第三十一話 レジェンド・モンスター討伐
バナナ商会の一階で会議が開かれた。会議では初めてバナナ商会の十一名が揃った。
ガイウスが真剣な顔で議事の進行をする。
「それでは会議を始める。議題は十日後にあるレジェンド・モンスターの討伐だ。ライアン団長お願いします」
ライアンが真剣な顔で切り出す。
「《伝説を狩る者》から、レジェンド・モンスター戦をやるので援軍要請が来た。ただ、《伝説を狩る者》では、サイクロプスかギガロドン、どちらをやるかで決めかねている」
(ギガロドンもサイクロプスも手の内は読めた。次はどちらに行っても討伐できる。どちらでもいいが、できるだけ簡単に短時間で倒せるほうがいい)
難しかったり、時間が掛かったりすれば、死に繋がる。たとえ倒せても、死んでは元も子もない。
ライアンは言葉を続ける。
「どちらに行っても倒せるだろう。そこで、どちらに行きたいか意見を聞かれた」
水樹が困った顔で質問する。
「意見聴取はバナナ商会が秘儀石を持つからでしょうか? だとすると、問題があります」
ライアンは真摯な顔で水樹の意見を訊いた。
「何だね? 遠慮なく申告してくれ。後から問題視されるより、ずっといい」
「私の秘儀石は次のレジェンド・モンスター戦までには、使えるようにはなるでしょう。ですが、レジェンド・モンスター戦までに使う予定があるので、私の秘儀石は使えません」
ガイウスが渋い顔で尋ねる。
「秘儀石があるとないとで、戦況は大きく変わる。水樹が秘儀石を使う予定は先に延ばせないのか? 重要な点だ考慮してほしい」
水樹の表情は暗い。
「残念ながら延ばせません、私にも果たすべき義理があります」
ユウトには予感があった。
(水樹さんは《命の霊薬》に行かなくなった。移籍しない代わりに秘儀石を一回だけ使ってやる気だな。となると、団長が困るか。なら、僕の出番かな?)
ユウトは謙虚の秘儀石の存在を伝えるのに良い頃合いだと思った。
「団長。実は黙っていた事実があります。僕は謙虚の秘儀石使いです。十日後なら僕の秘儀石が使えます。僕の秘儀石を使ってください」
ガイウスが疑い半分で訊く。
「本当なのか? 違ったら、シャレで済まんぞ。二百人以上に迷惑が掛かるんだからな」
ユウトは堂々と言い放った。
「本当です。ギガロドン戦の時です。大きくなったギガロドンを元のサイズに戻したのは僕の秘儀石です。信じてください」
ライアンはユウトをしっかり見てから、信じた顔をする。
「わかった、信じよう。これでバナナ商会は、秘儀石を持ってレジェンド・モンスター戦に乗り込める。それで、だ。ユウトはどっちに行きたい? 希望を聞こう」
(ギガロドンは体力と攻撃力の化け物。サイクロプスは罠のあるフィールドを逃げ回る化け物。どっちに行くべきか、悩ましいところではある)
ユウトは決めた。
「レジェンド・モンスター戦は、サイクロプスに行きたいです。僕の硯の物語は、サイクロプス戦から始まりました。なら、サイクロプス戦で終えようと思います」
ライアンが決断する。
「わかった。バナナ商会はサイクロプス戦に行きたいと希望を出す」
三日後、イザベラから教えられる。
「ユウト、決まったわよ。次のレジェンド・モンスター戦はサイクロプスよ。良かったわね、希望が通って」
「ついに、ジャクリーンの最後の願いを叶える日が来ました。はりきって行ってきます」
ユウトはスクロールを作成しながら、決戦の日を待つ。
イザベラからバナナ運搬とギガロドン戦の報酬を貰った。
報酬で魔道具や魔法薬も買っておく。
サイクロプス戦の当日、バナナ商会は二階フロアーに集まる。
イザベラに見送られ、ククルーカン山脈に降り立った。
ククルーカン山脈の転移門に付近には、前回と同じ二百人近い冒険者が集まっていた。
