第九話・暗躍するもの、頑張るもの
『魔導騎士から始まる、現代のゴーレムマスター』は不定期更新です。
毎日更新しているようですが、錯覚です。
ゴーレムファクトリーを後にした伊勢ひかりは、そのままバンライズ札幌支社へと出社する。
「……あ、来た来た。遅刻ですよ?」
「ちゃうわダァホ。朝からしっかりと営業や、客先に行って来ただけや」
「客先?」
腕を組んで頭をひねる亀尾。
この札幌で、客先と言われてもピンとこない。
「ゴーレムファクトリーや。朝イチで押しかけてインタビューしてきたんや」
「そ、それなら、契約は取れたのですか?」
「まあ、ちょいと待ちや。さきに仕上げなあかんものあるからな」
そのまま机についてから、伊勢は早速パソコンを開いてキーボードを叩く。
大体三十分ほどで書類は仕上がったので、それを封筒に入れて支社長室へと向かう。
──コンコン
『伊勢くんかな? 連絡は受けているから入りたまえ』
「失礼します」
覚悟を決めて、伊勢は支社長室に入る。
先に秘書課に連絡はしてありアポは取ってある。
朝一の暇な時間ならば、話が通ると思ってやって来たのである。
「それで、重要な話とは?」
「こちらをお願いします。同時に、本日の午後から、有給の消化を行いますので、よろしくお願いします」
伊勢が差し出したのは『退職届』。
先にパソコンで社則をはじめ、一通りの調査は終わらせてある。
今日から二週間の有休消化により、山田開発部長と顔を突き合わすことなく正式な手続きで辞めることができる。
「君が北海道に来た理由は、ゴーレムファクトリーからロボット開発についての契約を取ることではなかったかな?」
「はい。ですが、残念なことにそれがなされなかった為、責任を持って退職させてもらいます」
「……山田部長の指示で北海道に来た。仕事内容は指示されていたが、それができなかったので、現在の上司である私に退職届を提出か。後悔は?」
「ありません‼︎」
キッパリと言い切る伊勢。
「この不況下では、次の仕事先も見つからないだろう? せめてその目処が立つまでは、仕事を続けることもできるのだよ?」
「心当たりがあります。それに、今の私の心境では、山田部長のご期待に添えることはできません‼︎」
堂々と宣言する伊勢。
その目を見て、支社長も決意の色が硬いと判断。
「退職届は受理する。総務課に回して手続きを行うので、君は午後から有給の消化に入りなさい。引き継ぎ……は、亀尾くんか、彼に話をしておきなさい」
「ありがとうございます‼︎」
深々と頭を下げて、伊勢は部屋から出ていく。
そして亀尾の隣の席に戻ると、開口一番。
「うち、今月末でバンライズやめたから。あとは頑張りや」
「……はぁ?」
「はぁ、やなくてな、辞めたんや。山田部長の仕事、失敗したから責任とって辞めたんや。あとはよろしゅうな」
突然の告白に、亀尾の頭の中が真っ白になる。
伊勢が辞めるということは、つまり山田部長に報告するのは自分。
今までは、伊勢が前に立ってくれたから、山田部長のクソ面倒くさい仕事をなんとかこなしてこれた。
営業先に朝一番に頭を下げに行ったり、終電ギリギリまで接待に付き合わされた挙句、朝一番で報告書提出とか、無茶振りにも耐えられた。
「あ、朝一早く営業って、ゴーレムファクトリーに行って来たって話しましたよね」
「そうやな。そんでな、話していたらな、契約とかの話は無しやって言われてな。こりゃあかんって、責任とって、さっき退職届を出して来たわ」
「お、俺はどうするのですか? 俺一人で、山田部長の機嫌とったり、無理難題をこなせっていうんですか?」
「せやな。今までは、うちが代わりにやってたやないか。今日からは、君がやるんやで、ほな、これで引き継ぎもおしまいや、そんじゃな‼︎」
パンパンも亀尾の肩を叩くと、伊勢は清々しい顔で退社した。
取りあえずは、東京に戻って引っ越しの準備。
先にこっちで部屋を探さなくてはならないなど、やることが目白押しであった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
今日の体験会は、小町と綾姫に任せた。
俺がやらないとならないことは、新形の『教育型魔導騎士』の素体を作ること。
