第十二話・正式発表と、進退と
『魔導騎士から始まる、現代のゴーレムマスター』は不定期更新です。
絶望感。
亀尾が体験したのは、その一言だけである。
全て、山田部長の命令でやったことであるにも関わらず、彼は、無慈悲に斬り捨てられる。
頼みの綱である、かつての同僚に助けを求めたのだが、それもあっさりと切り捨てられる。
彼がやったことは犯罪行為、そうするように指示をした山田部長が憎かった。
なんで、俺だけがこんな目に遭わないとならないんだ。
どうして、あいつは成功したんだ。
俺のどこが悪かったのか、そう考えても頭の中は堂々巡り。
「……あ、亀尾くん、君、来週から北海道に転勤ね。もう本社では必要ないから」
魔導騎士を手に入れるための最後のツテである伊勢に断られた一時間後には、亀尾はアッサリと切り捨てられる。
「え、俺が、何かミスしましたか?」
「いや、北海道の営業が辞めたらしくてね。腕利きの営業が欲しいとかで、君に白羽の矢が立ったのだよ。大丈夫、栄転の予定だし、君はまだ独身だから大丈夫だよね? 五月一日からの勤務になるからよろしく頼むよ」
笑いながら、山田部長が俺に告げる。
そうだよ、この人はいつもそうだよ。
自分の不利になるものは近くに置いておかない。
俺を北海道に飛ばす理由だって、俺が本社に戻るために魔導騎士を手に入れる可能性があるからだろう?
いいですよ。
もう、あなたの指示には一切従いませんので。
この日、亀尾は退職した。
その一ヶ月後には、亀尾は山田部長の不正の証拠を手土産にツクダサーガに入社するが、その話はまたいずれ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
四月中旬。
津軽に頼んだパイロット版のアニメ動画が完成した。
画面の中で、主人公の少年が魔導騎士の封印されている水晶を発見し、それを目覚めさせるというストーリー。
素体用のCM映像であり、オールインワン用のCMはこれから作るらしい。
それでも、パイロット版だというけれど、どう見ても完成版としか思えないのだが。
ゴーレムファクトリーの事務所で試写会をやってみたけど、あまりの出来の良さに皆、言葉を失ってしまう。
「社長、これ、このままでいけるとちゃうか?」
「すごく出来がいいね。さすがは津軽くんだよ」
「ほほう、俺に惚れ直したかな、小町殿」
「惚れたこともないから大丈夫だよ、安心して諦めてね」
「あっさりと切り捨てられましたなぁ。しかも峰打ちではなく真剣で」
「……なあ津軽、これがパイロット版な理由は?」
盛り上がだているところで、津軽に質問する。
これを完成品だって出してこない理由がわからないんだよ。
「いや、完成品にするには、なんか、もう一工夫いけそうなんだけどさ、そのもう一工夫がわからんのだが」
「声じゃね?」
「それだ‼︎」
伊達のひとこと。
そうだよ、たしかにアニメなので声優を当てているかと思ったけど、プロ声優の声じゃないんだよ。
「え? この声って声優さんじゃないの?」
「知り合いの声優志望者に頼んだんだよ。ちゃんとギャラを払ってね。最後のクレジットには声優名もちゃんと出す条件で」
「……なら、これでいい。折角、こうして縁ができたんだから、これからも頑張ってもらえばいいんじゃないか?」
「了解。なら、これは完成版として納品するわ。オールインワンバージョンは、一週間後に完成させるので」
津軽、恐ろしい子‼︎
「そんじゃ、魔導騎士のお披露目の日程も組めるな。いつにするんや、社長‼︎」
そりゃあ、夏前の計画を前倒しにするよ。
今が旬というわけじゃないけど、鉄は熱いうちに打てってね。
