第十七話・正統派とアウトローと
『魔導騎士から始まる、現代のゴーレムマスター』は、毎週水曜日の更新です。
いっけね〜、遅刻遅刻。
久しぶりに完徹した。
いや、親父が調整してくれた魔導騎士を、さらにパワーボックスでカスタマイズしていたら、すっかり朝になっていた。
おかげさまで、普通のタイプ・マテリアルと同じように動作するようにはなったんだが、実験しようにも相手がいない。
親父に頼むのもありと言えばありなんだが、なんだか小っ恥ずかしくて頼めるわけがない。
同じ理由でお袋も無理。
そうなると、学校でバトルの相手を探さないとならないんだけどなぁ。
──スパァァァァァン
「朝っぱらから、なにを呑気にしているの? もう8時回っているんだよ? どう見ても遅刻確定じゃないの」
「まあ、そういう日もある。というわけで、いってきます」
カバンとパワーボックスを持って、急ぎ学校へと向かう。
近所のバス停からのんびりと向かうので、まあ、大体一時間ぐらいで学校に到着。
すでに二時間目が始まっているので、堂々と教室に入り、昼休みには職員室で説教の流れである。
「はぁ。もう昼休みも終わるんじゃないか?」
急ぎ購買部でサンドイッチと缶コーヒーを買って、中庭で食べる。
特に仲のいいクラスメイトもいるわけではないので、のんびりとした時間を過ごす……。
──ドガガゴッ
俺の目の前では、魔導騎士が二台、辻バトルを行なっている最中である。
バトルリングがないので制御距離5m以内のフリーバトルであるが、双方熱い戦いを行なっていた。
「へぇ。マテリアルタイプの辻バトルとは、面白そうだなぁ」
………
……
…
「このバトルに勝ったら、俺と付き合え‼︎」
「お断りします。 それとは別に、勝負は受けますわ。秋穂波家の女性は、勝負から逃げることはありませんので」
いかにも不良っぽい男子生徒は、マテリアルケースからマッシブな魔導騎士を取り出してセットする。
かたや黒髪縦ロールのお嬢様風の女生徒は、これまた純白のドレスを身につけた機体を取り出してセットアップ。
◾️◾️◾️◾️BATTLE START《ですわ‼︎》◾️◾️◾️◾️
──ブゥン
筋力レートに比重を置いたマッシブな機体『アルティメット』が、お嬢様の『ブランシュ』に向かって駆けていく。
ドシンドシンという音が響きそうな鈍重な動きではあるが、バランスを崩すことなく一直線に駆け抜けていく。
「甘いですわ‼︎」
ブランシュはアルティメットの動きに合わせて、フェイントをかけるように左右にステップを踏むと、腰に下げているサーベルを引き抜いて身構える。
「甘いのは、あんただよっ‼︎」
──ガジィッ
アルティメットがいきなり加速すると、ブランシュの間合いに飛び込んで、右腕を叩き込んだ。
だが、サーベルを構えたまま両腕を交差して、アルティメットの右腕を受け止める。
「そうかしら? ただ突っ込んでくるだけの脳筋よりもマシですわよ」
そう呟いて、ブランシュはアルティメットの右腕を掴む。さらに軽くジャンプすると、両膝をアルティメットの腹部に突き刺すように叩き込んだ‼︎
──ドゴォッ‼︎
体をくの字に曲げながら、アルティメットがヨロヨロと後ろに下がる。
「こ、このアマぁ、下手に出ていれば調子こきやがって‼︎」
──ガン、バシュゥ‼︎
アルティメットの脚部が展開し、スラスターが現れる。そして水蒸気を噴き出しながら浮かび上がると、ホバリングでブランシュに接近‼︎
「なっ、スチームブーストユニットですって? それはたしか明日発売の追加パーツではないですの?」
「フラゲ《フライングゲット》するツテがあってね。悪いなお嬢さんよ‼︎」
そして加速からの体当たり。
ブランシュは交わしきれずにヨロヨロとよろめくが、アルティメットがその先を逃すはずがない。
──ガジィッ
ブランシュを力任せに肩に担ぐと、首と両足首を掴んで、鯖折り状態に力をこめていく。
──ミシッミシッ
ブランシュの機体からミシミシと音がする。
これが正式なバトルならば、ダメージゲージを振り切ってゲームオーバーになるところである。
だが、辻バトルの場合、機体が行動不能になるか、操縦者がギブアップした時点でしか決着がつかない。
「ああっ、ブランシュが‼︎」
「へっ、とっととギブアップして俺の女になれよ。そうしないと、この機体はへし折るからな‼︎」
多少のダメージ程度なら、マテリアルボックスかパワーボックスの中での修復は可能。
