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第七話 バナナ園の戦い(後編)

 しばらくすると、水樹が家に戻ってきた。水樹はテーブルの上の紙に気付く。

 文字を読むと、家から鉈を持って外に出て行った。


 ユウトはそっと後ろを()けて行く。

 バナナ園のバナナの木を片っ端から傷つける真似を水樹はしなかった。


 怪しい樹にだけ、傷を付けていた。

 ユウトは水樹が作業している間に、自分の持つ剣に細工をしていく。


 刀身に『飛来必中』と書いておく。

 水樹が鉈でバナナの木を傷つける作業をして、三十本目くらいに事件は起きた。


 水樹がバナナの木に近付こうとした時だった。バナナの木が割れた。

 中から、身長七十㎝ほどで長い尻尾を持つ、痩せこけた白い猿が現れた。


 水樹は猿に鉈を投げつけた。

(戦いが始まる)


 白い猿は拳で鉈を軽々と弾いた。

 猿にできた隙に走り込んで水樹は距離を詰める。掌底を繰り出す。


 猿は体格差があるのに、悠々と水樹の掌底を捌いた。


 水樹が流れるように攻撃を繰り出す。

 ユウトは水樹が戦っている間に細工をする。


 バナナの房に『(つぶて)()(ごとく)一』と最後に数字を入れ小筆で書いていく。


 攻守が逆転した。猿が攻撃に転じる。猿の攻撃は素早い。

 猿の攻撃が、ヒットしないものの水樹に掠る。


 水樹の厚手の服が鋭利な刃物で切られたごとく切れた。

 バナナの房に字を書きながら、分析する


(まずいな。技量は猿の脅威モンスターのほうが水樹さんより上か)

 二十房に文字を書き終えたユウトは、こそこそと猿の背後に回り込んだ。


 水樹が猿の攻撃に堪らず、距離をとった。

 一瞬の間ができた。ユウトは走り込んで背後から猿に斬りかかった。


 猿はユウトに背を向けていた。猿は躱せないと思った。

 だが、猿の尻尾が反応して剣に巻き付く。


 尻尾は鋼の鞭のように硬く、切れない。尻尾が力強く剣を引いた。

 剣を猿に取られた。猿が尻尾で掴んだ剣を優雅に握る。


 猿が一瞬、剣に書いてある文字を気にする。だが、猿は文字が読めないようだった。

書画(しょが)現身(げんしん)、礫之如一」とユウトは叫ぶ。


 礫之如一と書かれたバナナの房が、猿に目掛けて飛んで行く。

 猿はバナナの房を剣で斬った。


「書画現身、礫之如二」と、すかさずユウトは叫ぶ。

 礫之如二と書かれたバナナの房が猿に目掛けて飛んで行く。


 水樹はその間、攻撃を止める。武僧特有の気を練っているのだと理解した。

(ここは、水樹さんの攻撃準備が整うまで、バナナ礫で時間を稼ぐ)


 ひたすら「書画現身、礫之如〇」と唱えて、ひたすらバナナ房を飛ばした。

 猿は飛んでくるバナナの房を夢中で斬っていた。猿がバナナの汁でべとべとになる。


 体がバナナの汁で汚れるのを、猿は怒っていた。

「書画現身、礫之如二十」とユウトは叫ぶ。バナナ礫をすべて使い切った。


 猿が怒りの形相で顔に付いたバナナの汁を腕で拭う。猿が視界から消えた。

 気が付いた時には、猿はユウトの前にいた。猿が剣を振り上げて斬りかかった。


 (かわ)せなかった。ユウトの右肩を剣が打つ。激痛が走る。

 安物の剣はバナナの汁でいいだけ汚れていた。


 安物の剣にはユウトを斬るだけの威力が残っていなかった。

(痛たたた、骨は折れてはいないけど、(ひび)くらいは入ったかもしれないな)


 猿は剣を不機嫌に見ると、ぽいと捨てた。

 水樹が走り込んでくる姿が見えた。


 猿は軽く水樹に振り返る。ユウトと剣から目を離した。

「書画現身、飛来必中」


 ユウトが叫ぶと剣が猿に向けて飛んだ。

 猿は腰を軽く捻って避けようとした。


 だが、必中の文字が入っている剣は軌道を変える。猿の膝裏を突いた。

 剣に斬る威力はない。だが、猿の体勢を崩すには充分だった。


 腰を捻り、膝裏を突かれ、おかしな体勢に猿はなる。

 水樹は猿の前で大きく踏み込む。


 水樹は全身を(よじ)るようにする。身を低くして両手で掌底突きを放った。

 転身(てんしん)(けい)両手掌底突き。


 水樹の大技は隙が大きい。だが、体勢を崩された猿は攻撃を回避するのが不可能だった。

 水樹の攻撃がヒットする。猿は派手に飛んでバナナの木に激突した。


 距離を詰めて、これでもかと拳で水樹が滅多打ちにする。

 背後を詰められた猿には、水樹のラッシュを回避できなかった。


 回避できないと、体格差による不利は埋めようがない。

 水樹の攻撃が終わると、猿にはずるずると木を滑り落ちた。


 水樹が怖い顔で告げる。

「ふー、なんとか、練った気が尽きる前に片が付いたわね」


 水樹は大量に発汗していた。水樹がふらっとする。

 猿から水樹が目を離した瞬間だった。猿から大量の黒い煙が立ち上る。


 黒い煙がバナナ園の上空を覆った。

「しまった、脅威モンスターのトラップよ」


 白い猿がにんまりと笑う。白い猿は、そのままミイラ化した。

「最期の力を使ってバナナ園をまた異界に閉じ込めたのか」


「そのようね。やられたわ」

 バナナの木から黒い靄が立ち上る。バナナの木は(しな)びて、実は腐り、地面に落ちた。


 水樹がしゃがんでバナナの実を調べる。水樹は悔しがった。


「バナナの実が食べられなくなったわ。おそらく、井戸水も樹液も飲めなくなっているはず。私には秘儀石がある。でも、再使用まで、かなり時間があるわ」


「従業員ごと纒めて、渇き死にさせようって魂胆か」

 水樹が悲痛な顔をする。


「参ったわ。私は大丈夫かもしれない。だけど、衰弱している従業員は助からないわ」

「そうでもないよ」


 水樹が怪訝な顔をする。

「何よ。何か、秘策でもあるって主張するの」


「おほん、謙虚を司る秘儀石よ。我の掌中に現れて奇跡を起こせ」

 ユウトの右手から謙虚の秘儀石が現れる。秘儀石は光ると、柱となり天を突いた。


 みるみる暗雲が晴れる。空には夕焼け空が広がっていた。

 唖然とすると水樹に伝える。


「脅威モンスターを欺くために、黙っていて、ごめん。僕は謙虚持ちなんだ」

 バナナ園の外を確認する。バナナ園の外は物質界だった。


 かくして、バナナ園に巣くう脅威モンスターは退治された。

 だが、バナナ園のバナナは腐った。


(参ったな。脅威モンスターのせいだけど、バナナ園のバナナをほぼ腐らせたぞ。これは任務失敗になるのかな。使えない奴の汚名を返上したかったんだけどなあ)

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