「五月一日の正午に、インターネットに発表する。動画と詳細スペックを公開して、発売日は八月に設定する。五月からは宣伝も兼ねての体験会を始めるよ、全国ツアーでね」
「移動用のトレーラーとかはどうするんや?」
「必要ない。俺は普通免許しかないから、トレーラーは運転できないんだよ。だから、ハイエースで移動するし、荷物は全部、空間収納に収めて持っていくからさ」
手ぶらで移動して、現地で会場を見つけてイベント形式で体験会を始める。
今までは公園でやっていたけど、ショッピングモールの一角とか駐車場を借りることができたら、そこそこに人は集まると思う。
「なるほどなぁ。そのツアーやけど、細かい日程が決まったら教えてや。行き先から適切な会場を探し出して交渉するから」
「そこは伊勢の仕事だから任せるよ。できれば日本全国津々浦々を回りたいからさ」
「当然、出張手当もつくんやろ?」
「規約通り……って、なんで伊勢と津軽は土下座?」
ふと気がつくと、二人とも目の前で土下座しているんだが。
「なあ十六夜、俺たちを雇わないか?」
「なんでも仕事するからよ」
うーむ。
仕事といっても、開発は俺と小町で十分だし。
商品管理は綾姫に頼んであるから問題ない。
営業は伊勢さんがいるからなぁ。
「アピールポイントは?」
「アピール……宣伝用動画を作れるが」
「俺は、雑用なら」
「宣伝用動画っていってもよ、社員になったら給料が安くなるから、それなら津軽が動画制作スタジオを作って、うちと提携すれば良いんじゃないか?」
そう提案すると、二人とも、目を丸くして俺を見る。
「た、たしかに。今回の動画だって、コストはそんなに掛かっていない。人件費と素材集めの予算だけだからな。十六夜、その提案に乗るわ」
「よろしく。それで、伊達の処遇は?」
「うちで引き取る」
「いや、俺は美少女が近くにいないと呼吸が止まる」
「うるせえ、黙ってうちで働け‼︎」
津軽と伊達のやりとりが始まったけど、それは敢えて無視。
俺は受け取った動画を見ながら、宣伝用の新しいパンフレットのイメージを考え……るのをやめた。
「津軽、さっそくだけどパンフレットの制作依頼を頼みたい。うちの魔導騎士の宣伝用で、8ページフルカラー。写真その他資料は随時提供するから、頼めるか?」
「見積もりを出しておく。期間は?」
「五月一日の公開までに納品、いけるか?」
流石に一ヶ月を切ってるから、無理なのはわかっている。だから、何月ぐらいまでかかるか知りたかったんだが。
「印刷は一週間でどうとでもなる。今から印刷屋を抑えるから問題はない。版下その他を制作する時間が二週間と考えて……明日までに見積もりを出すから、資料をまとめておいてくれ」
「……え? まじでできるのか?」
「印刷屋にはつてがある、伊達が」
「あ〜、俺の使っている同人印刷のところか。いきなり俺のツテを使うということは、高くつくぞ?」
「……ふむ、十六夜や、伊達は就職したくないそうだ」
「ま、まて、そこでその話を振るのかよ‼︎」
また、漫才のような打ち合わせが始まった。
相変わらず仲の良いことで、そっちはそっちでまとめてくれよ。俺は、資料を全部用意するからさ。
──パン‼︎
そんな打ち合わせの最中、綾姫がかかる手を叩く。
「まずは腹ごしらえですよ。お昼の用意ができましたので、食堂へどうぞ」
「一人でお願いしてごめんね、私も手伝えばよかったよ」
「いえいえ、こういう時こそ私の出番です。疲れ知らずのサポートゴーレムは、こういう時こそ本領を発揮しますので、では準備してきますので」
小町と綾姫が、楽しそうに食堂に向かう。
けど、なんで伊勢さんと津軽、伊達は呆然としているんだ?
