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魔導騎士から始まる、現代のゴーレムマスター  作者: 呑兵衛和尚
第一章・魔導騎士(マーギア・ギア)は夢を見る

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第十三話・顛末と可能性と

『魔導騎士から始まる、現代のゴーレムマスター』は不定期更新です。

 山田錦弥は焦っていた。


 目をつけていた魔導騎士(マーギア・ギア)が手に入らないどころか、越伊吹常務に最後通牒を叩きつけられたのである。

 あそこで見栄を切って、『一週間以内』などと言わなければ、こんなことにはならなかった。

 だが、山田はそんなことは考えない。


「くそっ‼︎ 亀尾がしっかりとやってくれれば、俺が自分で来ることなどなかったのだ。伊勢といい亀尾といい、全く使い物にならないどころか、俺の足を引きやがって……」


 八つ当たりも良いところであるが、彼に言わせると『何もかも、周りが悪い』であり、『俺のために動かない奴は無能』という考えが頭の中をよぎっている。

 それ故に、ここまで追い込まれた結果、冷静な判断力がなくなっている。


「……ここが、ゴーレムファクトリーか」


 インターネットで見た、ゴーレムファクトリーの住所を頼りにやって来たのだが、自宅兼事務所らしい建物の門柱には、メッセージが貼り付けてある。


『全国ツアーのため、五月二日から臨時休業です。御用の方は、以下の番号にご連絡下さい』


「なるほどなぁ、留守かぁ、それは残念だ」


 山田の顔が、歪な笑みを浮かべる。

 このチャンスをみすみす捨てるわけにはいかない。

 山田は一旦その場を離れると、日が暮れるのをじっと待っていた。


………

……


 深夜。

 山田は周囲の人の気配を確認してから、ゴーレムファクトリーのある十六夜宅の敷地内に侵入した。

 夕方にもう一度訪ねてきた『ようなそぶり』をして、十六夜宅を周りから調べていたのである。

 その結果、とある警備会社と契約していることは分かったのだが、山田にしてみると、隙がありすぎて笑いが止まらなくなっていた。

 この手の住宅にある『警備の隙』をついて、山田はこっそりと十六夜宅に侵入する。


 そこからは、とにかく素早く事務所である部屋まで潜り込むと、ペンライトを頼りに物色を始める。


魔導騎士(マーギア・ギア)でもいい、社印でも構わん、とっとと盗み出して、契約書さえ作って仕舞えば」


 そう呟く山田錦弥。

 机には鍵がかかっていて開くことができない。

 金庫はあったが、当然開くことができない。


「チッ。本社から何名か応援を呼んでおけばよかったか……札幌支社の責任者は俺と敵対しているから、この手の仕事はやりたくないだろうし、手伝うはずがないからなぁ」


 戸棚やロッカーを漁りまくり、なんでも良いから開発に関するものがないか探しまくる。


──シュンッ

 だが、突然何かが動いたかと思うと、全身が麻痺したように動かなくなり、意識がスッと消えていった。


『……侵入者確認。データ登録なし、通報します』


 全長30cmの魔導騎士(マーギア・ギア)は、すぐに電話で警備会社に連絡する。

 その15分後には、警備会社と警察が十六夜宅にやってきて、室内で気絶していた山田錦弥が住居不法侵入で現行犯逮捕されることとなる。


 その光景を、留守番用に作られた魔導騎士(マーギア・ギア)型サポートゴーレム『朧月』は、棚の上でじっと確認していた。


『ピッ……安全の確保完了。引き続き、監視モードを始めます』


………

……


 東京・ツクダサーガ。

 営業として入社した亀尾は、出社直後に上司である五百万石に話しかけられていた。


「よお、朝のニュース見たか?」

「いえ、何かあったのですか?」

「バンライズの山田錦弥開発部長が住居不法侵入で現行犯逮捕だとよ。事務所荒らしの件もあるらしいから、おしまいだな」

「へぇ……」


 おもわずスマホでニュースを確認すると、たしかに山田錦弥が現行犯逮捕されたニュースがあちこちに掲載されていた。

 この件については、バンライズが今日の午後にも記者会見するらしく、亀尾もようやく肩の荷が降りた気持ちであった。


「ん? 亀尾、なんで泣いているんだ?」

「え、俺、泣いてますか?」


 亀尾は気づいていない。

 笑顔でニュースを見ていたはずなのに、ようやく山田の呪縛から逃れることができたと、心から安堵していることに。


「ま、まあ、お前がバンライズで色々とあったことは知っているからなぁ。しかし、よりにもよってあの会社に忍び込むとは、アホ以外の何者でもないわな」

「俺もそう思います。まあ、今までの悪行のツケを支払ったと思えば」


 そう告げてから、亀尾も覚悟を決めた。

 山田錦弥が捕まったということは、彼がゴーレムファクトリーの体験会から魔導騎士(マーギア・ギア)を盗み出したことも発覚する。


「覚悟を決めろ……ですよね」


 そう呟くと、亀尾は自分の席に戻る。

 これからのことを、もう一度、考え直さないとならないけら。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「……よし、札幌に逆戻りだ」

「まじかぁ……」

「まだ大洗に着いたばかりなのに、この状況は許し難し‼︎」


 苫小牧発のフェリーで大洗に着いたばかりなのに、昨晩にきた北海道警察からの電話で引き返すことになるとは、俺も予想してねーよ。

 しかも、いきなりの事務所荒らしだよ、犯人は関係者だって叫んでいるらしいけど、名前を聞いても知らないやつだったよ。

 

