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第六話 バナナ園の戦い(前編)

 ミッキーに監督者の家を聞いて移動する。

 家には鍵が掛かっていなかった。なので、そのまま使わせてもらう。


 夕方になると、バナナ園の就業員たちに動きがあった。

 バナナ園の従業員がのろのろと家から出てくる。


 従業員はそこら中になっているバナナを食べる。

 大人も子供も、食べに来るのがやっとの状態だった。


 バナナを食べ終わると、皮はそこら辺に捨てて家の中へと戻っていく。

 ユウトと水樹は用心のためにバナナを食べずに、保存食を食べた。


 保存食は多めに買って出たが、二人で食べれば三日分だった。

 夜、警戒のために、交代で眠る。


 何事もなく朝を迎える。朝になっても、バナナ園に変化はない。

 バナナ園の従業員はやはりバナナを食べに家から出てきて、バナナを食べて帰っていく。


 バナナ園の中をもう一度、捜索する。脅威モンスターは見つからなかった。

 だが、バナナ園の中で痩せこけた男の死体を付けた。


 男は剣を所持していた。腐乱が進んでいないので、死体はつい最近のものと思われた。外傷を調べる。だが、死因になった怪我は見当たらない。


 男は冒険者が持つ識別票を持っていた。バナナ園に監督に来た冒険者の一人だった。

 水樹が死体を調べる。


「死因は渇きによるもののようね」

 水筒を振って調べると、空だった。


「人間は水がない状態だと、一週間と()たない。でも、バナナ園には井戸がある。それに、バナナの木を傷つければ樹液だって出る。どうして、渇きで死ぬんだ?」


「わからないわ。死んでからバナナ園に放置されたにしては奇妙よ。死体を移動させた形跡がないわ」


「やはり、このバナナ園には秘密がありそうだね」

 工房に戻る。水樹は天井の梁の上を真剣な顔で見る。


 水樹は猿のような身軽さで柱を登った。

「水樹さん。どうしたの?」


「あったわ、脅威モンスターの偶像よ」

 水樹が何かを小脇に抱えて、柱をするすると降りてきた。


 持って降りてきたのは、高さ七十㎝ほどの木製の猿の像だった。

 猿の像を確認すると、どことなく禍々(まがまが)しい気配を感じた。


 水樹が自信たっぷりに語る。


「この猿の像を壊せば、異界化が解けるわ。ただ、像を破壊しようとすると脅威モンスターの妨害があるわ。だから気を付けて」


 話が簡単すぎる。バナナ園にはバナナ園を異界に閉じ込めた脅威モンスターがいる。

 簡単に見つかる場所に大事なアイテムを隠すとは理解しがたかった。


 だが、水樹は自信ありげに語っていた。

(とりあえず、壊してみるか)


 工房から出て、猿の像を火にくべる。猿の像が燃え上がると、白い煙が立ち上る。

 白い煙が天に届くと、バナナ園の上空を覆っていた黒雲が消えた。


 空には灰色の雲が広がっている。色合いは自然なものなので、普通の曇り空だった。

 黒い煙が消えると、ミッキーがやってくる。


「黒雲が消えましたね。これでバナナ園から出られるんですか?」

 水樹が明るい顔で告げる。


「異界化は解けたわ。脅威モンスターの妨害もなかったし。脅威モンスターの気配を感じたのは気のせいだったのかもしれないわ」


(水樹さん、騙された振りして演技をしているな。脅威モンスターが引っかかればいいんだけどな。付き合ってみるか)


「ラッキーもたまにはあるでしょう。これで、バナナを使った特産品を輸出できます」

 ミッキーが弱った顔で申し出る。


「作業監督に申し訳ないですが、食料を買いに行ってもいいでしょうか。いくら美味しくても、三食バナナで少し飽きてきたところです。肉とか魚の燻製とかが食べたいです」


(話に不都合はない。だが、ここで一人だけ村から出ていこうとする態度は、おかしいな)

「ミッキーさんは作業を続けてください。肉の調達には報告がてら、僕が行ってきます」


「そうですか。なら、お願いします。ただ、疲れが抜けないので二、三日、休みをください。どうか、お慈悲を」


(おや、素直に僕を外に出したな。これは何か怪しい)


「わかりました。休みの件は了承しましょう。水樹さん、そういうわけで、僕は近くの村まで行って、鶏肉なりチーズなりを買ってきます。水樹さんは村で待っていてください」


「いいわよ。行ってらっしゃい」

 水樹はあっさり承諾した。


(水樹さんは護衛の任務を引き受けてくれた。なのに、僕を一人で行かせてくれる。そんなところを見ると、水樹さんは僕の意図を組んでくれているな)