「……接続……」
まずは、外装も何もない素体を作り出す。
マネキンのような姿の素体なら簡単に作れるので、そこに魔導核とエーテルドライバーを組み込んで、素体の完成。
「ここまでは同じ。ここからが問題か」
この素体にパラメーターをセット、能力の数値化により、個体差を表現する。
そろのパラメータによる行動の制御、人間のようにバラツキを表現しつつ、動作を調整。
うん、いい感じに動いてくれる。
──ピッピッピッピッ
ラジオ体操をさせてみたけど、人間と同じように動くこともできる。
柔軟性のパラメーターを弄ることで、前屈の角度も変化する。
「これはいい。とりあえず動作確認を続けて……」
この日から、魔導騎士の開発が大きく飛躍していった。
………
……
…
春休みが終わり、小学生たちは学校が始まる。
体験会も昼間は中止、午後からの開催に切り替える。
まだ『素体型』の体験会は始めないよ、自分でカスタマイズできない子供達用として、今まで使用してもらった12タイプを『オールインワン』として販売する予定に切り替えたからね。
あとは全国で体験会をやる時には、12タイプが都合いいので。
それとは別に、自分で全てカスタマイズできる『プロフェッショナル』を販売する。
素体型はある程度目処がついたけど、問題は外見の登録。
というのも、小町のこんな一言から始まった。
「……ねえ悠。これって、オンラインゲームのキャラメみたいに外見は変えられないの?」
「外見は追加装甲とかで変えられるけど?」
「あかんあかん。社長、それじゃあかんわ。ネトゲみたいに顔まで作れるように、外見を弄れるようにしないとダメやで?」
伊勢ひかりは、四月一日から正社員になった。
引っ越しも終わり、始業時間である午前十時前には出社して、アイデア出しを手伝ってくれている。
まだ営業の仕事がないからね。
「が、外見は自分で作るのが、いいんじゃないのか? 追加装甲とか装備とかで」
「造形が苦手な人もいるっちゅーことを忘れたらあかん。小町さんのいう通り、ネトゲのキャラメのように、モニターを見ながらいじれるのがいいんや」
「マジか‼︎」
テレビで見たアニメだと、作る専門家と操作する専門家がいるからさ。それじゃあダメなのか。
「ダメやな。そもそも、魔導騎士の外見を普通の人間は弄られへんで。それに、この素体、売るときはどうやって売るんや?」
「梱包材で包んで、データ登録用の水晶板と一緒に」
「あかんな、夢がないわ」
──ガーン‼︎
夢がない?
いや、待ってくれ、こいつが動くのが夢じゃないのか?
そう熱く説明するんだけど、小町も伊勢も、俺の熱意を理解してくれない。
そして伊勢が近所のレンタルビデオで色々なアニメを借りて来てくれたんだけど、それを見て、目から鱗が落ちたよ。
卵の中の人形を改造して動かしたり、プラモデルにチップを組み込んで動かしたり。
まあ、いくつかは知っていたけど、ここまでジャンルが多いとは思わなかった。
だが、その程度で挫けるはずがない。
「……素体を専用ケースの中に入れて、外部からの入力で素体を改造する。専用ケースの形はまあ、置いておくとして、スターターキットとしては、こんなものかなぁ?」
・魔導騎士・素体
・データ入力用クリスタルデバイス
クリスタルデバイスを素体に接続して入力する。
正確には、ケースに接続して行うんだけど、まだケースがない。
というか、ケースの形状で揉めている。
「魔導騎士のケースですから、近未来的にした方がいいです」
「いや、ここは女の子にも扱えるようなファンタジーがええ」
「それなら卵はどうですか? それならファンタジーですよ?」
「綾姫はんのは却下やな。それでいくと、白くて丸い生命体が飛び蹴りしてくるで」
「ピラミッド型とか? 世界のオーパーツは? 水晶の髑髏とか、遮光器土偶とか、ツタンカーメンの棺とか?」
「小さな巨人が、スーパーコンボ決めてくるような発想はやめい。二人とも危ないわ」
「じゃあ、伊勢さんは何かアイデアがあるのですか?」
「あるで。こうな、スフィンクスの顔が左右に分かれてでてくるんや。あとは、仁王像が爆発して、ドーンと‼︎」
「「却下です‼︎」」
うん、話が盛り上がっているけど、胃薬が欲しくなりそうなネタばかりだわ。
