ぬくもりを探して
毎日霜で土が凍る寒い冬、落ち葉もみんな落ちちゃった頃に母さんは病院に入院することになった。
僕の妹がお腹にいて、そろそろ産まれるかもしれないから入院するんだって。
病院で母さんは僕にこう言った。
『ぬくもりのあるお兄ちゃんになってね。ゆうきは優しい子だからきっとなれると私は思っているわ』
僕はそれからずっと『ぬくもり』って何だろうって探している。
僕は、誰か知っている人に教えてもらおうと思って聞いて回った。
父さんに聞いた。
「『ぬくもり』?温かいっていみだよ」
温かいお兄ちゃん……?温かいってココアとかコタツみたいなこと?
僕がココアやコタツになるのなんて無理だよ。
おばあちゃんにも聞いた。
「『ぬくもり』?ぬくもりは優しさだよ」
優しいお兄ちゃん……母さんも僕が優しいからなれるって言ってたけれど、優しいとココアやコタツみたいに温かいの?優しさって温かさと違うよね?もっと分からなくなってきちゃった。
おじいちゃんにも聞いてみた。
「『ぬくもり』?ばあちゃんの作る手編みのマフラーや夕飯に出してくれるつまみと酒なんかにも温もりを感じるなぁ」
マフラーは巻けば温かいけど、つまみや酒は冷たいじゃないか。
冷たい物でも『ぬくもり』なの?
叔父さんにも聞いてみた。
「『ぬくもり』?そうだなぁ。お前のお母さんやおばあちゃんみたいな人をぬくもりのある人と言うんだ」
お母さんやおばあちゃんは『ぬくもり』のある人なんだ……。
僕は『ぬくもり』が何なのか聞いてみてもよく分からなくて寒い庭に出て『ぬくもり』を探してみる。
冷たい物でも『ぬくもり』なんだったら、外でも見つかるんじゃないかと思ったんだ。
ザクザク落ち葉
シャリシャリ霜の土
ビュービュー北風
どれも温かくないし、優しいとも違う気がする……。
みぃ〜みぃ〜
どこかで子猫の声がする。
僕は鳴き声がどこからするのか探しながら落ち葉をザクザク踏んで行った。
あっちでもない。
こっちでもない。
駐車場にも倉庫の裏にも猫は居ない。
もっともっと探してやっと見つけたのは、交換用のタイヤを詰んだ輪っかの中だった。
おっきいタイヤが四つも積み上がっているから僕じゃ手を伸ばしても穴に届かない。
「まってね!いま出してあげるから!」
んんー!!
僕はタイヤを一つ一つ端から持ち上げては落として、積み上がっているタイヤを減らした。
やっとタイヤを二つ減らすと僕でも子猫に手が届いた。
「かわいそうに……寒かったんだね?プルプル震えてる」
凍えてプルプルしながら小さくみぃみぃ鳴く子猫を僕は抱きしめた。
「どう……?少しは温かい?……お前も小さいけど温かいね」
外で拾った猫を家に入れたら汚いからって怒られるかもしれない……そう思った。
だけど、腕の中で震える子猫がとても寒そうだから僕は子猫を抱えて家に入った。
「まぁまぁ、その子猫どうしたの?」
みんなに見つからないようにコタツに入れてあげようと思ったけど家に入ってすぐにおばあちゃんに見つかっちゃった。
「この子……タイヤの山の中に居たの。寒かったからプルプル震えてて……僕、助けてあげたくて」
僕は頑張って説明して、家に子猫を入れてもいいよって言ってもらおうとたくさん伝えた。
おばあちゃんは子猫を汚いから置いてこいなんて言わず、優しく笑って僕に言った。
「もう子猫ちゃんは寒くないみたいね?」
「え?」
腕の中を見ると子猫はすやすや眠っていた。
「ゆうきくんのぬくもりで安心したのね」
「僕の……ぬくもり?」
「そう、きっと子猫ちゃんはひとりぼっちで寒くて暗い所にいて辛かったの。でも、ゆうきくんが助けてくれて抱きしめてくれたから心も体も温かくなったのよ」
「心も体も温かく……」
「そう、それがぬくもりよ」
「ココアもコタツも優しくしてくれるのも手作りのマフラーも……」
「どれも心がぽかぽか温まるでしょう?それがぬくもりを感じるってことなの」
「『ぬくもり』……どこにでもあったんだ。僕にも……」
おばあちゃんは子猫を抱きしめる僕ごとギュッと後ろから抱きしめてくれた。
「どう?『ぬくもり』感じるかしら?」
「うん!とってもぽかぽかする!あったかい……えへへ」
やっと見つけた。
『ぬくもり』は相手の心と体をぽかぽかさせること!
「僕、産まれてくる妹にも『ぬくもり』感じさせてあげる!」
「いっぱい『ぬくもり』をあげてね。きっとゆうきくんの妹も喜ぶわ」
僕は子猫を抱きながら、早く妹が生まれてこないかなぁと優しい気持ちで笑った。