回収すると、メンテナンスルームに駆け込んでいった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「早くマテリアルBOXに収めろ、解析を起動して、修正箇所をチェックしないで『フルボディ』の修復コマンドを起動させてくれ」
「ええ。ですが、修復素材を持ち合わせていませんわ……ショップで買ってきますわ」
「それじゃあ間に合わない。これを使っていいから」
バッグの中から、予備の修復素材を取り出して手渡す。
それをマテリアルBOXの素材をインストールするスリットに挿入すると、すぐさま修復が開始される。
「このあとは、どうすればいいのですか?」
「コンソールにデータメモリーを差し込んで、アップデート。上書きでいい」
「ええ……」
──カチッ
秋穂波先輩が、俺の指示通りにデータを更新する。
これで、さっきの俺の設定は上書きで消されるので、元のブランシュのデータに移行する。
「なっ‼︎ 騙しましたわね‼︎」
「騙すも何も、さっきのバトルで分かっただろう? 俺はチート行為はしていない。全てシステムの上の設定だって」
「……ひとつだけ、教えてくださる? さっきの機体の余剰ポイント、あれは魔導騎士ではなく制御用腕輪の感応値を上げたのですわね?」
正解。
装着者の魔力に、より感応しやすくなるように振り込んだだけ。
でも、それも普通では不可能で、知力レートを50以上、ステータスゲージの三つ以上を同じ数字にしなくてはならない。
さらに細かい条件はあるのだけど、俺でもまだ機体能力の65%しか理解していないからなぁ。
「まあ、俺が設定した画面は覚えているだろう? あとは応用だよ……頑張れ」
ニイッと笑って見せると、ようやく秋穂波先輩も笑ってくれた。
「完敗ですわね。また、私と勝負していただけますか?」
「恨みっこなしの勝負なら構わない。俺は、楽しくバトルがしたいからな」
──ビビビビッ
お、メンテナンス完了。
すぐさまケースを冷却モードに切り替えて、これで全ての工程は完了。
ブランシュも冷却モードになったので、これで作業は終わり。
「……十六夜くんといいましたわよね? バトルコロシアムの北海道予選、参加する方法がありますわよ」
ブランシュをマテリアルBOXに収めてから、秋穂波先輩が椅子に座って話を始める。
「.…部活に参加しないと無理ですよね?」
「ええ。ですので、バトルコロシアム公式ルールの追加条項を適応します。一つの高校に二つ以上の魔導騎士部が存在する場合、校内代表選により、代表を選出する….ご存知ありませんか?」
「知らない」
え?
そんなルールあるのか。
慌ててスマホでバトルコロシアム公式HPを確認すると、あったわ。
うちの高校以外にも、複数の魔導騎士部を有する高校はいくつもあるらしい。
校内でお互いに切磋琢磨し、より強い魔導騎士を選出できるようにするルールらしい。
「こんなルールがあるのか」
「ええ。表向きは、お互いに切磋琢磨するためと書かれていますけれど、実はある事情により追加された条項ですの」
「へぇ。それってどんな事情?」
少しだけ興味がある。
そう尋ねると、秋穂波先輩が、軽くため息をついて一言。
「イジメにより部活に参加できない生徒の救済ルール。また、部活内部での権力抗争、顧問のエゴによる代表のゴリ押し決定など、理不尽な仕打ちを受けた生徒のための『下剋上システム』というのが、本当の理由ですの」
──ゴクッ
思わず息を呑んだ。
そりゃあ、明らかに下剋上だわ。
追加条項の細かい部分によると、バトルシステムに組み込まれた『代表選コマンド』により下剋上システムが作動する。
そこに登録してバトルを行った場合、敗者は次の大会にはエントリーすることができなくなる。
そして勝者は自動的に高校代表となり、プレイヤーIDが大会運営委員会に転送される仕組みになっている。
「このルールを適用して、魔導騎士同好会を結成。正式に『代表選選抜試合』を宣言すると、たとえ顧問でも拒否することはできませんわ。生徒会長をやっていると、その辺りの細かいルールも把握し合いますので」
「そうか、俺が同好会を結成して、選抜試合を宣言すればいいのか」
道が見えた‼︎
これだ、このチャンスをものにするんだ。
「同好会のメンバーは最低でも三名。選抜試合登録者として必要ですわ。同好会結成の手続きは、私が代理で行っておきますので、あなたは残り一人を探してください」
「そうか、それじゃあ手続きはお願いして……なんで、あと一人?」
三名から登録なら、俺以外の二人じゃないか?
「貴方と、私。これで二名ですわよ?」
「はぁ? 秋穂波先輩も、同好会に入るのかよ」
「当然ですわ。さあ、あと一人ですわ‼︎」
はぁ。
まあ、それでも構わないか。
俺の調整したブランシュで、いきなり魔力放出できるようになっていたからなぁ。
あれは、調整だけではうまくできないんだよ。
ドライバーの腕というか、発想力を必要とするからなぁ。
やれやれ。
メンテナンスルームの外では、俺たちから技の秘密を聞き出したい連中がウロウロしているよ。
「それじゃあ、外の連中が煩そうだから、逃げますよ」
「え、ええ、わかりましたわ」
──ガシッ
秋穂波先輩の腕を掴むと、そのままバトルコロシアムセンターをスーパーダッシュで逃げる‼︎
この調子だと、もうここにくるのもきついよなぁ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