「お、こんなのはどうや? 宝石や、オールインワンは12体やから、誕生石をモチーフにした結晶型はどうや?」
「それなら、素体のケースはどんな宝石にするのです?」
「そやなぁ……何も染まっていない……水晶でどうや?」
「「それです‼︎ 決定‼︎」」
あ、勝手に決まった。
まあ、側から話を聞いている限りは、無難かなぁ。
「それじゃあ、素体用のやつから仕掛けてみますか……魔法陣、起動‼︎ 接続」
魔法陣の中央に素体を置く。
その周囲に、水晶柱の形のケースを作り出す。
素材はアルミニウム合金。
ここに魔導核を二つセットして、一つはクリスタルデバイスと同調。
もう一つの魔導核に変形と融合化の術式を組み込み、デバイスからの入力に合わせて内部の素体の外観を変更できるようにする。
「……システムの登録と完成まで一時間か。まあ、そんなところだろうなぁ」
とりあえず、一時間後には実験用の第一号が完成する。これをテスト用として10個ほど量産し、テストプレイヤーを探して頼み込むとするか。
「……もう出来たの?」
「まさか。あと一時間は掛かるわ。綾姫、昼飯と夕食の買い出しを頼む、ついでに伊勢もついていって荷物持ちよろしく」
「了解や。営業のうちは、まだ仕事あらへんからな」
「アイデア出しも仕事だよ。小町は量産型のテストの準備で、津軽と伊達、笹錦に連絡してくれるか?」
「あ〜、テストプレイヤーとして仕事をあげるのね?」
笹錦は実家の酒屋を継いだけど、あとの二人は就職浪人だからね。アルバイトとしては良いんじゃないか?
ということで、夕方までは素体のチェックと体験会の準備。
さあ!楽しくなって来ましたよ‼︎
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「なあ、亀尾くん。君は、ふざけているのか?」
四月に入り、久しぶりに東京本社に戻った亀尾。
中間報告ということで、本社に一旦戻ったのはいいのだが、報告書を受け取った山田開発部長は、真顔で受け取った報告書をシュレッダーに放り込んだ。
「い、いえ、ふざけてなどいませんが」
「だったら、なぜ、成果を上げていない? うちは無能な社員を飼っているほど暇な会社ではないのだよ? どうして契約を取らない?」
「何度か電話で話はしました。ですが、自社開発で自社流通するので、他社との提携は不可能だと」
「……真面目に話をするからだな。最初の話なんて適当で構わないよ、契約書の改竄程度なら、いくらでもできる……もしも裁判に持ち込まれたとしても、我が社の弁護士は優秀だよ?」
いつも、その手でライバル企業を倒して来た。
だから、山田部長は失敗することなどあり得ないと思っている。
「し、しかしですね」
「そうだ、君、体験会に参加してきたまえ、そして、途中で、腹痛とかなんとかいって、慌てて帰宅すればいい。ちょっと手違いで、試作品を持ち帰ったとしても、後から返しますってすぐに連絡すれば、相手は信じてくれるさ」
「そこまでするのですか?」
「君も、あの使えない伊勢みたいに辞めても構わないのだよ? けれど、このプロジェクトが成功した暁には、君も平社員から主任にもなれるだろうさ……」
これも、山田部長のいつもの手。
平社員から主任になれるなんて保証はどこにもない。
それどころか、責任を取らせて辞めさせられることは間違いはない。
盗み出させた試作品は壊れたので破棄したとか、彼が何処かに失くしたとか言わせればいい。
「……それに、主任になれば、恋人も喜ぶのではないかな? 平社員の妻よりも、主任の妻、いや、課長も夢ではないだろうな」
「わ、わかりました。もう一度、北海道に戻ります‼︎」
「それで良い。やる気のある社員には、必ず見返りがある。頑張りたまえ‼︎」
笑顔で亀尾を送り出す山田錦弥。
そして彼が視界から消えると、振り向いて舌をぺろっとだした。
「そんなうまい話が、あるはずないだろうが……ブァァァカ。所詮お前も、俺の出世のための歯車なんだよ……まあ、頑張って回りまくってくれ」
この部長に、鉄槌が下る日がくるのだろうか。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。