「あ、あのな社長。今、サポートゴーレムいうたか? 綾姫さんて、人間やないのか?」
「十六夜、彼女は人間じゃないのか?」
「え? 彼女って等身大魔導騎士なのか?」
あ、そういえば説明したことなかったか。
悪い悪い、すっかり忘れていたわ。
「お〜、紹介していなかったか。綾姫は、俺が作ったサポートゴーレムだよ。だから飯も食わないし疲れることもないから」
──ガタガタッ‼︎
そう説明すると、伊勢さんは頭を抱えて机に潰れるし、伊達と津軽は俺の足元に跪いた。
「俺たちにも作ってくれ‼︎」
「是非、美少女方ゴーレムを‼︎」
「一機、一千万で手を打つよ。洒落ならないハイスペックだからさ」
「いっ‼︎ 一千万‼︎」
絶句する二人。
まあ、無視して飯にでも行きますか。
「はぁ。社長、人型サイズのゴーレムは販売せんのか?」
「いやだよ、軍事利用されるに決まっているだろ?」
「せやなぁ……よし、この話はこれで終わりや。津軽はんも伊勢はんも、飯無くなるで‼︎」
伊勢にそう促されて、ようやく二人も現実に戻ってくる。
ただ、この時から、二人が綾姫のことを恭しく接触するようになったのは、なんでだろう?
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
五月。
株式会社バンライズ本社。
その日は、企画会議が行われていた。
今年のクリスマス商戦での、目玉商品の開発。
これが、今のバンライズの急務である。
自社アニメ制作会社を持つバンライズにとっては、他社ほどの厳しい状況ではない。
それでも看板商品の開発はかなりの難易度を示している。
「ふむ。大体の企画は揃ったか。どれもこれもアニメや特撮の商品ばかりで目新しいものがないが、まあ、やむを得ないというところが」
今の企画部は人手が足りない。
それでもさまざまな企画を出し、開発部に回している。
秋の新作アニメの商品が、今回のクリスマス商戦の目玉となるのはやむを得ないところだろう。
「しかし……開発部からの提案はないのか。山田くん、例の魔導騎士とかいうロボットの権利をうちで買い取るという話だったよな?」
越伊吹常務が、出席している山田錦弥開発部長に問いかける。
開発部、企画部を統括する越伊吹常務は、単刀直入にいうと山田錦弥の上の役職になる。
開発部を統括する山田錦弥では、どう足掻いても逆らうことができない。
「そ、それがですね。手違いがありまして、ちょっと契約の方が難航しております。まあ、来週中には、私自らが契約を締結してきますので、ご安心ください」
流れる汗を拭いつつ、必死に取り繕う山田。
だが、越伊吹は山田の顔をじっと見ると、手元の書類を再度確認する。
『本日正午、ゴーレムファクトリーが自社商品である『魔導騎士』を発表します』
これは何処からか紛れ込んできたタレコミ。
それを信じるか信じないかは、越伊吹の自由であるが、この情報の発信源が、『元バンライズ』の社員ではないかという目処がついている。
その証拠に、今までうまく誤魔化し、証拠を揉み消していた山田錦弥の裏取引に関する証拠がいくつも添付されていたのである。
「そうか、では、間違いなく契約は取れるのだな?」
「はい、この首を掛けても構いません、この山田錦弥、バンライズのために誠心誠意、尽くさせてもらう所存です」
「分かった。困難な道かもしれんが、頑張りたまえ」
そう山田を励ましてから、越伊吹は大型モニターのスイッチを入れる。
そしてチャンネルを変更すると、今、まさにYouTubeに流れているゴーレムファクトリーの新作発表会の映像が流れていた。
「こ、これは……」
「自社開発、自社販売を宣言しているゴーレムファクトリーから、どうやって契約を取るのか? 楽しみにしているよ……そうそう、九州の方で、確か人手が足りない営業所があったなぁ……そこに飛ばされないように、良い結果を待つことにするよ……来週の報告を待つ、以上だ‼︎」
務めて冷静に、淡々と話す越伊吹。
そして山田錦弥は、モニターに映し出されている魔導騎士を、恨めしそうに睨みつけていた。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。




