第十六話・お約束の法則と、人は言う
『魔導騎士から始まる、現代のゴーレムマスター』は、毎週水曜日十時の更新です。
魔導騎士。
とあるゴーレムマスターが作り出した、魔導機関によって動くゴーレムの通称。
もっとも、これを作り出すことができるのは、国内でも僅か三人のみ。
北海道の札幌市が発祥の『ゴーレムファクトリー』という小さな企業から始まった魔導騎士は、瞬く間に国内に浸透。
発売から四年後には、全国大会まで開催されるほどの一大ブームとなった。
そして需要と供給のバランスが崩壊したため、ゴーレムファクトリーは急遽、日本のホビーメーカー『ツクダサーガ』と独占契約。大手企業との契約によりゴーレムファクトリーの量産スタイルはさらなる加速を開始。
七年目には、世界大会まで行われる規模となった。
同時に、ゴーレムファクトリー製の最新型エネルギーシステム『エーテルドライバー』は、大容量出力はないものの、テレビや洗濯機などの家電製品に組み込むことにより、電気代が大幅に節約。
エネルギー問題に悩まされていた日本の、いや、世界中の注目を集めることになった。
だが、エーテルドライバーが軍事利用されることを恐れ、急遽ゴーレムファクトリーでも生産は中止。
現在は魔導騎士メーカーとして、ゴーレムファクトリーは世界的なホビーメーカーとなったのである。
そして魔導騎士が世界中に浸透し、世界大会が行われた翌年。
毎年、各国の代表選手が集まり行われる『世界魔導騎士闘技場。
今年の開催国は日本となり、十二月十五日に、第六回世界大会が行われる。
………
……
…
魔導騎士発祥国でありながら、日本は毎年一次予選敗退という結果しか生み出していない。
そして五年前から、日本の高校生による魔導騎士バトルトーナメントを開催。
各都道府県予選を勝ち抜いた、全国四十九の高校生によるバトルトーナメント、この優勝者は世界魔導騎士闘技場の代表選手の一人として、世界大会に参加することができる。
この国内代表枠を手に入れるため、各校でも魔導騎士選手の育成に力を入れ始めた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
入学式も無事に終わり、新入生用のオリエンテーリングが始まる。
まあ、校内の施設や設備案内、クラブ活動の紹介など、だいたいどこの高校でも同じようなことをしている。
俺としては、この学校の魔導騎士部に入部して、世界大会を目指すところなんだけどさぁ……。
──ブゥゥゥゥウン
『バトルシステム、スタート』
巨大な体育館の中には、最新型バトルシステム『グラディエート』が四台も設置されている。
グラディエートは直径五メートルの円型バトルリング。高さ五メートルまでの対物理フィールドを形成し、外部に一切のダメージが漏れることはない。
そして目の前のリングでは、四人の新入部希望者がバトルロイヤルを行なっているところである。
「我が北広島西高等学校魔導騎士部は、今年こそ全国制覇を狙っているのでね。リングが4つしかない以上、入部希望者は限定しなくてはならないのだよ」
そう説明しているのは、部活の顧問である曙涼馬教員。
なんでも、元は玩具メーカーバンライズの開発部所属だったらしいが、個人で魔導騎士の社会人バトルトーナメントに参戦、優勝経験を持つらしい。
その腕を見込まれて部活の顧問として数年前にやってきたらしいが、彼が顧問になってからは、北海道予選を突破した記録はない。
「……入部テストは四人同時のバトルロイヤルですか。それで、何名が入部できるのですか?」
「一名だな。まあ、落ちたやつは二軍として入部できるが、その枠も十名だ。つまり、新入部希望者十二名のうち、十一名が入部を認められることになる」
「はぁ。凄いなあ」
「ほら、次は第二グループの試験だ。君も入部希望だろ?」
曙先生が俺たちを見て笑う。
そして奥のリングでは、一軍と呼ばれている先輩たちの練習試合が終わり、休憩に入るらしい。
「へぇ、今年の新入部員は、なかなかいいカスタマイズしているな」
「これはうかうかしていられないですね。あの子は新型のマテリアルシリーズですね?」
「まあ、今の時代、自分なりのカスタマイズができないと上位を狙えないからなぁ」
「ただ楽しく遊ぶだけの部員は必要ないからね」
にこやかに話しながら、先輩たちはスタンドに座って一休み。
まるでスポ根系テンプレートを実体化したような先輩たちで、実に楽しそうである。
「なあ、今はリングが全部開いているんだから、バトルロイヤルじゃなく二人ずつの試合でいいんじゃないか?」
俺が試合するのは第二グループの四名で、この後に第三グループも始まるのなら、時間節約で今やれば良いんじゃないか?