「しかし、本当にアホやったか。あの山田錦弥いう男は、とことんまでグズやったということやな」

「確か、伊勢さんの前の仕事場の上司の方でしたよね?」

「あんなん上司ちゃうわ。パワハラモラハラの塊が、開発部長っていう看板背負っていただけや。これで首も確定やし、ざまあ味噌漬けぶぶ漬け喰らえや」


 なんだか、伊勢さんもせいせいしたような顔しているし、一旦戻るのは俺だけにしておくか。


「そんじゃあ、このまま小町と伊勢さん、綾姫はスケジュール通りに大洗での体験会イベントを取り仕切ってくれるか? 俺は飛行機で戻ってから、まだ来るから」

「でも、何度も同じようなことで呼び出される可能性もあるよね? 対策はあるの?」

「その対策を置いてきたから、今回は未然に防げたんだけどね」


 そう説明すると、三人とも納得してくれた。

 留守番用に作ったサポートゴーレムの『朧月』に留守番というか監視を任せてきたんだけど、彼に人間大の体を作ってきたら良いんだからね。


 それじゃあ、戻るとしますか。


………

……


「はい、面識がありません。赤の他人です、そんな人に留守番なんて任せられません。逮捕してください、訴えます」


 警察にきて事情聴取を受けたのち、被害届を出す。

 相手の顔なんて見たこともないし、そもそも住居侵入の現行犯なのだから、情状酌量の余地などない。

 伊勢さんから、山田錦弥という男のやり口は全て聞いていたから、このあとは直接バンライズにもクレームの電話を入れることにした。



「さて、朧月、ご苦労さん。まさか作った翌日に仕事になるとはおもわなかったから……お前に、新しい身体を作ってやるから、待っていろよ」


 棚の上でコトコトと踊っている朧月に話しかけてから、俺は魔法陣を起動する。


「魔法陣起動、接続(コネクション)……」


──ピンポーン

 そのまま新しい素体を組み上げた時、玄関のインターホンが鳴り響いた。


「よう、ニュースを見てきたよ。被害は?」

「なんだ、伊達か、ありがとうな……まあ、散らかってるけど入れよ」


 そのまま事務室まで通すと、伊達は魔法陣の中でゆっくりと人型を作っているミスリルを見て、立ち止まってしまう。


「な、な、な……ありがとう十六夜。俺のために、美少女型ゴーレムを作ってくれるのか」

「アホか。これは事務用兼ガードマンだよ。男性型だ、俺が留守の間を守ってもらうために作っているんだよ」

「……反対だ。男性型なんて納得がいかない。ここは美少女型もしくはクールビューティなお姉様系ゴーレムだろう?」


 今にも血涙を流しそうな勢いで、伊達が叫ぶ。


「あのなぁ……これで美少女型とか女性型なんて作ったら、うちの事務所は女性ばかりじゃないか?」

「ボーイッシュなこまっちゃん、美少女型の綾姫さんときたなら、次はクールビューティかのじゃロリ系と相場が決まっているだろうが‼︎」

「叫ぶなうるさいわ‼︎」


 全く。

 外見はこれからなんだから、黙っていろって。


「はぁ。男のロマンを理解できないやつだな。まあいい、お茶‼︎ 部屋の片付けを手伝ってやるから」

「うちの流しぐらい把握しているだろうが、自分で入れろよ」


 全く。

 俺も飲みたいから、入れてやるけど。


………

……


 十六夜はキッチンだな。

 しかし、このゴーレムだって、男型のむっさいのよりも、かわいい女性型が良いに決まっているだろうが。


