白狼と元狩人
氷柱がぽたっと落ちることがないほどに寒いなかに
男は白狼の声に警戒する。
「くそ!」
男は石を投げて、その声のする方へと投げる。
何も見えない中で投げたのは少しでも位置を
把握するためだった。
だが、当たったような音は聞こえなかった。
代わりに足音が聞こえ、そこには一匹の白狼が現れた。
できれば、男は戦いたくなかった。
少しでも体力を温存するために、
その体力を、居すわっているあのモンスターにぶつけるために、
だから、威嚇のために持っている。
いや、生きるために武器を持っているのだ。
利益のために、己が求める戦いへの渇望を潤すための
オアシスではなく、助けるための戦いなのだ、
無駄な殺生はしたくなかった。
「帰ってくれ、ここには何もないんだよ」
しかし、白狼は近づく、
だが、そこに敵意はなく、
彼を見ていた、じっと、目で訴えていた
「何か……あったのか……」
男は不思議だった、
今まで出会ってきた白狼はトナカイや家畜を襲うときの獰猛なやつで目は戦うときの目をしていたからだ。
迷惑な連中だと、村人ともども、そして、彼さえも思っていた。
そして、それを倒せば報酬がもらえたりと狩人の頃は、手軽に狩れるモンスターだとばかり、思っていた。
しかし、今回の場合は違った。
悲しき目をしている、何か自分とよく似ている感じであった。
だが、モンスターに心はあるのだろうか?
そんなことがあるわけないと思い、男は押し返そうとする。
心に余裕があれば、
幻想的なことを考えられるかもだが、
今は現実的に考えなければならない。
そんなことはないと頭をふって、武器を納めて背を向ける
「自分の子の命が危ない……帰ってほしい」
なぜ、背を向けたのか男は自信でさえ、わからなかった。
だが、今は、薬草のことで病に苦しむ娘が心がいっぱいであるのを隠したいからなのかもしれない。
今は一人にしてほしい。
いっぱしの白狼なぞに、思いをやる暇なんてなかった。
しかし、白狼は帰らなかった。
そして、彼に近づいて、作ってあった薬草のあまりをつつく。
「欲しいのか?」
白狼は答えるようにうなずく。
「だけど、
それはケガを治すための薬だから、効果がないと思う」
この地でかかる病気を治すにはあの薬草が必要だろう。
男は依頼しようと思ったが、その病気にかかれば最低でも7日もって、14日で死んでしまう病気なのである。
難しければ、難しいほど、その依頼にかかる日数は長くなるわけで、とてもじゃないが他人を頼ることなど出来なかった。
恐らく、その白狼の子もそうなのだと考えると……
「俺が向かおうとしてるところにあるのかもしれない」
といいながら、半信半疑で地図を見せる。
「ここに行こうと思ってるのだが、吹雪がやむまでは向かうことが出来ないんだ。って言ってもわかるわけがないな……はは」
男は聞いてる自分を笑いそうになる、自分の心は極限状態にまで、壊れたのかと錯覚してしまうほどに、だけど、信じられないけれど、もし、聞いたらわかるのではないかと、ためしに聞いてみた次第なのであった。
白狼は地図を見ると男の顔を見上げて吠えた
「分かるのか!?」
男は驚いた顔をする、加えて、
白狼はもう一度答えるように吠える。
男は少し表情が明るくなった、
信じれるか信じられるないかの狭間にある気持ち、
だけど、油断は出来ない、いつ、自分を襲うか、わからない、
だから……
「言っておくが、お前を信用してるわけじゃない、だけど、今は仲間だと考えよう」
最初は一人で何とかしようと思った、
だけど、吹雪の中では人は何も出来なかった、
道が見えないからだ。
だけども、白狼がいれば何かその道に心当たりがあるのかもしれないと踏んで、彼は身支度をする。
「準備をするから少し待ってろ」
そういうと彼は狩人に必要な装備を携えて、白狼は時を待っている。
「よし、出来た、行こう」
男がそういうと、白狼は洞窟の外へと駆け出していく。