そう思って進言したんだけどさ。
「君は、新入部員のくせに常識を知らないのか? 奥の二つはメインメンバー用で、隣はサブメンバー用と決まっている。そのために最新型のリングを部費で購入したのだよ?」
「ほら、そこでちゃっちゃと試合してこい……って、お前の機体、まさかとは思うが、オールインワンか?」
一人の先輩が、俺が持っている魔導騎士に気が付いたらしい。
たしかに、現在の主力タイプは『マテリアルシリーズ』を用いたフルカスタマイズ騎が一般的であって、オールインワンは子供のおもちゃか体験用としてしか需要がない。
発売当初、つまり俺の生まれる前とかは、オールインワンもそこそこに人気があったらしいんだけど、今じゃ国内販売数の1%以下の流通だからね。
「はあ、俺のはたしかにオールインワンですが」
「マジかよ、お前、高校生にもなってカスタマイズもできないのかよ?」
──ムッ‼︎
なんだよ、カスタマイズできないんじゃなくて、やらせてもらえないんだよ。
「メンテナンストと調整用のマテリアルケースはあります。それでも、問題はないと思いますが? 入部条件にオールインワンは不可って書いてますか?」
「あのなぁ、新入生の君は知らないのかもしれないけど、今の全国大会や社会人大会では、オールインワンなんて使っている人はいないんだよ?」
「それに、その機体だってマテリアルシリーズじゃない機体を無理やりカスタマイズしたんだろ? ロットナンバーは?」
そう聞かれると、ちょっと辛い。
こいつのロットナンバーは。
「魔導騎士、ファーストステージ、タイプ1。機体コード・ハルバードです」
「プッ。おいおい、ガキじゃないんだからさ、自分の設定したような名前をつけるのは辞めたまえよ」
「ファストステージのタイプ1は、ソードマスターではなかったか? そもそも、魔導騎士シリーズにはハルバードという機体は存在しないぞ?」
「はぁ。そうでしょうね、そうでしょうとも。俺も、中学校の時は散々、同じことを言われてましたから」
思わずため息をついてしまうよ。
公式戦に参加できるのは、正式な機体コードを持つもののみって言われまくって、調べもしないで参加不可になったことが何度もあるんだよ。
「まあ、君がそこまで言うのなら、リングに乗せて契約したまえ、非公式機ならば、契約できないはずだからな」
「……そこから違うんだよなぁ。まあ、いいや」
肩を落としつつ、俺はバトルリングに近寄る。
他の選手も機体をリングに入れてから、手のひらを伸ばして機体と契約しているんだけどさ。
「目覚めよ‼︎」
──ブン‼︎
俺の掛け声と同時に、ハルバード・ブレイザーの瞳が輝く。
「な、なんだと? どうして動くんだ、先生、あの機体は公式機なのですか?」
「待て待て、何か裏技があるに違いない……」
慌てる先輩たちを宥めるように話しながら、曙先生がクリアパットで俺の機体コードを調べている。
『ピッ……機体ロットT01・タイプハルバード。公式戦使用可能機です』
その表示を見て、曙先生が頭をボリボリと掻いている。まあ、無理もないよなぁ。
「たしかに公式戦使用可能機だな。ナンバーから察するに、Tナンバー機か。噂程度には聞いたことがあるが、確か初期テストロットってやつだな……実在したのか」
「初期テストロット? なんですか、それは?」
女子先輩が、曙先生に問いかけている。
すると、別の先輩がスマホで調べていた。
「ははぁ、なるほど。初期テストロットは、開発時期に使用されていた体験会専用機ですね。現行主流機のマテリアルタイプとは異なり、出力係数などの調整ができなくて、結果として販売ロットから外されているという噂の機体ですが……」
「問題は、それが何故、彼が持っているかですよ。コレクターに売ったら、一千万円一括で払うって言う人もいると思いますよ?」
「謎の機体……欲しいですわ、私のコレクションに加えたいですわ」
なんだか外野が煩いから、とっとと試合を始めますか。俺としても、最新型の公式バトルリングなんて使うのは初めてだから、ワクワクするよね。
──バトルシステム、カウントダウン……
やがて、バトルシステムがカウントダウンを開始する。
そしてはじめての公式戦なので、遠慮はいらない全力でやらせてもらう‼︎
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「親父ぃぃぃぃぃ、負けたぞ、なんで勝てないんだよ‼︎」
部活の入部テストの結果は、俺が惨敗して負けました、俺だけ入部できませんでしたが何か?
それよりも、ハルバード・ブレイザーがまともに動かなかったんだよ。
「ん? なんで負けたかって、お前が弱いからだろうが?」
「ちっがうから。ブレイザーが満足に動かなかったんだよ。めっちゃ動作が緩慢で、他の機体の攻撃を躱せなかったんだよ」
「……高校の部活の入部テスト?」
「そうだよ、俺の学校のテストだよ」
「お前の学校の……ああ、どのタイプのバトルリングでやった?」
そう聞かれたから、素直に説明したよ。
五年前の量産型バトルシステムだって。
「……お前、試合前のリングとの接続したか?」
「接続?」
そういえば、していなかったなぁ。
魔導騎士の新型機や現行機は、リングに入れてから契約するシステムになっている。
実は市販機であるマテリアルシリーズは、ファストカスタマイズ時に、自動的にユーザー登録がされるようになっている。
つまり、昔の体験会で行っていた『契約』によるユーザー登録はない。
その代わり、バトルリングと接続するためのコマンドとして『契約』という掛け声による声紋認証が組み込まれている。
「……俺は、前に説明したよな? ブレイザーはお前と完全同期しているから、安全装置代わりにリミッターが入るっているって」
「あ……リミッターカットするの、忘れていたわ。でもよ、なんで俺はマテリアルシリーズを使わせてもらえないんだ?」
「何故って、お前、怪我するから。ちっさい時、散々怪我しただろうが」
そう言われると、たしかに小さい頃はマテリアルで遊んで怪我していたなぁ。
危ないからってマテリアルシリーズは取り上げられて、親父が昔使っていたハルバードを貰ったの忘れていたわ。
「そ、そういえばそうだったわ。それで、今もまだ、マテリアルの使用は禁止なのか?」
「当然。その代わりハルバードの調整をしてやるから貸せ」
やれやれ。
凡ミスで入部できなかったのかよ。
はぁ、明日からどうしようかな。
もう一度、入部テストを受けさせてもらいたくても、次来る時はマテリアルシリーズじゃないとダメだって言われたからなぁ。
オールインワンは弱いって、今日、俺が証明したようなものだからなぁ。
はぁ、世界一、どうしょうかな。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。