「いいか、君は美人になるんだ、男型なんてなったとしても、男である十六夜は喜ばないからな、いいな、美少女型もしくはクールビューティだからなフベシッ」


──スパァァァァァン

 手元にあった雑誌で、思いっきり伊達の頭を殴ったわ。

 俺が席を外しているうちに、何を吹き込んでいるんだよ、お前は。


「アホか。ほら、コーヒー淹れてきたから飲め」

「サンキュー。さて、それじゃあ作業を始めるか。いつ戻るんだ?」

「今日の最終で宮城まで移動する。そこからは南下する予定だ」

「そうか、たまに様子見に来るから、安心して行ってこい」


 そんなことを話しているうちに、素体が組み上がった。

 マネキン型の素体で、これから朧月の魔導核を組み込み直すことになる。


「さて、それじゃあ魔導核の移植……|融合化《フュージョン……よし。朧月、目覚めよ(ウェイクアップ)


──ビィィン

 小さな金属音が鳴り響くと、朧月は静かに瞳を開く。


「これから人型のカバー処理をするからな」

「了解です。私は、クールビューティのタイプにしていただけると嬉しいです」

「伊達ぇぇぇぇぇ、お前、何を吹き込んだ‼︎」

「な、何も……」

「伊達さまは、私が女性型だとマスターが喜ぶと申しておりました」


──スパァァァァァン

 もう一発殴る。

 でも、伊達は幸せそうな笑顔である。


「チッ……朧月、本当に女性型が良いのか?」

「むっさい男はダメと聞きました。お願いします」

「……はぁ。了解だ、変形(トランス)……」


 ここからはテクニカルな作業。、 ゆっくりと素体を女性型に組み替え、人工皮膚を施してから髪の毛を移植する。

 この髪の毛も、向こうの世界から持ち帰った魔物の素材だけど、人毛のように自然な艶と肌触りが評判である。

 そして昼までには作業を終えると、俺と伊達、朧っての三人で片付けを終わらせることにした。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「……ていうことがあってよ、伊達の策略に騙されて女性型ゴーレムを留守番用に仕上げてきたよ」

「おつかれさま。こっちは何事もなく順調に終わったわよ」

「明日が二日目です。こちらが担当の方の名刺でして、明日も午前9時までに特設会場に来てほしいとのことです」


 担当の名刺を受け取って、明日のスタンバイを始める。

 俺が宿に到着した時点で、もう物質修復(レストレーション)でオールインワンタイプのチェックは終わらせてあったけど、バトルシステムの方は俺じゃないとわからないだろうからさ。


「あと、今日、販売して欲しいっていう方が殺到していましたけど、全てお断りしてあります。予約も受け付けていないと説明すると、ご理解いただけました」

「まあ、一部はご理解していなかったけどね」

「まだ量産化までは終わってないからなぁ。その辺りは、キャラバンが終わってからだよ」


 明日も早い。

 とっとと作業を終わらせて、体を休めることにしよう。

 やらないとならないことが、多すぎるんだよ。

 

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。


この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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