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魔導騎士から始まる、現代のゴーレムマスター  作者: 呑兵衛和尚
第一章・魔導騎士(マーギア・ギア)は夢を見る

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12/28

第十一話・破壊されたのは、なんですか?

『魔導騎士から始まる、現代のゴーレムマスター』は不定期更新です。


不定期と言いつつ十話突破ですが、こちらは間もなく週二回更新となります。

インフォメーションにて告知しますので、それまでお待ちください。


前書きと書いて、インフォメーションと呼ぶので、悪しからず。

 千歳発東京行きの飛行機は、16時20分に羽田空港に到着した。


「早くこれを届けないと……」


 亀尾は急いでタクシーを拾うと、真っ直ぐに会社へと向かった。バスやJRを待っている時間が惜しい、とにかく急いで本社に戻らなくてはならないという思いだけが、今の彼を動かしている。

 亀尾の鞄の中には、盗み出した魔導騎士(マーギア・ギア)が入っている。

 急いで会社に戻って、山田開発部長にこれを渡さないとならないという焦る気持ちを、どうにか必死に抑えようとしていたが。

 彼がやったことは犯罪。

 それも、開発中の商品を盗み出すという、表沙汰になったが最後、メーカーが大打撃を受けるのは必須である。


「これを渡すだけ。そうすれば、あとの窓口は山田開発部長になる。言い訳は大丈夫、あとは部長に任せるだけ……」


 まるで念仏を唱えるかのように、亀尾はブツブツとかばんを抱えて呟いている。

 そしてバンライズ本社に到着したのが、17時15分。

 少し道が混雑していたのでこの時間になってしまったのだが、亀尾は運転手に一万円を渡して釣りはいらないと叫ぶと、急いでビルの中に飛び込んだ。

 まだ17時半まえなら、山田開発部長は退社していないはず。

 ここまで来ると慌てず騒がず、亀尾は山田開発部長のいるフロアへと向かったのである。


………

……


──チン

 フロアに到着して山田開発部長のオフィスに向かう。

 ちょうど帰宅準備を終えた山田が出てくると、山田は亀尾をチラリと見る。


「おや、亀尾じゃないか。今日はこれで帰るのだが、何か吉報があるのなら聞こうじゃないか」

「ハァハァハァハァ……こ、これが、ゴーレムファクトリーの魔導騎士(マーギア・ギア)です。この腕輪が送信機です」


 急いでカバンから魔導騎士(マーギア・ギア)を取り出すと、亀尾は腕に送信機をつけて操作する。


──キュィン

 すると、魔導騎士(マーギア・ギア)タイプ・ソードマスターは静かな音を立てて動き出すと、ジャンプして亀尾の肩に飛び乗った。

 5時までしか魔力は持たないことを、亀尾は知らない。それ以降は紙屑となるのだが、それは子供達が遊んでいたことが前提の条件。

 亀尾のように、ずっとカバンの中に隠してあったのなら、魔導核の中の魔力が自然消耗するまでには時間が掛かるのである。


「こ、これがそうなのか‼︎ 亀尾くん、これは私にも扱えるのか?」

「残念ながら、登録の変更などは専用のオペレーターしかできません。ですが、私が登録されていますから、私の自由に扱うことができます」

「でかしたぞ‼︎ 明日、いや、今すぐに開発部に向かうぞ、ついてきたまえ‼︎」

「はいっ‼︎」


 急いでエレベーターに乗ると、開発部のあるフロアに向かう。

 そしてまだ居残りで研究を続けている社員のもとに向かうと、山田開発部長は亀尾が持ち帰った魔導騎士(マーギア・ギア)を机の上に置いた。


──ゴン

「山田部長、それって、まさかの魔導騎士(マーギア・ギア)ですか?」

「うむ。ちょっとツテがあってだね、亀尾くんに受け取ってもらって来たのだよ。亀尾くん、動作を頼む」

「了解です」


 すぐさま魔導騎士(マーギア・ギア)を稼働させる。

 先ほどよりも動きが鈍いように亀尾は感じたが、今はデモンストレーションを行わなくてはならない。

 普通に人間の動きを真似したり、映画のアクションよ空手の型を試したり。

 その一挙一投足をカメラで録画しながら、開発部の研究員たちは、その動きをじっと眺めている。


「明日からは、この魔導騎士(マーギア・ギア)を解析してくれたまえ。できるなら夏までに、東京ゲームショウまでには我がバンライズ製の魔導騎士(マーギア・ギア)、いや、機動騎士(パンツァーナイト)と名付けよう‼︎ それを発表する」