だが、体が真っ二つになったり腕や足が破壊された場合、修復は不可能となる。
魔導核が傷付かずに残っていたならば、メーカー修理である程度は修復する事も可能。ただし、かなりの時間と経費が掛かるため、それならば新品を購入した方が安い。
「くっ……」
「オラオラァ、とっとと諦めちまえよ‼︎」
──バギッ‼︎
ブランシュの両足首が砕ける。
そのまま首を掴んだまま振り上げると、アルティメットは地面に向かって鞭を打つかのようにブランシュを叩きこむ。
──ドゴォォォォォッ‼︎
「ひっ‼︎」
思わず顔を背けてしまうお嬢さまだが、アルティメットは背中から飛んできた何かに突き飛ばされ、吹き飛んでいく。
『まったく。辻バトルでもやり過ぎたって』
土煙がゆっくりと舞い落ちると、鉄山靠の構えで立ち止まっているブレイザーの姿があった。
──ガシッ
そして落ちてくるブランシュをお姫様抱っこで抱えると、お嬢さまのもとに飛んでいく。
「あ、ああ……私のブランシュ……」
ブレイザーからブランシュを受け取ると、お嬢さまはそっとブランシュを抱きしめる。
『ああ、足首程度なら、後で直してやるから待っていろ』
そうお嬢さまに話しかけると、ブレイザーは屈伸スタイルで体をほぐすと、ゆっくりと立ち上がるアルティメットの方に近寄っていく。
「え? いま、魔導騎士が喋っていましたよね?」
お嬢さまは、まるで夢を見ているかのようにブレイザーを見ている。
だが、決着がつきそうになったところを邪魔されたので、不良もテンションが上がりまくっている。
「テメェ、勝負に割り込むやじゃねーよ、ぶっ潰されてぇのか‼︎」
『それは悪かったが、決着がついているのに魔導騎士を破壊しようとしているのは、見過ごせなくてね』
ガシッと八極拳の構えを取ると、ブレイザーがアルティメットを睨みつける。
『来いよ、チート野郎』
「うるせぇ‼︎」
──ブン‼︎
不良がポケットからナイフを取り出すと、それを魔導騎士に放り投げる。
アルティメットはそれを受け取ると、ナイフを両手剣のように構えた。
「砕け散りやがれ‼︎」
『お前がな‼︎』
──ブゥン‼︎
右袈裟斬りで切りかかってくるアルティメットの右に抜けると、ブレイザーは体を捻ってアルティメットの腰に向かって掌底を叩き込んだ‼︎
──パン‼︎
その刹那、アルティメットが吹き飛び起動停止する。
◾️◾️◾️◾️GAME OVER 《ですわ》◾️◾️◾️◾️
「よし、ブレイザー、戻れ」
近くのベンチに腰掛けていた俺は、バトルを終えたブレイザーに命じた。
するとブレイザーもすぐに戻ってきたので、パワーボックスに格納した。
「テメェ、神聖なバトルの邪魔しやがって‼︎ この落とし前は、どうつけるってえんだ‼︎」
乱入された挙句、自分の魔導騎士が稼働停止状態になったのが気に入らなかったら不良が、銀河に掴みかかろうとして。
──パン‼︎
まるで先程のアルティメットのように、不良も銀河がはなった掌底を腹に受ける。
「グハァ……」
その場で悶絶して倒れる不良。
「魔導騎士操縦者同士のリアルバトルはご法度だろうが。そもそも辻バトルなんて、乱入されても文句なしの試合だろ? 負けたからってキレているんじゃねーよ」
まったく面倒くさい相手だわ。
それよりも、あのお嬢さんの魔導騎士を直さないとな。
「おい、そこの黒縦ロール、ブランシュを直してやるから貸せ」
「わ、私は黒縦ロールなんていう名前ではありませんわ。秋穂波紗香って言う名前がありますのよ」
「分かった、紗香、早く貸せ、昼休みが終わっちまうだろうが」
名前の呼び方で文句を言う紗香からブランシュを奪い取ると、壊れたパーツをくっつける。
「物質修復……」
──シュゥゥゥゥ
親父から継承したゴーレム魔法。
この程度の損傷なら一分もあれば修復できる。
だが、俺が修復しているのを、紗香も周りのギャラリーも呆然と見ている。
「え……それって、ゴーレム魔法っていうやつですわよね? 魔導騎士開発者しか使えない禁断の秘技ですわよね?」
あ、やっべ。
壊れた魔導騎士を見て、ついやっちまったわ。
親父とお袋からは、使うなとは言われてないけど注意しろとは言われていたんだよな。
「あ、ま、まあ、今のは見なかったことに‼︎ それじゃあアディオス‼︎」
慌ててブランシュを手渡すと、荷物を持ってスーパーダッシュ。
学校だからそんなに大ごとにはならないだろうけど、この魔法の秘密って、どこの国でも欲しいらしいからさ。
………
……
…
