炎の先に
吹雪の中で明かりが見える。
そこに薬を作っている彼がいるのだろう。
しかし、足が重くなる。
なぜなら、彼女にとって、
炎とは暖かいものではなく、
彼女の夫にあたる狼の命を奪ったことになる。
心の中が冷たくなる、不安と怒りが未だに引きづっている。
心の臓は人間にあるのなら、向かいたい。
しかし、向かえば死ぬか生きるかの二者択一。
人間というものは自然を利益としか考えていない。
彼女の目にはそう映る。
確かに、白狼も生きるためにトナカイを食べることがある。
だけど、そこに利益なるものは発生しない。
お金という概念がないからだ。
ただ生きるために食べる。
しかし、人間はどうだ。
植物を奪い、動物を殺し、
お金のために動くものもいる。
利益というものが発生する。
だけど、今の彼女はその人間に頼ろうとしている。
動くか動かざるべきか。
ここまで、来てしまった以上は引くに引けない。
人間を信用してはいない、だけど、向かわなければ、自分の子が死ぬ。
子に先立たれてしまっては私は誰を信じていければいいのかと彼女は空に呼びかけるようにして、吠えた。
彼女が幼い頃、何気なく命について、聞いたことがある。
「ねぇ、お父さん、お母さん、白狼は死んだらどこに行くの?」
二匹は困った顔をして、答えた。
お父さん白狼が答えた。
「うーん、難しいなぁ、死んだら……土になるんだ」
「土になるの?」
「そうだ、だけど、土だけじゃなくて自然そのものになる」
「じゃあ、いなくなっちゃうの?」
「いや、そうじゃなくて、土になったあと、いろんなものになるんだよ」
「うーん、よくわかんない!」
「そうだな……ははは」
「ようは、共にいるってことよ」
お母さん狼が答えた。
「そうだった、そうだったな」
あの頃の彼女は健気に笑う。
そう、純粋に何らかの汚れを背負わずに生きていたあの頃を
彼らも今は、自然となって共にいるのだろうか?
いるとすれば答えてほしい、
命が終わったあとでも、
共にいるんだって証拠を
その印がなければ、彼女は信じれなかった。
うつむく、やはり、白い足でついた雪はすぐさま真っ白になる、
すると、突然、石がとんできた。
彼女はとっさによけた。
「くそ!敵か」
男に気づかれてしまう。
逃げるか、逃げないか、そんなことを考えるよりも、いかなければ、我が子を救えない。
彼女は不安のままに洞窟へと進む。