 大見得を切る山田。

 それに研究員たちは瞳を輝かせている。

 彼らには悪意も何も無い、純粋に開発畑の人間なので、初めて見る魔導騎士(マーギア・ギア)のシステムに興味津々なだけである。


「それじゃあ、これは外して預けておきます。今のところ動かせるのは俺だけですので、明日からは、開発部で手伝います‼︎」

「よく言った‼︎ 君がいてくれるなら、我が社は安泰だ‼︎ よし、今日は私の奢りだ、ここにいる開発部社員で飲みに行こうではないか‼︎」


──ドッ‼︎

 一気に盛り上がる開発部社員。

 そして魔導騎士(マーギア・ギア)は厳重にケースに収めてからロッカーに仕舞い込まれる。

 その日、亀尾は、生まれて初めて美味い酒を飲んだ。

 楽しかった。

 これで、自分は主任に昇格する。

 これから、明るい薔薇色の生活が始まると、信じていた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 体験会翌日。

 悠は、最後のチェックを行なっている。

 完成した素体の動作安全テスト、人に向かって攻撃した場合の安全装置の作動テスト、この二つを終わらせることで、商品化のためのテストは終わる。


「……津軽、伊達。対人テストなんだから、そこで魔導騎士(マーギア・ギア)同士で闘わせるなって」


 アルバイトの津軽と伊達には、朝から対人テストを行ってもらっていたのだが、また何か言い争って魔導騎士(マーギア・ギア)で決着をつけようとしている。


「止めるな十六夜。男には、やらねばならぬ時がある」

「いくら十六夜でも、男同士の決闘に口出しは無用だ」

「まあ、構わんよ。午前中のバイト代は無しな……」

「津軽、対人テストだ‼︎」

「任せろ、だからバイト代はよろしく頼む‼︎」


 相変わらずのノリである。

 笹錦は午前中は配達があるらしく、夕方からなら参加できるらしい。

 まあ、それまでにある程度の目処は立てた方がいいだろう。


「せや、社長。魔導騎士(マーギア・ギア)の発表は、いつ、どこでやるん?」

「秋の東京ゲームショウ……と思ったけど、それより前には公表する。夏、コミケ前には公開するよ」

「そんじゃ、そのタイミングに合わせて、札幌市内の放送局関係に手紙を出しておくわ。発表会の日時が決まったら、教えてや」

「了解。なるべく早くスケジュールを組み込むよ。あと、プロモーションビデオも作るから」


 対人動作チェックをやりつつ、スケジュールを考える。

 秋の東京ゲームショウにも参戦したいところだし、夏前には公開したい。

 しかし、プロモーションビデオか。

 自分で話したのは良いのだが、何処かに映像関係に詳しい知り合いが……。


「いたなぁ。個人で動画撮るのが趣味のVtuberが」

「ん? 俺のことか?」


 津軽三郎太。

 Vtuber名は『小豆三太郎』、ゲーム関係の配信をしているから、意外といけるか?


「なぁ津軽、魔導騎士(マーギア・ギア)のプロモーション動画って作れるか?」

「ん? どれぐらいの時間で?」

「夏前には欲しいところだな。予算100万でいけるか?」

魔導騎士(マーギア・ギア)の貸し出し、バトルリングも使う。カメラや機材は俺のを使うから構わんし、暇人の伊達が手伝ってくれるなら、間に合わせてやるよ」

「よし、それで良いから頼む。必要機材や魔導騎士(マーギア・ギア)の貸し出しについては、綾姫を通してくれると大丈夫だ。綾姫、今の話は聞いていたな?」


 そう綾姫に問いかけると、両手を握ってフンスとガッツポーズ。


「お任せください。津軽さん、伊達さん、プロモーションビデオ撮影についてのサポートを担当しますので、よろしくお願いします」

「綾姫さんが手伝ってくれるなら100人力だな」

「そんじゃ、簡単な企画書とコンテを切って持ってくるわ。三日でコンテまで上げてやるから待ってろ」

「三日? 化け物か?」

「まあ、散々、魔導騎士(マーギア・ギア)で遊んでたからさ、こいつで動画を撮りたいなあって思っていたんだよ」


 それは力強い。

 あとは口出ししないで任せておくか。

 俺は、こっちに専念すれば良いだけになったし、気が楽だよ。


──バギ‼︎

「うおぁぁぁぁ」


 突然の伊勢の悲鳴。

 何があったのかと慌ててみると、砕け散ったスマホが転がっている。


「……何があったんだ?」

「いや、なんやら電話が来てたみたいだから、びりけん1号に持って来させたら、うっかりパワーあげて破壊してもた.…」

「うん、乙。この時間だと、近所のショップは閉まっているから、明日だな」

「社長、魔導スマホ作らへんか?」

「電波法違反になるから、ダメだな」


 惜しい。

 そういう手もあるなぁと思ったけど、今は魔導騎士(マーギア・ギア)が優先な。

 一段落したら、スマホ事業に突撃するのもありなのかな。


………

……


 翌朝。

 伊勢が電話越しに喧嘩をしている。


「だ、か、ら、な。うちは知らんわ。勝手に持っていって、俺の運命が掛かっているから魔導騎士(マーギア・ギア)を寄越せって、あんたアホか? 死ね」


──プッッ

 それだけを叫んで、伊勢がスマホを切った。


「朝っぱらから穏やかじゃないな。何があったんだ?」

「ほら、一昨日の体験会で、ペーパーギアを勝手に持って帰ったアホいるやろ。会社に持っていって解析しようとしたら、昨日の朝には動かなくなってしもたらしくてな。もう一騎、なんとしても手に入れろって言われたらしくてな」