水樹が力の入った顔で励ます。
「いよいよ、サイクロプス戦ね。勝ってジャクリーンの最後の願いを叶えましょう。それでもって、大師の硯を手に入れるわよ」
「でも、ジャクリーンの力を使っても、十%だからな」
水樹は明るい顔で励ました。
「十%あれば行けるわよ」
ガイウスが真剣な顔をして、ユウトに指示する。
「もう少しで戦闘だ。みんなの武具に魔法を掛けてくれ」
ユウトは魔筆を使い、バナナ商会全員の武具に魔法を掛ける。
魔法を掛ける間に、ライアンが説明する。
「サイクロプスがエリア移動した場合だ。各盆地に待機している捜索隊が戻ってきて、合流の魔法陣を張る。魔法陣に乗り遅れると危険だから、魔法陣を見たら、すぐに乗れ。いいな」
「はい」と団員全員が威勢良く返事をした。
ほどなくして、転移門の付近に青く輝く魔法陣が設置された。魔法陣の上に冒険者が次々と乗った。
冒険者は空を飛び、サイクロプスのいる盆地に向かった。
バナナ商会は前回と同じく、泥人形の相手をする役目だった。
泥の人形と戦っていると、呪われた雨が降ってくる。
ライアンに確認する。
「秘儀石の力で解除しますか?」
「いいや、合図がない。温存だ。結界で防ぐ」
前々回はバラバラに結界を張って、各個撃破されそうだった。
今回は冒険者が戦線をきっちりと決めていた。
限られた範囲で結界を張り、呪われた雨を防いだ。
サイクロプスの姿が消えた。泥の人形を戦っていると後方に魔法陣が出現した。
集団で移動して行き、魔法陣に乗る。ユウトたちは空を飛んだ。
盆地にいるサイクロプスの前に降り立つ。泥人形はいない。
空中で文字を書いて魔法を使おうとした。だが、魔法を発動しない。
(魔法禁止エリアだ)
武器は使えるので、剣や弓矢を持つ冒険者は果敢に戦闘を挑む。
魔法禁止エリアは想定されていた。なので、ユウトたち魔法を使う者はスクロール攻撃に移行する。
サイクロプスが逃げる。合流の魔法陣で追う。
今度は、武器でサイクロプスを傷つけられないエリアだった。
ここでは、戦士たちは魔道具で攻撃して、魔法使いが魔法で攻撃する。
再度、サイクロプスが移動する。
次は魔道具やスクロールが使えないエリアだった。ここは普通に戦う。
サイクロプスはその後も、泥の人形のエリア、魔法禁止エリア、武器で傷つかないエリア、道具禁止エリアを頻繁に逃げ回る。
どこまで追い駆けっこが続くのかと、辟易した。
サイクロプスが、今まで移動しなかったエリアに移動した。
呪われた沼地のエリア。絶えず瘴気が噴き出して冒険者はダメージを受ける。
だが、サイクロプスの傷は、どんどん塞がっていった。
ここはまずいと思うと、上空に花火が上がった。
「秘儀石だ、ユウト」とライアンの声が聞こえた。
「謙虚を司る秘儀石よ。我の掌中に現れて奇跡を起こせ」
ユウトの掌に現れた秘儀石が輝き、辺りを照らす。
沼からの瘴気の噴出が止み、サイクロプスの傷が塞がるのが止んだ。
これで勝った、と思うと空から黒い光が降ってきた。
途端に、武器は切れ味を失い。魔法は使えず、魔道具も封じられた。
冒険者の中から光が飛ぶ。黒い光が降り注ぐのは止まった。
(誰かが二個目の秘儀石を使った。ここで終わらせたい)
サイクロプスは往生際が悪く、さらなるエリア移動をしようとする。
ここでまた、光が飛びサイクロプスを打った。
サイクロプスはエリア移動を封じられた。
二分後、サイクロプスが絶叫して倒れた。
サイクロプスが倒れると、サイクロプスは光になり、辺りに散らばる。
光はエリアにいた全ての冒険者の体に吸い込まれた。
誰かが指示する。
「皆、かちどきの声をあげろー」
冒険者の中から歓声が上がった。
(やった、最後のお題もクリアーだ)
大師の硯への道が開けた。




