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第三十二話 大師の硯

《伝説を狩る者》は、今回こそサイクロプスを倒せると思っていた。

《伝説を狩る者》は、祝勝会の準備をしていた。


 サイクロプス戦に参加した、ほぼすべての冒険者が祝勝会に参加した。

 祝勝会は《伝説を狩る者》のクラン本部がある草原の街、アイビーで行われた。


 アイビー郊外に設置された野外パーティ会場では、豪快な牛の丸焼きが振舞われる。

 ワインも飛ぶように消費された。まさに、飲めや歌えやの大騒ぎになった。


 ユウトは他の団員たちと親交を深める。楽しい時間は瞬く間に過ぎて、一次会は終わった。

 お土産を持ってバナナ商会に帰ると、イザベラが迎えてくれた。


「勝ったのね。おめでとう」

「ありがとうございます。これで前に進めます」


 ライアンがイザベラにお土産を渡す。ライアンは団員たちに尋ねた。

「これから、二次会行くが、どうする? 場所はいつもの店だ」


 ガイウス、水樹、ユウトが不参加を表明した。

 残りのメンバーはライアンに付きそって飲みに行った。


 ガイウスが首をくるくると回して、しんどそうに語る。

「さて、残務整理をするか。これが副長の仕事だ」


「さようなら、ガイウス副長」と水樹とユウトはガイウスに別れを告げる。

 水樹とユウトはバナナ商会を出た。


 ユウトは思い切って水樹に声を懸ける。

「ねえ、水樹さん。よかったら何だけど、これから軽く、二人で飲まない?」


「いいわよ。朝まで付き合ってあげるわ」

 ユウトと水樹は軽く飲む。その後、ユウトの宿屋で同衾して朝を迎えた。


 幸せだった。この幸せがいつまでも続けばいいと、ユウトは感じた。

 二人で身だしなみを調えて、バナナ商会に顔を出す。


 イザベラが笑顔で迎える。

「おはよう、ユウト、水樹。昨日は遅かったせいか、団長以外は、まだ来ていないわ」


「そうですか。ジャクリーンは起きていますかね?」

「起きているわよ。ジャクリーンは朝が早いから」


 二階に行く。イザベラの言う通りにジャクリーンはすでに起きていた。

 ジャクリーンが機嫌も良く話し掛けてくる。


「おはよう、ユウト。最後に残った課題をクリアーしたようね。ユウトからレジェンド・モンスターを倒した気配がするわよ」


「わかるんだね。なら、さっそく、クラフト作業時に成功率を上げてくれるかな」

 ジャクリーンが目をぱちくりさせて確認する。


「クラフト作業はユウトがやるの?」

「違うよ。専門の石工だよ」


「じゃあ、石工の所に連れて行って」

 ジャクリーンを連れて倉庫屋に行く。まず、倉庫から黒霊石を取り出した。


 ユウトはアラン石材店の御隠居を訪ねた。

 御隠居はジャクリーンを見ると、表情を崩す。


「おお、こいつは幸運の妖精じゃな。儂も長いこと石工をやっているが、お目に掛かるのは、これで四度目じゃな」


 ジャクリーンはご隠居の態度に気を良くしていた。

「私たちを知っているのね。好都合よ。なら、効果も知っているわよね」


 御隠居は明るい顔で応じる。


「知っておるよ。それにしても、ユウトは幸運じゃな。黒霊石を持ち、なおかつ、幸運の妖精の力も借りられるとは」


「では、挑戦していただけますか? 御隠居の腕を信じます」


「いいじゃろう。息子にやらせるには、ちと心配じゃから、儂がやろう。ただし、断っておくが成功確率は元が三%じゃ。あと、忘れるでないぞ。報酬はどちらにしろ、貰うからな」


「わかっています。お願いします。失敗したら運がなかったと諦めます」

「では、完成したらバナナ商会に伝えるから、待っておれ」


 どきどきしながら、結果を待った。

 二週間後、遣いの小僧がやってきた。


「ユウトさん、おめでとうございます。大師の硯ができました」

 水樹が笑顔で祝福する。


「おめでとう、ユウト。やったわね。大師の硯よ」

「よし、さっそく取りに行こう」


 水樹と喜び勇んで大師の硯を取りに行く。

 店頭で金を払って大師の硯を受け取る。


 硯は一見すると、武骨な硯。だが、それなとなく気品と、凛とした佇まいがあった。

 試しに魔墨を買ってきてスクロールを書いた。

 

 難しい書体の高級スクロールでも、すらすらと書けた。

 作成に一週間も掛かった、緊急脱出のスクロールでさえ、半日で書けた。


「すごい、さすが銘品だ。名がある魔筆家が欲しがるわけだ」

 スクロールを作成するユウトを見ていた水樹は、ちょっぴり不満そうだった。


「でも、何か、硯にユウトを取られたようで、ちょっと妬けるわ」


「そんなことないよ。僕にとっては水樹さんが一番だよ。でも、この硯があれば、もっと色んなスクロールが書ける。そうしたら――」


 水樹が気になったのか尋ねる。

「そうしたら、何よ?」


(水樹さんと思う存分、冒険の旅ができる)

 だが、ユウトの口から出た言葉は違った。


「バナナ商会の皆に、お手軽価格でスクロールを書いてあげられる。きっと、皆が僕を認めてくれる」


 水樹も愛想良く相槌を打った。

「そうね。他の団員も、ユウトを認めるわね」


 本当はユウトにとって、もう他人の評価なんて、どうでもよかった。

 水樹が見てくれれば、水樹が評価してくれるだけ良かった。


 ユウトは本当の想いを胸に秘めて。スクロールを書き続けた。

【了】


©2019 Gin Kanekure

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― 新着の感想 ―
[一言] まだまだこれからだという気がするが、お疲れ様でした。楽しく読ませてもらいましたよ。
[一言]  え?  ここで終わりですか。  残念です。もっともっと読みたかった。  楽しいお話をありがとうございました。
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