「それで泣きついてきたのか。本当に懲りない性格しているな」

「せやな。警察行った方が良いんとちゃうか?」

「無視していいよ。次に電話きたら、しつこくするなら警察に連絡するって脅して構わないよ」


 持っていった魔導騎士(マーギア・ギア)は所詮は紙だし、解析なんてできるはずがないから気にすることもない。

 でも、本当にしつこかったら訴えて良いレベルだけど、こっちも発表前だから、あまり波風立てたくはないからなぁ。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



──プッッ

 伊勢が電話を切ると、亀尾は絶望感に襲われた。


 先日の朝。

 二日酔いをどうにか耐え切り、出社して開発部に向かったまでは良かったものの、解析班に頼まれて魔導騎士(マーギア・ギア)を動かそうとしたが、うんともすんともいわなくなっていた。


「え? なんで?」

「おいおい、亀尾さん、早く頼みますよ」

「ちょっと待ってください。おい、早く動けよ‼︎」


 腕輪に話しかけても、全く動く気配がない。

 それどころか、昨日の夕方に動けよデモンストレーションしていたときは、魔導騎士(マーギア・ギア)本体も腕輪ももっと硬かったはず。

 それなのに、今は、普通の紙細工のようにふにゃふにゃである。


「おはよう諸君。どうかね調子は?」

「あ、部長、おはようございます。実は……」


 研究員の一人が、現在の状況を説明する。

 それを聞いていた山田部長の顔が険悪になるが、怒鳴り散らしたりはしない。


「ふん、まあ、動かないのなら仕方がない。バラして調べられるか?」

「やってみます」

「午後には一報いれてくれ、亀尾、君も協力したまえよ」


 それだけを伝えて、山田部長は開発部から出ていく。

 その後の細かい調査では、亀尾が持ち帰った魔導騎士(マーギア・ギア)の中には。サーボもメタルフレームも何もなく、制御システムもどこにもなかった。

 分厚い紙細工の人形に、ビー玉が二つとサイコロが一つだけ埋め込まれていたのである。


「……誰かがすり替えたんじゃねえか?」

「可能性はあるよな。この紙もビー玉も、普通に売っているものだし。こんなものが動くはずがないからなぁ」

「亀尾、これって、前からこんな感じなのか?」


 そう問いかけられると、ふと、疑問が頭をよぎる。

 いつもの体験会は、普通のメタルフレームの機体を使っていた。

 だが、亀尾が盗み出した日は、紙で作ったとか適当なことを話していた。


「まさかとは思いますが、すり替えられていた可能性があります」


 俺が盗むことを見越して、とは口が裂けても言えない。だけど、それを研究員が部長に報告した。

 そして午後には、俺は山田部長のオフィスに呼び出された。


「亀尾、開発部からの報告では、あれは紙屑とビー玉が集まったものじゃないか。昨日動かした本物、お前が隠したのか?」

「まさか。一昨日、研究員がケースに入れて保管していましたよね? 俺は手をつけていませんし、その場には部長もいましたよね?」

「まあ、な。となると、何者かが侵入して盗み出したか、もしくは研究員が他社に売り飛ばした可能性があるか……別部署で解析した方が無難だが、あれはもう手元にはない」


 嫌な予感しかしない。

 まさか、また盗んでこいと?


「なあ、亀尾。もう一度、北海道に行ってこい。もう一機必要なのは、理解できるよな」

「ですが、俺は顔を覚えられています」

「ふうむ。そうなると、顔がばれていないやつを飛ばした方がいいか。伊勢でもいれば、やつにやらせてもよかったんだが」


 伊勢さん?

 そうだよ、伊勢さんがいたよ。


「部長、明日の朝までお待ちください。一人だけ、心当たりがあります」

「ほう? それなら明日まで待つとしようじゃないか」


 山田部長との話を終えて、亀尾はスマホで朝に連絡しようとした。

 だが、今度は伊勢の電話が繋がらない。

 一瞬繋がったような気がしたが、そのあとは、電源が入っていないというメッセージが流れてくる。

 頼むよ伊勢。

 俺の出世は、お前にかかっているんだからさ。

 

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。


この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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