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月の満ち欠け

作者: 四ツ目柳

 季節は晩秋。家の中も、日が暮れると途端に寒くなる。畳に敷いたマットレスに寝ている月を胡坐の上に座らせ、抱きかかえた。こうすると、温かい。

 月はされるがままで、小さな寝息を立てている。それと一緒に、少し早い鼓動が、聞こえてくる。

 四歳の月は、去年まで元気いっぱいなおてんば娘だったが、春先に原因不明の熱病にかかってから、一日のほとんどを寝て過ごすようになった。全身の筋肉が弛緩し、体を自分で支えることは難しい。

 たまに起きているときも、その瞳は虚ろに宙を見つめている。口は自然と開いていて、物が触れると、ゆっくりモグモグと動き出す。去年、オムツを外せたのだが、逆戻りだ。

 医者によると、月の感覚器官は正常だが、脳の処理に問題があるらしい。だから、見えていて、聞こえていても、それらを理解することができないのだという。もう喋ることもないだろう。いや、意思表示自体、できないだろう。

 医者はそれでも、たくさん話しかけ、たくさんスキンシップをして下さい、と言った。その方がいいに決まっている、というのは理解できた。例えが悪いが、犬や猫、果ては熱帯魚や植物に家電にまで、人間は話しかけるのだから、月に話しかけるのも当然だと思った。

 月のサラサラとした髪を撫で、餅の様な頬に手を当てる。夜は更けていく。月の、微かに甘い匂いが、眠気を誘う。

月は幸せでしょうか。

月を抱える人は幸せでしょうか。

聞きたいような、聞きたくないような。

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