「な……なんですのあの方は、何年の誰ですの? どなたかご存知ありませんか?」
紗香は思わず叫ぶ。
子供の頃から大切にしていたブランシュを助けてくれただけではなく、悪漢から守ってくれた。
さらに壊れたブランシュを修理して立ち去るなんて、憎らしいことこの上ない。
「今年の新入生だよね?」
「ええ。確か、一年二組の十六夜銀河ですよ。俺は隣のクラスだけど、ゴーレムファクトリーの御曹司っていう事で有名ですよ?」
やはり魔導騎士の開発者の息子だったと、紗香は理解できた。
「わかりましたわ、ありがとうございます。十六夜銀河ですね、次にあったら覚えていなさい《お礼を伝えていませんから、ちゃんとお礼を言わないといけませんわね》」
心の声は、外には漏れていない。
そして周りの生徒に一礼して、紗香は教室へと戻っていった。
「覚えていらっしゃい‼︎」
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
放課後。
普通に授業を終えたのは良かったけれど、結局、魔導騎士部には入れなかったんだよなぁ。
「はぁ、魔導騎士同好会でも作るかなぁ」
そんなことを呟きながら教室から出ると、そこには魔導騎士部の顧問が待っていた。
「おお、十六夜か、待っていたぞ」
「あ、えーっと魔導騎士部の顧問の……曙先生。俺に何か用事ですか?」
「喜べ。我が魔導騎士部は、君を専属メカニックとして入部させてやろう。光栄に思いたまえ‼︎」
──ムッ‼︎
なんだ、この上から目線。
させてやろう?
しかもメカニックだって?
「ええっと、メカニックって、どういうことですか?」
「いやぁ、君がゴーレムファクトリーの社長の息子だっていってくれれば、最初から君はメカニックとして受け入れていたよ。なぜ、昨日はそう話さなかったんだ?」
「……俺の家のことを調べて、それだけで入れようとする部活に入りたくなかったもので。この高校の魔導騎士部は、実力主義でそういう権威的なものとは無縁と思っていましたからね」
「そうかそうか。まあ、お前の腕でも、対抗試合程度なら出してやらなくもない。それよりも、メカニックだよ。昼休みの話は聞いたぞ」
──ピシッ‼︎
うん、堪忍袋の緒が切れそうだわ。
俺の一番嫌いなタイプが、目の前にいる。
しかも、俺を利用しようとしているのが、目に見えてわかるわ。
「昼休みですか? 何かありましたか?」
「生徒会長の秋穂波くんを、古臭い魔導騎士で不良から守ったそうじゃないか。しかも、彼女の破損した魔導騎士を、その場で補修したそうだな」
「……はぁ」
「その魔法の腕があれば、我が校の魔導騎士部の機体全てをカスタマイズできるじゃないか、これで今年の優勝は間違いない、念願の全国大会だ‼︎」
──プチッ
あ、切れたわ、
「俺は、ここの高校の魔導騎士部には入りませんので。昨日、実力で負けましたからね」
「だ、か、ら、メカニックだよ。古臭い魔導騎士で負けたからって気にするな、君には世界一のメカニックとしての才能があるじゃないか」
「お断りします。俺は選手で世界一を目指しているのであって、メカニックとして名をあげる気はありませんので、では失礼します」
そう告げて、曙先生の横を通り過ぎようとしたんだけどさ。
──ガシッ
ほら、肩を掴まれたよ。
「き、貴様は何様だ‼︎ この全国一位を取ったことのある俺の命令を断るというのか?」
「何様も何も、俺は俺ですから。なんで俺が、ロートル選手の命令を聞かないとならないんですか」
アホらしい。
肩の手を振り落として、歩き始めたら。
「そ、それなら勝負だ‼︎ 俺が勝ったら、お前が卒業するまでの三年間、我が校のメカニックとして働け‼︎」
「俺が勝ったら?」
「我が校の正式メンバーとして迎え入れてやる‼︎」
「もういいわ。勝っても負けても、あんたの下で動かないとならないんじゃねーかよ……断る‼︎」
ここで『よし分かった‼︎ それなら勝負だ‼︎』なんて叫んでさ、勝負を受けるほど甘くはないよ。
勝っても負けても、俺にはメリットが無いんだから、無視に限るわ。
「き、きっさまぁぁあ。必ず貴様を、俺のチームのメカニックにするからな‼︎」
はいはい。
後ろで叫んでいるけど、一切合切無視に決まっているだろ。
さて……やっちまった感、満載だなぁ。
余計なフラグを建てまくったような気がするよなぁ。
これから、どうするかなぁ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。