 ユウトは監督者の家に戻って装備を取ってくる。

 リュックから隠形のスクロールを取り出す。


 スクロールは畳んでポケットに入れておいた。


 隠形のスクロールは誰からも認識されなくなる魔法だった。隠形も魔法は脅威モンスターの眷属や従者には通用する。だが、脅威モンスターにはほぼ通用しない。用心が必要だった。


 バナナ園の外れまで行く。誰も見ていない状況を確認してから、隠形のスクロールを使った。ユウトはそっとバナナ園に戻る。


 水樹はバナナ園の従業員の健康状態を見ていた。

 隠れているユウトと水樹と視線が一瞬、合った。隠形の魔法を水樹は見破っていた。


 だが、自然な態度でユウトに気付かない振りをする。

 曇っていた空から雨が降り出した。雨はバナナ園に降り注ぐ。


 空を見上げればバナナ園の上空にしか雨が降っていなかった。

 おかしいと思い、バナナ園の外れに行く。


 雨が降っている場所と降っていない場所が、はっきりと分かれていた。

 バナナの木の下に行き、リュックから見鬼のスクロールを取り出す。


 見鬼のスクロールは、本来は目に見えないモンスターを見るものだった。

 異界化を隠していても見抜けた。バナナ園の外は、異界のままだった。


(バナナ園のあった地域だけが物質界に戻っていたのか。危なかった。外に出ていたら、僕は一人で異界のどこかに放り出されていた)


 渇きで死んだ男の死因もわかった。

 異界化している外には水はない。男はバナナ園に戻ろうとした。


 だが、バナナ園だけが物質界に戻ったので帰れなくなった。

 その後、男は死に、死んだ男の近くにバナナ園が転移してきた。


(あの男は、下手をすれば僕の未来図だったわけか)

 雨は少し降ると止んだ。周りにあったバナナの木に手足が付いて動き出す。


 バナナの木にモンスターが混じっていた。

 モンスターはバナナの木の十本に対して一本の割合で存在した。


 バナナ園の木は多い。なので、かなりの数のモンスターが隠れていた。

 モンスターがどこに行くのかを追った。モンスターはバナナ園の中央に向かっていた。


 バナナ園中央では、操られたバナナ園の従業員と水樹が戦っていた。

 素人なら三十人を相手にしても勝てる水樹だ。


 だが、さすがに無数のモンスター相手では分が悪かった。

 ユウトはバナナの木の陰に隠れる。出るタイミングを見計らっていた。


 わらわらと群がるモンスターを前に、水樹が叫ぶ

「献身を司る秘儀石よ。我の掌中に現れて奇跡を起こせ」


 ピンクに光る秘儀石が水樹の手の中より現れる。

 秘儀石が光ると、モンスターは靄のようになって、全て消えた。


(水樹さんが秘儀石の力を使った。これで安心した脅威モンスターが襲ってくれば、裏を掻けるんだけど)


 辺りは静まり返ったままだった。

 新たにモンスターが現れる展開もない。


 村人の誰かが起きて襲ってくる展開も、なかった。

(脅威モンスターの奴、用心しているな)


 水樹は村人の中に脅威モンスターがいないかを調べ始める。

 ユウトは襲ってきた村人の中に脅威モンスターはいないと踏んでいた。


(僕が脅威モンスターなら、たかだか三十人くらいの従業員の中には隠れない。もっと、数百本とあるバナナの木の中に隠れる)


 数百本のうち一本だけが脅威モンスターなら、探すだけでも大変そうだった。

 ユウトは見つけ方に心当たりがあった。


(蝿が死んでいた理由は、蝿がいると都合が悪いからだ。ないしは、蝿を嫌うからだ。バナナに蝿はたかる。脅威モンスターには蝿はたからない)


 ユウトは脅威モンスターの見つけ方がわかった。


(蝿は甘い匂いに誘き出される。周りのバナナから匂いが出ていれば、人間の鼻を誤魔化ごまかすのは簡単だ。だが、蝿は誤魔化せなかったんだろう)


 相手の姿恰好はバナナの木だが、脅威モンスターである。


(バナナは樹液が多い植物だ。でも、脅威モンスターはバナナの木の姿を真似ても、甘い樹液までは出せない)


 ユウトは監督者の家に行き、テーブルに紙を広げて文字を書く。

『樹液の出ないバナナの木を探せ』

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